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雨のパレード・福永浩平が語る、ポップスとしての理想の音楽「入り口になるのがメロディーと歌詞」

2017年03月08日 20:53  リアルサウンド

リアルサウンド

雨のパレード

 雨のパレードが2ndアルバム『Change your pops』を発表する。中心人物の福永浩平はこれまでの取材でも「日本のポップスを更新したい」と繰り返し語っていたが、その想いをストレートにタイトルとして掲げた本作は、バンドにとってかなりの自信作であると言えよう。実際、エレクトロハウスやトラップの要素も取り入れて、さらに洗練されたサウンドデザインは、その自信を裏付けるに十分な仕上がりだ。


 また、本作は昨年リリースされたシングル『You』で示した「聴き手の人生に寄り添う」という意識が、全編に渡って反映された作品であるとも言える。つまり、雨のパレードは日本のポップスを変えようとしているだけではなく、聴き手であるあなたの人生も、本気で変えようと企んでいるのだ。優れた芸術表現がすべからく「問いかけ」であるとするならば、『Change your pops』という作品も、まさにそんな一枚である。(金子厚武)


・「ポップスって言葉に対する、ちょっとした嫌悪感をなくしたい」


ーー先日のグラミー賞の放送ってチェックしましたか?


福永浩平(以下、福永):まだ観れてないんですよ。僕、Flumeのインスタはフォローしてるんで、「Flume獲ったんだ」っていうのはびっくりしました。


ーーやっぱり、グラミーを観るとアメリカのポップスの底力を見せつけられるというか、ちゃんとメインストリームのアーティストが先鋭的な表現をして、それが評価されるっていうのはいいなって思うんですよね。だから、日本のポップスを変えるためには、まず権威のあるアワードが必要なのかなって思ったり。


福永:なるほど。グラミーにはやっぱり憧れがありますし、おっしゃる通り、日本にもああいうアワードがあったらいいなって思いますね。ただ、あれってちゃんと受け皿があるからこそ、アワードが成り立ってるっていうのもありますよね。まずはその受け皿を作りたいなっていうのは強く思ってます。


ーーちなみに、福永くんの2016年のベストは?


福永:2月に出たジャック・ガラット(『PHASE』。日本リリースは6月)がすごくよかったのと、あとはやっぱりBon Iverですね。もともとVolcano Choirを結構聴いてて、Bon Iverはそんなにしっくり来てなかったんですけど、『22 A Million』はマジでよかったなって。あの立ち位置にいる人が、前衛的な姿勢で音楽を作って、それがちゃんと受け入れられるっていうのは、すごくかっこいいなって思ったし、憧れもあります。Bon Iverの声だけのトラックがいいなって思って、アルバムに収録されている「speech」を作ったんですよ。今回のインタールードの3曲(残りは「perspective」と「intuition」)は、ポップスを更新していく上で必要な要素をタイトルにしてるんです。


ーー「ポップスを更新したい」ということはこれまでの取材でも話してくれていて、今回はそれがアルバムタイトルにも明確に表れていますね。


福永:ポップスって言葉に対する、みんなが持ってるちょっとした嫌悪感をなくしたいっていうのもありますし、自分たちはポップスだと思って曲を作ってきたので、ちゃんと受け入れられたいというか、時代に認めさせたいっていう気持ちがありました。洋楽しか聴いてない人たちにも「かっこいいじゃん」って思わせたいし、逆に洋楽を全く聴いたことがない人たちには「これもポップスって言っていいんだ」っていう感覚になってほしいなって。


ーー「ちょっとした嫌悪感」というのは、ポップスを価値の低いもの、軽いものとみなしている人が多いということ?


福永:多くの日本の人がそう思ってると思うんですけどポップスという言葉のとらえ方ですかね。海外のR&Bのシーンとかって、普通にポップスとしてみんな受け入れてるし、日本もそういう認識になることで、音楽シーンを底上げできればっていう強い想いがありますね。


ーーその考えはずっとぶれてないどころか、ますます強くなっているようにも見えます。『Change your pops』っていうタイトルは、今の日本の音楽シーンに変化の機運を感じているからこそ、このタイミングで強く打ち出す必要があったのかなって。


福永:タイミングに関しては、正直必死過ぎてあんまり意識はしてないんですけど(笑)、同年代のバンドたちから、少しずつそういうムードが出てきてるのは僕も感じてます。


ーーただ、雨のパレードは今ちょっと特殊な立ち位置にいるというか、主にインディーシーンで洋楽的なバンドが盛り上がりを見せる中で、一バンドだけ一足先にメジャーに来て、孤軍奮闘しているようなイメージもあるんですよね。


福永:インディーとメジャーを分けるつもりはないんですけど、今って自分たちの大好きなことを追求してるバンドが多くいるなって思うんです。ただ、そういうバンドたちがみんな大衆性を勝ち取りに行ってるかって言われたら、僕はそこはわからなくて。なので、僕らがその間に立って、橋渡しをできればすごくいいなっていうのは思いますね。


ーーちなみに、メジャーでやる意義として、プロデューサーを迎えたり、外部の人とコラボレートをするパターンも多いと思うんですけど、雨のパレードはここまで自分たちのみで制作を行ってきていますよね。そこに関してはこだわりがある?


福永:今までエンジニアの桑野(貴充)さんと一緒にやってきてるんですけど、他にシンパシーを感じる人とまだ出会えていないっていうのが正直なところで、ホントに自分たちの好きな音楽を理解してくれて、自分たちの知らないアプローチを持っている人とは、いずれやってみたいとは思ってます。とはいえ、やってみて悪い結果になるのは避けたいじゃないですか?だから今の段階では自分たちだけでやりたい音を追求して、形にしていくのがベターなのかなって。


・「新しい雨のパレードを見せられた」


ーーアルバムの全体像としては、2枚のシングルが軸になっている印象で、「You」で示した「聴き手に寄り添う歌」という部分と、「stage」で示した「ライブに対する意識」が全編に反映されているように思いました。まず、「stage」に関して確認すると、あの曲はタイトル通りライブを意識して作った曲だったわけですよね?


福永:もちろん、そうですね。「You」は僕らなりのバラードだったので、単純にその次はノリのある、スピード感のある曲にしたいなって。あと僕は「生で体感する」っていうことがすごく大事だと思っていて、映像や写真とは明らかに情報量が違うというか、ライブって特別なムードがあって、そこでしか感じられないものがあると思うんですね。そこにすごい神秘的なものを感じて、ホントにその夜だけですべてが変わってしまうんじゃないかっていう、その感じを曲にしたかったんです。


ーー確かに、去年渋谷CLUB QUATTROのワンマンで「stage」を初めて聴いたときは、福永くんの歌が音源以上にエモーショナルで、生の感動がすごかったことを覚えてます。雨のパレードはこれまでずっと生演奏にこだわってきたわけですが、ライブにおけるグルーヴの出し方に関してはどのように考えていますか?


福永:グルーヴ感って、それを出す原理はあるんでしょうけど、それこそバンドにとっては神秘的な部分というか、簡単には言葉にできないなって思うんですよね。ただ、僕らは今のところ同期を使ってなくて、生っぽくないことを生でやるっていうことにこだわってやってきたので、それによってグルーヴ感が出ていたら嬉しいなって思います。先輩のバンドマンとかにも、同期を使ってないことをよく思ってもらってて、「このまま行った方がいいよ」みたいなことを言ってもらえるんですよね。ただ、機械的なBPMに魅力がないかっていうとそうは思ってなくて、今回僕ドラムマシンを買って、「Count me out」とか「feel」はドラムマシンでビートを組んで作った曲なんです。もしかしたら、次のライブはドラムマシンとサンプリングパッドのみっていうシーンもあるかもしれない。


ーーそういった曲の影響源はどのあたりですか?


福永:Disclosureとかの影響はありますね。大きく言うと、エレクトロハウスってことになると思うんですけど、あのテンポ感とビート、シンセのフィルターの開き具合、踊れる感じのベースラインっていう。ずっとやってみたいと思ってたんですけど、今回ビートを組むことに挑戦して、やっとちょっと近いものが作れたかなって。こういうのを日本でやってるバンドってたぶんいないと思うし、うちのディレクターとも「ここは開拓していこう」って言ってるんで、もっとこういう曲も増えていくかもしれないですね。


ーーあとライブ映えしそうな曲で言うと、一曲目の「Change your mind」は比較的ストレートなビートと、シンセのループで引っ張る曲で、こういう曲も今まではなかったですよね。


福永:そうなんですよね、意外と新しい試みが詰まった曲になって、新しい雨のパレードを見せられたかなって。これはBPMちょっと速めで作ってみようってところから始まっていて。冒頭のバンドサウンドの部分は、3年半前くらいにパラ・ワンを意識して、ダブステップっぽいイメージで作ったものをくっつけたんです。あとは今トラップを歌ものに落とし込む流れがあるなって思って、それも挑戦してみました。サンプリングパッドで、ダイナミクスをつけない設定にして、うちのドラムが16分とか8分の三連符をそのまま手でやってるんです。吹奏楽部でよかったなって思いました(笑)。


ーーそっか、あれも生でやってるんだ。シンプルに盛り上がれそうな曲でもありつつ、雨のパレードらしいサウンド的なチャレンジも散りばめられた曲にもなってますよね。


福永:サビとかも、このアルバムで初めてダッキングをちゃんとやってみようと思って、バスドラのとこだけシンセの音が下がるみたいなのを意識してて、それは「Count me out」とか「feel」でもやってます。よりエレクトロハウスっぽくなったし、EDMは意識してないんですけど、そういうアプローチだったりもしますね。


ーー 一方で、「You」以降を感じさせる「聴き手に寄り添う歌」も増えた印象があります。リリースから半年以上経って、あの曲の重要度はさらに増しているのではないでしょうか?


福永:すごく難しい曲を作ってしまったなって思います(笑)。5分以上ほぼ歌いっ放しだし、ライブだとギターの倍音もベースのロウもすごくて、キーがわかんなくなっちゃったりするんですよね。ただ、自分の中ではほぼ完璧に近いというか、僕は大満足した曲なので、ホントはあれが爆発的に売れたら万々歳だったんですけど、ある先輩アーティストと飲んだときに、「自信があるやつほどそんなに売れないんだよ」って言われて、確かにそうなのかもって思いました(笑)。


ーーでも、「You」がバンドにとって重要な曲であることは間違いなくて、サウンドの充実度ももちろん、あの曲がある種昔の自分に訴えるような曲だったからこそ、今回で言う「Take my hand」だったり、「Hey Boy,」だったり、キッズに呼びかけるような曲ができたのかなって。


福永:「Take my hand」は全国民の兄になったつもりで書いた曲です(笑)。自分たちとしては珍しく、トニック始まりで作った曲なんですけど、80sポップスの今まで出せなかった雰囲気というか、全然通ってないんですけど、僕の中ではTOTOとかスティングっぽいイメージで、楽しんで書いた感じですね。


ーー「国民のお兄ちゃんになろう」と思ったのは何で?(笑)


福永:単純に、オケ自体が楽しんで書ける感じだったので、リビングでスピーカーから流して、〈涙を拭いて〉とか〈もう僕ら ママに頼れないぜ〉とか、楽しみながら書いたような感じなんですよね。


・「『変えられるんじゃないか』っていう気持ちで作るっていうことが大事」


ーー雨のパレードは音はクールなんだけど、言葉はホットなのも魅力ですよね。この感じって、いわゆる洋楽的なバンドにはあまりないから。


福永:バンドのテーマとしては、自分たちの思う今一番かっこいい音を楽曲にどんどん入れていくっていうのがあるんですけど、その入り口になるのがメロディーと歌詞だと思っていて、より多くの人に届く歌詞にしたいっていうのは意識して書いてますね。


ーー海外のアーティストとかも、サウンドはエッジーなんだけど、歌詞ではストレートに心情を吐露していたり、愛を歌ったりしていて、そういう部分でも影響はあるのかなって。


福永:昔ラウル・ミドンをすごく聴いてたんですけど、ラウル・ミドンの歌詞を見たときは、「こんなストレートなこと歌ってるのか」って、ちょっとショックだったんですよ(笑)。なので、いいバランスを狙いたいとは思ってるんですけど。


ーー時代感的に、「今ストレートなメッセージを歌う意味があるんじゃないか?」と感じていたりもしますか?


福永:バンドを始めた当初からそうなんですけど、他とは違う立ち位置でいたいというか、自分たちしかやってないことを追求したいっていう気持ちが強くて、アートっぽい歌詞で、洋楽的なことをやってるバンドは他にもいるけど、自分たちはそことは違う立ち位置にいたいと思うので、そういう意味では、時代も関係しているとは思いますね。


ーー周りに合わせるのではなくて、他とは違うことをやることこそが、本当のポップスを作っていくっていう提示になっているとも言えそうですね。「聴き手に寄り添う」という意味で、ボーカルについてはどんなことを意識しましたか?


福永:今回は僕が弾き語りで先にサビメロを作って、そこから作っていくスタイルが結構多かったんです。「やっぱり歌が一番大事」っていうのはもともとメンバーみんな共有してたんですけど、それが上手く出せるようになってきたのかなって。あとレコーディングに関して言うと、「You」以降は自分とエンジニアさんだけで、自分がいいと思うニュアンスのものを大事にするようになったので、そこも大きいと思います。いい意味でタガが外れたというか、思いっ切りやれてる気がします。
ーーピッチではなくて、ニュアンスやエモーションを大事にするようになったと。歌心を大事にする福永くんにとって、それも重要な変化でしたね。では、最後にもう一度、『Change your pops』というタイトルについて話をさせてもらうと、日本のポップスを変えるために、まずはいい音楽を作るということが大前提にある。その上で、最初に話してくれたように「受け皿を作る」ためには、他にどんなことが重要になってくると思いますか?


福永:一バンドですべてが変わるかって言われたら、僕はそうではないと思っていて、今の時代はそれぞれのバンドが自分たちのポップスを鳴らそうとしていて、だからこそ、時代が変わりそうなムードが何となくあるわけじゃないですか? そういう今のムードが僕はすごく好きで、「このまま変えられるんじゃないか」っていう気持ちで作るっていうこと自体、すごく大事なのかなって思います。あともうひとつ大事なのは、聴き手一人一人も変わることというか、「Hey Boy,」っていう曲は、過去の登校拒否をしていた自分と会話をしている曲なんですね。何かのきっかけで人は変われるはずで、『Change your pops』を聴いて、それぞれが変わってくれれば、もしかしたら、日本のシーンを底上げできるのかもしれない、と思ってます。


ーーこの作品はある種の問いかけであり、重要なのはこれを聴いた一人一人がどう受け止めるかだと。2017年を通じて、この作品が日本のポップスのムードをジワジワ変えていくことを楽しみにしています。


福永:去年も激動の一年だったんですけど、雨のパレードを聴いてくれてる人たちから、「2017年が飛躍の年だったね」って言われるような年にしたいですね。そのためにも、もっと自分たちのやりたい理想の音に近づきたいなって思います。
(取材・文=金子厚武)