「いつか田舎でスローライフを」
そう思ったとしても、実際にどんな町があるのか、どのように生活していくのか想像がつかないのが実情だろう。そんな中、人材会社のビズリーチは3月8日、「第1回 地方創生まち自慢大会 聞け!魂の副町長ラップ!!東京の中心で郷土愛を叫ぶ」というイベントを開催した。
参加した町は、北海道天塩町、長野県飯綱町、鹿児島県長島町。第1部では各副町長によるまちの魅力プレゼンデーション、第2部では「地方創生ラップ大会」が行われた。この副町長ら、3人とも元官僚だという。おカタくサムいラップになると思いきや、会場は大いに盛り上がった。
この命を天塩にかけて/町を育てる手塩にかけて/試される天塩から地方創生
この「地方創生ラップ」は、パワーポイントでリリックを表示しながらラップを披露する「プレゼンラップ」、または「パワポラップ」という形式で行われた。審査員として登場した人気ラッパーのKENTHE390さんは、
「ラップは、初めてやる人がミラクルがを起こすときもある。今日は、絶対にまだ見たことのないラップが聞けると思うので楽しみです」
と期待を寄せた。
一番手は、天塩町の齊藤啓輔副町長(35)。天塩町は、夏には糖度14にもなる宇野牧場の牛乳や、天然のブリやサクラマス、天然記念物のイトウなどで知られる。そんな名産品を広めるべくミシュラン掲載店とのコラボや、海外への輸出も行っている。
齊藤副町長は「ラップは未経験だけど、まちのためにも体を張る」と話す。それを体現するように、フリースタイルで「北の果てからやってきたレペゼン北海道天塩町」とオーディエンスにお見舞いをかました。
「この命を天塩にかけて/町を育てる手塩にかけて/天塩の自慢はトロケッテ・ウーノ/他のやつとは一味ちがうの/それとめっちゃデカイ淡水魚/『イトウ』という名の幻のまさしく自然の恩恵/試される天塩から地方創生」
終了後、テンションMAXな齊藤副町長とオーディエンスでコール&レスポンス。ちなみに「トロケッテ・ウーノ」は、宇野牧場でとれる牛乳の味を楽しむことができる牛乳プリンのような味の飲み物だ。
総合戦略 人口ミッション/確実遂行 ぼくらのビジョン
続いてマイクを握ったのは、長島町・井上貴至副町長(31)。離島である長島町の売りは、人間も食べることができるエサで手塩にかけて育てた養殖ブリ。井上副町長もブリの被り物で登場し「缶詰にしたとしても天塩町より美味しい」と豪語する。同町では高校、大学10年以内に地元に帰ってきた奨学金返還を免除する「ぶり奨学金プログラム」など、独自の町興しも実施している。
井上副町長は「長島町の地方創生は2、3年後を目指しているけど、僕のラップは100年先を行ってますから」と煽る。
「長島といったらまず鰤/他で獲ろうなんてまず無理/次に登場赤土バレイショ/もちろん日本一のジャガイモ/総合戦略 人口ミッション/確実遂行 ぼくらのビジョン/はじまりはあなたが離島に遠出/OK? 長島から地方創生」
マイクを使わないという渾身のラップに興奮した会場は、副町長がラップを刻む前に言葉をかぶせて盛り上がっていた。終盤、熱くなりすぎてマイクを投げてキャッチするというパフォーマンスも披露。この様子にKENTHE390さんもびっくりしたようで、
「『こんなのあるのか!』と思った。お客さんが副町長の先を行く、新しいラップが見れた」
と興奮気味に語った。
地方創生なら飯綱/きっと言っちゃう「いいっすな~」
トリは飯綱町・小澤勇人副町長(31)。「日本のりんごの100個にひとつはウチ」という飯綱町。フランス政府の協力を得て林檎のお酒・カルバドスを作ったり、天皇陛下がご植樹された高坂りんごでシードルを製造したりしている。また、人口を増やすために誕生祝金などの制度を導入したり、町のPR活性化のために駅長にヤギを採用したりしている。
小澤副町長はスーツ姿にサングラスをかけて登場。「前の2人を超えるのは難しいと思うんですけど」と謙虚に答えながらも、やる気は十分のようだ。
「飯綱の自慢は、もちろんりんご /食べたらほっぺた落ちるぞきっと/なし もも さくらんぼ ブルーベリー/自然が育てた旨味がぎっしり/たくさん食べたらいろいろ遊ぼ/温泉 ゴルフにスノボ/地方創生なら飯綱/きっと言っちゃう『いいっすな~』」
最後の「いいっすなー!」は会場からも大きな声が上がり、一番の盛り上がりを見せた。3人のラップについて、KENTHE390さんは、
「普通に考えたら(ラップなんて)絶対やりたくないじゃないですか。そこに向けて本気で取り組んでいく姿とか、新しいものに取り組んでいる姿勢が若者に『あっ面白そう』と思ってもらえるんじゃないかなと思った」
と評価。このあとの表彰式では、一番食欲をそそられた「ベスト食べたいで賞」を長島町、「ベスト行きたいで賞」を天塩町、「ベスト遊びたいで賞」を飯綱町が受賞し、地方創生ラップ大会は大盛況の内に幕を閉じた。
「ただのプレゼンなら寝てた。ラップだから分かりやすかった」
今回ステージに立った3人は、ラップで若い人に地方の魅力を伝え、少しでも知ってもらうきっかけになればと考えているようだ。実際、終わったあと、会場の若い人から「興味を持った」「まちに行ってみたい」と声をかけられたという。キャリコネニュースは3人にラップを終えての感想を聞いた。
「最初は無茶振りだと思った」という天塩町・齊藤副町長。会場の盛り上がりについては「カタい人がラップをやるというギャップが効果的に使えたかも」と語る。長島町・井上副町長も、「何事にもチャレンジすると言う町の姿勢は伝わったのでは。何事も楽しんで、楽しいエネルギーを広げたい」と手応えを感じたようだ。
また、飯綱町・小澤副町長は「恥ずかしかったけど、短いラップの中に『りんご』『スノボ』などの言葉をちりばめることで感覚的に飯綱町の魅力が伝われば」と話していた。
イベントを企画したビズリーチ地方創生支援室、チーフ・プロデューサーの加瀬澤良年さんは、「Uターン・Iターン・移住相談会などがよく行われるが、全部同じようなものばかり。今までの常識を壊したかった」と話す。伝えたいことがあるが届かない、と悩んでいる地方自治体は多い。しかし自治体側が「やるのに勇気がいること」をすれば、必ず興味を持ってもらえるとこの企画を考えたという。
「自治体のトップに新しいことに挑戦できる人がいるまちって、魅力的ですもんね」
「正直ラップじゃなくて運動会や綱引きでもよかった」と言うが、ラップを制作するにあたって副町長から「まちの魅力が整理できた」とも言われたそうだ。
ラップを観にきた会社員女性(26)は「ラップってネガティブなことを言うものだと思っていたけど、まちの魅力をPRしていて斬新だった。ただのプレゼンなら寝てたけど、ラップだから分かりやすかった」と話し、副町長とラップという異色なコラボレーションを楽しんだようだ。
このイベントは他にも、エキシビションマッチとして社会人ラップバトル選手権「ビジネスマンラップ」の出演者たちが、各まちの応援ラッパーとしてフリースタイルバトルを行ったり、各町の食材を囲んで懇親会・相談会が行われたりした。
天塩町からはラップにも出た「トロケッテ・ウーノ」やチーズ、飯綱町からはさわやかな酸味がおいしいシードルや甘い味噌がきいた郷土料理のなすせんべい、長島町からは島内でしか飲めない焼酎・さつま島娘や天然ブリの缶詰などを振る舞われ、参加者は舌鼓を打ち、ほろ酔いで帰る人も見られた。