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『トリプルX』15年ぶりに“再起動”したワケ 時代を先取りした荒唐無稽アクションの魅力

2017年03月10日 10:43  リアルサウンド

リアルサウンド

『トリプルX:再起動』より

 祝! 『トリプルX:再起動』公開! ついにトリプルXが帰ってきた! 15年ぶり! しかも期待通りの、最高の映画として! とは言っても時の流れはあまりにも残酷なもの。1作目の時点では生まれていなかった人も多いだろう。そこで、今回はトリプルXとはそもそも何なのか? なぜ15年も前の映画の続編が今さらできたのか? 過去作を踏まえた上で、どう「再起動」したのか? ……トリプルXの歴史と今、そしてこれからについてまとめていきたい。


参考:『ザ・コンサルタント』は何故ここまで変な映画に?


 今も昔も、スパイ映画と言えば『007』だ。タキシードに身を包み、秘密道具にスーパーカー。世界の美女を抱きまくって、余裕綽々エレガントに悪党どもをブッ殺す。もちろん2002年もそうだった。そこに一石を投じたのが『トリプルX』(02年)。身に纏うはタキシードではなく、タンクトップにタトゥーと筋肉。不良っぽさと言うか、もっと言うならチャラさを押し出したのだ(奇しくもジェイソン・ボーンも同年公開だ。こっちもこっちで「スパイっぽくないスパイ」である)。ポスターの時点でどう見てもスパイに見えないが、ダメ押しのように冒頭、タキシードで秘密道具を持った“典型的なスパイ”が悪の組織が主催するRAMMSTEIN(ドイツの変態インダストリアル・メタルバンド)のライブ会場で殺害される。そして、ヤケクソになったスパイ組織のサミュエル・L・ジャクソンが「エレガントな人を送り込むとバレるから、いっそのこと不良を送り込もう!」……と、ヴィン・ディーゼル演じるXゲーム野郎ザンダー・ケイジをスカウトするお話だった。同作は世界中でスマッシュ・ヒット。当然シリーズ化されるものと思われた。


 ……が、そうは上手く行かないのが映画の都ハリウッド。ヴィンはゴタゴタの末に降板。代役としてアイス・キューブ主演で続編『トリプルX ネクスト・レベル』(05年)が作られた。この続編がある意味で本番だ。お話はトリプルXのスパイ組織が謎の特殊部隊によって壊滅させられるところから始まる。間一髪で脱出したサミュエルは「もう不良じゃダメだ。もっと危ない人にしよう」と英断を下し、刑務所の中のアイス・キューブをトリプルXに指名。そこからはもう話に歯止めが効かなくなる。事件の背後にアメリカを揺るがす巨大な陰謀があると判明すると、キューブは車泥棒の仲間たちに共闘を呼びかける。黒幕たちがアメリカ大統領暗殺を実行に移すや、「俺たちに盗めない車はないぜ!」と盗んだ戦車で街中を爆走! 最後はキューブらの活躍に感動した大統領が、ギャングスタ・ラップの巨星2PACのリリックを引用したスピーチを全米に発信、感動の大団円を迎える。闇雲な勢いと前作を遥かに超えるスケール感、そして荒唐無稽の極みのような物語は一部ファンを熱狂させた。しかし不思議なことにアメリカでは物凄い勢いでズッコケてしまい、日本ではDVDスルー。さらにシリーズは2作目にして打ち止めになってしまった。こんな楽しい映画なのに何故……そう悔し涙を流した者も多かったはずだ。


 しかし、捨てる神あれば拾う神あり。『ネクスト・レベル』の公開から月日が流れ、アクション映画界全体に新しい流れがやってくる。そのキッカケとなったのが、他ならぬ初代トリプルX=ヴィン・ディーゼル主演の『ワイルド・スピード』シリーズである。同シリーズは5作目以降から明確に“ヤンチャな仲間たちによる荒唐無稽な大アクション”を基調方針として打ち出した。車が巨大金庫を引っ張って街中を疾走し、飛行機を落とし、空を飛ぶ(予告で見る限り、どうも新作では潜水艦と戦うらしい)。まさに荒唐無稽の極みだ。しかし、どんなにメチャクチャをやっても、全てが終わればコロナビールで乾杯。この不良が遊びの延長で世界を救うノリは、全世界を熱狂させ、確実にアクション映画の流れを変えた。ところで……冷静に考えてみると、このノリは『ネクスト・レベル』にあったものではないだろうか? “ダチ”との友情、荒唐無稽なアクション、どんどんデカくなっていく陰謀、それを爆笑しながらブッ潰す不良の皆さん……ワイスピとの共通点は非常に多い。『ネクスト・レベル』は、いわば早すぎたワイスピだったのだ。むしろようやく時代が同作に追いついたとも言える!


 実際、『トリプルX:再起動』はオリジナルよりも『ネクスト・レベル』のノリで作られている。いきなり人工衛星が落ちてきたり、ネイマールが本人役で出てきたり、ドニー・イェンが窓から飛び込んできたりと、明らかに荒唐無稽度は上がり、同時にチーム戦である点を全面に押し出している。どちらも1作目では薄かった要素だ。オリジナルの主人公に、ともすれば無かったことにされそうな代役続編のノリ。そして、こういった過去の総決算に加えて「ある設定」の追加により、今後どんな人がどんな役で出てきても大丈夫な土壌もできた。これまでを踏まえた上で、これから更に自由に遊べる場所としてシリーズを再起動させたのだ。


 なお最後に付け足しておくと、「ほとんど同じじゃないか」と言われがちなワイスピと差別化できている点も注目だ。ワイスピは何が起きても最後は「家」に帰る物語になっている。一方のトリプルXは帰るべき「家」を持たない者たちの話だ。つまり死ぬまで危ないことをする人たちの話になっており、このためワイスピよりも遊び人感が倍増。チャラさは確実にこっちの方が強めだ。そう考えると1作目のチャラいスパイ映画というコンセプトを正しく継承しているとも言える。まさに偉大なるパーティーピーポー讃歌。是非ともシリーズ化して、ドンドン話をデカくして夢のようなキャストをブチ込んで来て欲しい。過去を清算し、今後の爆アゲを期待させる理想的な再起動作である。(加藤よしき)