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F1 Topic:アロンソの「ホンダパワーユニットは時速30km遅い」は本当か?

2017年03月09日 19:50  AUTOSPORT web

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2日目の記者会見でホンダを批判するフェルナンド・アロンソ
まさに衝撃的な会見だった。3月8日のテストが終了した後、フェルナンド・アロンソが公然とホンダを批判したのだ。

「問題はひとつだけだ。パワーユニットだ。信頼性もないし、パワーもない。僕たちはストレートで時速30kmも遅い。すべてのストレートでだ。すべてのストレートで30km遅ければ、クルマのフィーリングをつかむのは難しい。僕はベストを尽くしている。自分のことを最高のドライバーだと信じている。今年はレギュレーションが変わって、勝つ準備ができていたのに……」

 ホンダがこのテストで信頼性に問題を発生させたのは事実である。またパワーという点においても十分ではないことは長谷川祐介ホンダF1総責任者も新車発表会の時点で認めている。 

「ベンチテストの段階でさまざまな問題があって、目標としていたパワーに達することができないまま、テストを迎えることになったことは事実です。それに対して、アロンソからも『ガッカリした』と言われていますし、われわれとしても自分たちの目標が達成できなかったことは非常に残念です」

 しかし、ドライバーもマシンも完璧で、ホンダのパワーユニットだけが悪いかのような発言に対しては、少し違和感を覚えた。例えば、アロンソが言う「すべてのストレートで時速30kmも遅い」は、明らかに事実と異なる。1回目のバルセロナテストでの4日間合計のスピードトラッブ順位は以下の通りである。

■第1回合同テスト・スピードトラップ
1位 ザウバー 332.3km/h
2位 ハース 331.2km/h
3位 レッドブル 330.2km/h
4位 フェラーリ 328.2km/h
5位 メルセデス 327.2km/h
6位 ウィリアムズ 324.3km/h
7位 ルノー 324.3km/h
8位 フォース・インディア 321.4km/h
9位 トロロッソ 317.6km/h
10位 マクラーレン 314.8km/h


 ただし、カタロニア・サーキットのスピードトラップはストレートエンドにあるため、速度は空気抵抗の影響を受けやすい。つまり、エンジンの馬力よりもウイングの角度によって速度が大きく変わるのだ。

 そのため、F1関係者たちは空気抵抗が受けにくく、かつスロットル全開で駆け抜けていく速度計測地点でエンジンの馬力を比較しているという。その地点はカタロニア・サーキットの場合、最終コーナーを立ち上がった直後にあるフィニッシュラインだ。

 かつてカタロニア・サーキットの最終コーナーは高速コーナーだったため、ダウンフォースがないと全開で通過できず、立ち上がりスピードにも影響を与えていたが、現在は手前にシケインができたため、ダウンフォースの有無に関係なく、だれでも全開で通過できるようになった。そのため、直後にあるフィニッシュラインはエンジンの性能を見るのに適した場所となっている。

 ただし、その地点での最高速のデータはテストでは公式には出ていないため、手元での集計によると最も速いのがウイリアムズの時速289kmで、最も遅いマクラーレンは時速268kmだった。つまり、最速チームと比較してもその差は21km。マクラーレンと10km以内のチームはほかにも数チームあった。

 21kmと30km……この差は一般の人にとっては同じだと思われるかもしれないが、F1の世界では大きな違いだ。そのことを認識したうえでアロンソが言ったとしたら、それは物理的な事実以外になんらかの政治的なメッセージが込められていたのだろう。

 ただし、アロンソとかつて仕事をした経験があるエンジニアによれば、「そうした政治的な動きをすることで、アロンソは、結果的に自分で自分の首を絞めてしまったというケースが過去に何度かあった」と危惧する。

 ちなみに3月8日は、テスト終盤にマクラーレンは空力のバランスをチェックするためにDRSを閉じたまま走行させていたことがわかっている。そのことをなぜアロンソは言わなかったのか。疑問が残る会見だった。