1回目のバルセロナ合同テスト初日、マクラーレンのモーターホームで開かれた会見で、レーシングディレクターのエリック・ブーリエにこんな質問が飛んだ。
「あなたは(新車発表会で)『マクラーレンは勝つ準備ができている。だが、ホンダはそうではないかもしれない』と語ったそうですが、本当ですか?」
ブーリエはすぐさま否定した。
「私はマクラーレン側の人間なので、マクラーレンのことに関しては言うことができるが、ホンダに関しては私が語るのは適当ではないので語れないということだ」
すると質問者が再び「では、マクラーレンは今年勝つ準備ができているんですね?」と尋ねると、ブーリエは「ああ、そうだ。われわれはいつでも勝つ準備はできている」と回答した。
F1は車体とエンジン(パワーユニット)を切り離して考えることはできない。勝つためにどのパワーユニットを使用するのかもF1において重要な戦術である。「車体はいいが、エンジンがダメだ」とか「エンジンはいいが、車体がダメだ」というのは、いつの時代も負け犬の言い訳に過ぎない。
確かにいまのホンダはパワーという面において、メルセデスを上回ってはいない。それはホンダだけが認識しておくことだけでなく、マクラーレンも認識しておきべきことで、「パワーユニットのことはホンダに聞いてくれ」ではなく、現時点でメルセデスを上回っていないホンダPUを使用する道を選んだのだから、ブーリエには「われわれ(マクラーレンとホンダ)はまだ勝つ準備が、いまはまだできていない」と言ってもらいたかった。
ただし、マクラーレン・ホンダが「勝つ準備ができていない」理由は、何もホンダにだけあるのではない。ブーリエが言う「マクラーレンはいつでも勝つ準備はできている」という言葉を会見場にいた何人が信じて聞いていただろうか。というのも、昨年の日本GPではS字でダウンフォースが抜け、アクセルが踏めないという悪癖が、MCL32になっても治っていないからである。
多くのドライバーがダウンフォースの増加とタイヤのワイド化によってカタロニア・サーキットの3コーナーは全開で走り抜けていく中、MCL32を駆るアロンソとバンドーンはコーナーの進入でふらつき、アクセルを戻していた。
また、1回目のテストでは、こんなこともあった。初日からマクラーレンのマシンのサイドポンツーンに長方形の穴が空いていたのである。あとで確認すると、「気温が予想していたよりも高くなって、ルーバーをはめ込むための穴を急きょ開けた」のだという。つまり、マクラーレンは1回目のテストでルーバーを持ってきていなかったのである。レッドブルやフェラーリはしっかりとルーバーを使用していた。
いまのマクラーレンは、本当に勝つ準備ができているのか、という思いだけが募った1回目の合同テストだった。