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『就活家族』は今期ホームドラマで一人勝ち? 高評価の理由を考察

2017年03月10日 06:03  リアルサウンド

リアルサウンド

リアルサウンド映画部

 テレビ朝日系のドラマ『就活家族 ~きっと、うまくいく~』が、昨日3月9日に最終回を迎えた。三浦友和、黒木瞳、前田敦子、工藤阿須加の4人が演じる富川一家が、リストラ、就活難、家庭不和といった不幸の連鎖にはまっていき、家庭崩壊していく模様が描かれた同作。最終回では、洋輔(三浦友和)と水希(黒木瞳)の離婚問題や、栞(前田敦子)と光(工藤阿須加)がそれぞれ抱える悩みや葛藤が解決し、一度はバラバラになりかけた家族が再生していく模様が映し出された。


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 第8話の時点で9.53%を記録する平均視聴率は、前番組の『ドクターX』に比べるとやや物足りない印象がある。しかし、初回視聴率10.9%から最新話で5%と推移している『下剋上受験』(TBS系)や、平均視聴率4.97%の『大貧乏』(フジテレビ系)と並べると、今期のホームドラマの中ではまずまずの数字だったと言える。『下剋上受験』は日本テレビの金曜ロードショー、『大貧乏』は木村拓哉主演ドラマ『A LIFE~愛しき人~』(TBS系)と、それぞれ裏番組に強力な対抗馬がいたため、一概に視聴率を作品への評価と結びつけることはできない。だが、『就活家族』に関しては、内容的にも評価する声が高かった。


 ドラマフリークを自認するライター・麦倉正樹氏は、『就活家族』がヒットした要因は、“特定のターゲットを狙った物語”と“感情移入しやすい設定”にあると解説する。


「『岸辺のアルバム』を彷彿とさせる辛口ホームドラマの王道パターンを、現代社会の風刺もいれて展開したことが成功の要因では。ホームドラマと言えば“家族愛”というテーマをドラマティックに描くパターンが多い中、『就活家族』では“リストラ”や“就活難”といった問題に向き合う人々を、リアルと空想を交えてバランス良く描いていました。家族全員が不幸になることはないものの、主人公の洋介、妻の水希、娘の栞、息子の光と、個々が抱える問題に親近感を覚えた視聴者は多かったはず。社会派ドラマとしての側面が、“悲惨な展開”と言われることもありましたが、家族の関係性がバランス良く描かれていたため、全体として好印象でした。父がリストラを家族に打ち明けない、娘が親のお金をこっそり拝借する、母親がホストクラブにハマるなど、“普通はありえないが絶対にないとは言えない”演出が散りばめられています。「自分に同じことが起きたらこうなるかもしれない」という視点で登場人物に感情移入できたのでは。逆に、運命じみたロマンスや突飛な展開は用意されていないので、若者が盛り上がるドラマというよりも、往年の辛口ホームドラマを好んで観ていた年代に向けて作られていたと思います。もっともリアルタイムでドラマを視聴している層をターゲットにしていたのが、継続的な視聴につながったのかもしれません」


 主演の三浦友和の演技も、絶妙だったと同氏は続ける。


「あらすじだけ読むと一家離散の暗い話に思えますが、三浦友和さんの飄々とした演技が、ドラマのトーンを全体的に明るくしていた印象があります。ステレオタイプの厳格な父親像でありながら、小物っぽい雰囲気や抜けている感じを巧みに演じていました。これは『スーパーサラリーマン左江内氏』の堤真一さんにも言えることですが、家族や周囲の人間からグチグチ言われながらも、家族のために頑張るお父さんは好感を持たれます。また、三浦友和さんは俳優としてのキャリアも長く、『就活家族』の視聴者層の中にも固定ファンがいたのかもしれません」


 中学受験に奮闘する親子の絆を描いた『下剋上受験』、エリート弁護士とシングルマザーが社会の不条理と戦う『大貧乏』、それぞれ“家族愛”や“正義”という壮大なテーマを扱っていた。一方で、『就活家族』は誰にでも起こりうる身近な社会問題や家族関係を一定のリアリティを持って描いていたため、視聴者の共感を得やすかったのかもしれない。


 前クールの『逃げるは恥だが役に立つ』も、生活に寄り添った社会派ドラマとしての側面が高く評価されていたように、昨今のドラマでは“リアリティ”や“親近感”をバランスよく加えるのがポイントになっていくのかもしれない。(泉夏音)