トップへ

SuG、ベスト盤から振り返る10年の歩み「SuGというアートフォームの中でなら何でもあり」

2017年03月08日 18:13  リアルサウンド

リアルサウンド

SuG(写真=下屋敷和文)

 今年、結成10周年という大きな節目を迎えるSuGが、その活動の軌跡を網羅したベストアルバム『MIXTAPE』を3月8日にリリースする。メンバー自ら選曲した全18曲が、まるでライブを意識したような絶妙な曲順で並べられた本作は、単に時系列で並べられたシングル集とは一線を画す、こだわりの1枚となっている。それにしても、こうして改めて聴くと、彼らのポップセンスやアレンジ能力の高さ、並外れた演奏能力が、10年前から終始一貫していることに驚かされる。彼らのストイックなまでの「美学」に、ようやく世間が気付き始めたということだろうか。


 今回はアニバーサリー企画ということで、1曲ずつコメントをもらいながら当時を振り返ってもらった。メンバーたちの和気藹々とした雰囲気が伝われば幸いだ。(黒田隆憲)


■「MISSING」は過酷なMV撮影の1位


ーー今回、SuGのデビュー10周年記念となるベストアルバム『MIXTAPE』がリリースされます。ここに収録された18曲はどのように選びましたか?


武瑠(Vo):選ぶのは本当に大変だったんですけど、通常盤に関しては、自分たちにとっての「ベスト・オブ・セットリスト」みたいな。なので、単に時系列で楽曲を並べていくのではなく。ライブのような流れを意識した曲順にしましたね。


ーーせっかくなので、今回は1曲ずつコメントをもらいたいのですが、まずはSuGのメジャーデビュー・シングル曲「gr8 story」(2010年1月27日)でアルバムは幕を開けます。


yuji(Gt):この曲は、アニメ『家庭教師ヒットマンREBORN!』(テレビ東京系)のエンディングテーマに起用されたんですけど、実際にテレビで流れた時にはメチャメチャ感激しました。


shinpei(Dr):あれは感動したね。


yuji:この頃が一番、希望に満ちていたかもしれない(笑)。てか、めちゃめちゃ忙しかった。毎日、このポニーキャニオンの会議室に来て、早朝から夜遅くまで取材や撮影をやってました。


masato(Gt):3日くらい通ってたよね。他にもラジオ局へ行ったり、レコード店を回ったり。


ーー「R. P. G.~Rockin' Playing Game」(2010年9月1日)は、メジャー3枚目のシングル曲ですね。


Chiyu(Ba):アニメ『FAIRY TAIL』(テレビ東京系)のオープニングテーマに選ばれた曲です。ジャケットのアートワーク用ということで、原作者の真島ヒロ先生に、SuGのイラストを描き下ろしていただいたんですよ。あれはすごく嬉しかったですね。俺、めっちゃ足長く描いてくださってて(笑)。てか、レコーディングや制作のことってほとんど覚えていなくて、こういう楽曲にまつわる記憶が真っ先に蘇りますね。


shinpei:基本的にレコーディングって、毎回同じスタジオでやっているからね。なかなか記憶に残りづらい。シングルとかリリースされても、「あれ? これっていつレコーディングしたっけ?」って思うことが多いです。


yuji:特にシングル曲は、「これはシングルになりそう」という曲を、一日二日かけて一気にまとめてレコーディングしていた時期もあったんですよね。確かこの曲も、まとめて録ったデモのうちの一つだったと思う。それを聴いてみて、「『FAIRY TAIL』の世界観に合いそう」ということで選ばれた記憶が。


ーーじゃあ、楽曲を書くペースもこの頃は凄まじいものがあったんじゃないですか?


Chiyu:すごかったです。レコーディングして取材してリリースしてツアー、みたいな(笑)。それを延々と繰り返す日々でしたね。しかも、そうやって新曲がどんどん増えていくのにライブの本数が少なくて。「やらない曲が増えるのは、もったいないな」と思ってました。シングルのカップリング曲とか、一度も日の目を見ぬまま埋もれてたりするよね(笑)。1回だけライブでやって、それっきりとか。「一体、何のために作って録音してるんだろう」って思ったこともあった。


yuji:そのうち、「だったらもう、ライブでの再現とか一切考えずに作ろう」という話になったこともあったね。


ーーライブを想定しない曲作りも、それはそれで楽しかったりするんじゃないですか?


武瑠:メチャクチャ楽しかったですね。


ーーメジャー8枚目のシングル曲「不完全 Beautyfool Days」(2012年2月1日)はどうでしょう。


shinpei:MV撮影の時、Chiyuくん熱出さなかったっけ? 


Chiyu:そんな気がする。撮影が進むにつれてどんどん熱が上がっていって、家に帰った時には39度くらい出してた。


shinpei:あと、yujiさんがギターのストラップが外れて床に落として、ギターが壊れて「もう帰る!」って言ってたのも覚えてる。


(一同笑)


Chiyu:MVの撮影のことも結構、印象に残っているよね。この曲は確か多摩川で撮影だったんだけど、待ち時間に『さや侍』(松本人志監督作:2011年公開)を、DVDで最後まで観たのを覚えてる。


shinpei:マジで? 全然覚えてない!


武瑠:MV撮影の待ち時間に観るなら、今は『ウォーキング・デッド』だよね(笑)。


ーー「MISSING」(2014年2月19日)は、活動休止を経ての復活第一弾シングル表題曲です。


masato:これこそMVの印象が強いですね。監督は二階健さんだったんですけど、撮影現場が群馬県高崎市の山の中で。寒い上にすごく長かった。朝8時に入って、実際の撮影は夕方から始まり、終わったのが翌日の昼12時くらいだったかな。


Chiyu:朝方が確か氷点下1度くらいだったんですよ。そんな中、衣装は上がTシャツ1枚。タンクトップのメンバーもいたよね。その格好で、廃車の中に1時間くらい座ってたんです。もうずーっとガタガタ震えてましたね。それでも「よーいスタート」の合図で、みんなちゃんと演技して。


武瑠:メンバーを廃車の中に残したまま、スタッフ全員車の中に避難してたよね。それでも文句言う余裕もなく....「このまま凍死もあり得るな」と思いました(笑)。しかも、それで体が完全に冷え切ったまま、帰宅したらガスが止まっててお湯が出なかった。その時に初めて「結婚願望」が芽生えました。「だれかが待つ、あったかい家に帰りたい...…」って。


shinpei:(笑)。間違いなく「過酷なMV撮影」の1位だったよね、あれは。


Chiyu:活休明け一発目の撮影がこれってすごいなと思うけど、活休明けで「よっしゃ、頑張るぞ!」っていう風に気合が入ってたから何とか乗り越えたのかもしれない。あの撮影が活休前だったら、「もう二度とSuGなんてやるか!」ってなってたよ。


(一同笑)


■新しい扉を開いた「sweeToxic」


ーー次の「KILL KILL」(2016年11月2日)は、メジャー2枚目のミニアルバム『SHUDDUP』収録曲であり、最新シングル曲ですね。ツイキャスでの緊急生配信で、歌詞のアイデアをファンに募って話題になりました。


武瑠:そういう意味でも、ファンと一緒に作ったという気持ちが大きいですね。制作段階から楽曲を見せていくという、新たな試みも印象に残っていますし、ずっと一緒にやりたかった増田セバスチャンさんにMVの監督をお願いしたりして、とても思い入れのある曲です。あと、歌詞が原因でUSENで流せなくなったのも、話題作りという意味では思惑通りでしたね(笑)。


ーーこの曲は「怒り」がモチベーションで生まれたとおっしゃっていましたね。


武瑠:僕は「怒り」のエネルギーが、他の人の10倍くらいあるんですよね。イライラすると歯噛みするので、奥歯とか10箇所くらい割れてる(笑)。体に支障が出るくらい「怒り」が湧くんですよ。年末に頭にくることがあって、今も3カ所くらい割れてるし。


Chiyu:お前、ヤベエな(笑)。


武瑠:それがポップな楽曲へと昇華されてるから、音楽をやっててほんと良かったと思います。


ーーメジャー9枚目のシングル『sweeToxic』(2012年9月19日)表題曲はヘヴィなダンスチューンで、SuGの音楽性が広がった感がありますよね。


武瑠:ですね。この曲は新しい扉を開いた感じが自分たちでもありましたし、周りの音楽的評価も変わった気がします。


Chiyu:実はこれ、Folder5と、太陽とシスコムーンにインスパイアされて作った曲なんですよ(笑)。関係者とか、バンド仲間にもすごく評判がいい。動画再生数も、海外からのアクセスも多かったんですよね。「こういう曲をやってもいいんだ」と思って嬉しかった。


shinpei:海外ではインディーズ時代の楽曲と、最近だと「sweeToxic」が人気あって。MVも含めて、SuGのイメージってこんな感じなのかなと。


武瑠:この曲は、おそらく男性にウケがいいだろうなと思ったので、MVはあえて女の子たちに喜んでもらえそうな可愛い雰囲気にしたんですよね。そういういろんな要素が入ったゴチャゴチャ感が「SuGらしさ」につながっているのかもしれない。


ーー「Vi-Vi-Vi -Rebirth ver.-」(2008年5月14日)は?


武瑠:オリジナル・バージョンは、インディーズ時代に出した4枚目のシングルなんです。この曲が入った僕らの最初のフルアルバム『nOiZ stAr』は、今考えると超駄作(笑)。色々トラブルがあって、制作期間が全然取れなかったんですけど、そういう状況で納得のいくものを作り上げるだけの力量が、当時の自分たちにはまだなかったんですよね。


yuji:出来上がった時には、そこまでひどいアルバムだと思わなかったんだけどね。しばらくして聴き返してみて唖然とした(笑)。でも、そんな中で「Vi-Vi-Vi」はずば抜けて良い曲だったから、メジャーデビュー後に再録してシングル『不完全Beautyfool Days』初回限定盤Cに収録したんです。


武瑠:「Vi-Vi-Vi」は誰が聴いても名曲なのに、当時は思ったようなリアクションが得られなくて。「やっぱり俺たちはインディーズじゃなくて、メジャーで勝負すべきだ」と改めて思いましたね。自分たちの音楽を、どうやって届けるべきかについても改めて考えさせられました。


ーーこうやって初期から最近までの楽曲を「ベストアルバム」という形でランダムに聴いていると、SuGのメロディセンスやポップ感覚が、最初から全くブレてなかったんだなということに、改めて気付かされますね。


武瑠:多分、やりたいこと、やろうとしてたことはずっと同じだったんですけど、納得のいく楽曲を出せる確率が、初期はまだ低かったんでしょうね。なので、アルバム単位で聴くとムラがある(笑)。


Chiyu:当時はやり方がまだよく分かっていなかったのかもね。アイデアは頭の中にあっても、それを具体的な形に落とし込むスキルがなかったというか。それを、Tom-H@ckさんと出会って教えてもらったり、手探りで進みながら、自分たちなりに身につけていったりした10年でした。


ーー「桜雨」は、ミニアルバム『VIRGIN』(2016年3月9日)のリード曲でしたね。


武瑠:この曲は、活休した直後にサビのメロディと歌詞が浮かんできて。温めておいたものです。元々は、僕のサイドプロジェクト「浮気者」のために書いていたんですけど、「浮気者」の活動がなくなったので、SuGの選曲会に持っていって採用された曲。


Chiyu:このMVは、バンドの演奏シーンがほとんどなくて、ストーリー仕立ての映像が中心になっているんですけど、「こういう見せ方もあるな」と思わせてくれた楽曲ですね。僕らが演奏しない曲があってもいいし、SuGというアートフォームの中でなら、何でもありだなと。そういうのって、普通のV系バンドではあり得ないことだと思うけど(笑)。


ーー「無条件幸福論 -Rebirth ver.-」(2010年11月17日)は、「DVDシングル」としてリリースするという、ちょっとイレギュラーな楽曲でした。


武瑠:この頃は、SuGのグチャッとしたポップさを前面に打ち出そうとしていた時期だったので、普通の恋愛をテーマにした楽曲を出すのが嫌だったんですね。その結果、こういう形でリリースすることになったんですけど、今考えると普通にCDシングルを作っておけば良かったと思います(笑)。


shinpei:バラードをシングルで出すっていうことへの抵抗感もあったんだよね。


武瑠:そう。実はまだ、バラード曲ってシングルでは1枚もないんですよ。


masato:何度か出す機会はあったんだけどね、「今は違うだろう」ということになって流れるパターンを繰り返してる。


武瑠:バラードに合うような映像が思いつかないんですよ。結局そこなんですよね。常に「いい映像が撮れるかどうか?」で、シングル曲を選んできた気がします。考えてみれば、19歳の時からずっとそのやり方なんですよ。我ながらよく続けてきたなあと(笑)。


ーー「teenAge dream」(2015年7月15日)は?


武瑠:この曲は、退院して3日後に作った曲なので印象に残っています。扁桃腺の切除をして、声が出ない状態で作ったら面白いんじゃないかと。比喩でもなく、本当に血を吐きながら作ったんですよ(笑)。


■10年続いたのは5人のバランスが取れていることが大きい


ーー(笑)。SuGの名前が一気に知れ渡ったのは、やっぱりメジャー6枚目のシングル曲「☆ギミギミ☆」(2011年6月15日)からですかね?


shinpei:この曲はダブルタイアップをいただいて、特に『お願い!ランキング』(テレビ朝日系)のエンディングテーマに起用されたのは大きかったですね。いろんな人たちに言われましたから。


Chiyu:“ギミギミ”というフレーズの覚えやすさやインパクトも大きかったと思うよね。街を歩いてると、「あ、ギミギミだ」って言われることもあるし。


(一同笑)


武瑠:あと、このMVって震災直後に撮影があったんだよね。原発事故の映像がTVでずっと流れてて、現場でそれを不安な面持ちで見ながら、いざ本番になったらキラキラした表情で「☆ギミギミ☆」を歌ってた。確かフォトブックの撮影も震災直後にあったんですよね。当時、震災を理由に活動を自粛するバンドが沢山いた中、僕らはちゃんと仕事をやり通したっていうことは今でも誇りに思っていますね。


ーーすごくいい話です。終了の時間が迫ってきたので少し早足でいきますね。 13枚目のシングル表題曲「SICK'S」(2015年12月16日)は?


武瑠:この曲は、復活以降でもっとも「SuGらしさ」を出せた曲、MVであるかなと。踊れる曲調なんだけど、サウンドにも歌詞にも少し毒が入ってて。でも、全体的にはポップに仕上がっているところが、インディーズ時代の「Love Scream Party」や、「sweeToxic」から受け継がれてきた「SuGらしさ」なのだと思いますね。


ーー「mad$Hip」(2011年3月9日発売のアルバム『Thrill Ride Pirates』収録)はどうでしょうか。


武瑠:この曲あたりから、原宿の若いクリエーターとどんどんコラボしながらMVを作るようになっていった気がしますね。あと、初めて執筆した小説の題材がこの曲だったので、そういう意味でも印象深いです。


ーー「Howling Magic」(2012年4月25日発売のアルバム『Lollipop Kingdom』収録)は?


武瑠:これは、初めてギターで作った曲ですね。確かエピフォンのギターを購入して、その勢いで作ったと思うんですけど、何故あの忙しい時期にギターを買おうと思ったのか全然覚えてない。活休の時も30万くらいするPRS(ポール・リード・スミス)のギターを買ったことがあって。「ニートのくせに何やってんだ」って自分で思いました(笑)。それはともかく、この曲をギターで作ったことで、初めてコード進行のこととか考えるようになったかもしれないですね。それに、自分で作った曲の中では一番好きです。


ーインディーズ・ファーストミニアルバム『I SCREAM PARTY』(2007年12月19日)に収録されていた 「Love Scream Party -Rebirth ver.-」は、「sweeToxic」や「SICK'S」に繋がる楽曲と先ほどおっしゃってましたが。


武瑠:でも、この曲の時は「衝動」で作ったとしか言えない(笑)。


makoto:ほんとそうですね。バンドの初期衝動の代表曲みたいな感じ。


武瑠:「今、俺が考えうる最もポップな楽曲を作ろう」と思って書いた曲。頭の中には完成図が出来上がっていたんだけど、それをどう落とし込むかが分からなくて。バンドの力を借りて、なんとか形にした楽曲。期待通り反響も良くて、これでワンマン公演ができるようになったんですよね。


ーー「小悪魔 Sparkling」(2010年6月30日)はメジャー2枚目のシングル曲で、SuG史上初のオリコントップ10入りを果たした曲です。


武瑠:この曲、「オリコン7位に入る気がする」って予言してたらその通りになった(笑)。別に手応えがあったとかそういうわけじゃなくて、ただ何となくそう思ったんですよ。


yuji:「お告げ」ってやつ?(笑)。でも本当に7位になったからビックリしましたね。


ーーメジャー11枚目のシングル表題曲「CRY OUT」(2014年11月19日)は?


shinpei:この曲はほとんど記憶ないなあ。


Chiyu:俺もそうだな。MVの撮影現場にベースアンプを持って行ったら、床に水を撒かれたことしか覚えてない(笑)。


ーーそういう曲もあると(笑)。そしてラスト、「Smells Like Virgin Spirit」(『VIRGIN』収録)は?


武瑠:この曲は、レコーディングした直後にヨーロッパツアーへ行ったので、日本では一度もお披露目しないまま向こうで育てていったという、今までにやったことにないパターンでしたね。


ーーNIRVANAへのストレートな愛情がこもった曲ですけど、向こうでの手応えはどうでした?


武瑠:すごくありましたね。あのヘヴィなギターリフって、やっぱり万国共通なんだなと思いました。


ーーはい、これで全曲ですね。お疲れ様でした(笑)。今年は武道館公演も控えていますよね。前回のインタビューで、「武道館で絶対にやりたい」とおっしゃっていましたが、今の心境や意気込みを聞かせてもらえますか?


武瑠:この10年、いろんな思いを抱えながらバンド活動を行なってきて。活休~復活を経て、「俺たちが今やるべきなのは武道館公演だ」と思った。なので、今までの全てをかけて挑むつもりです。


shinpei:今回、バンド結成10周年ですからね。3月からの全国ツアーも含めて、いろんな形で盛り上げていけたらいいなと思っています。


ーーでは最後に、SuGというバンドが10年続いたのは何故だと思いますか?


Chiyu:なんだろうな……。武瑠みたいなエモい奴が、メンバーの中で他にいなかったことですかね(笑)。エモいやつがもう一人いたら、絶対に衝突してバンドも終わってたと思う。5人の役割分担がうまく機能してるというか、バランスが取れているっていうのも大きいんじゃないかな。