トップへ

SHISHAMO、ねごと、赤い公園から注目新鋭まで プレイヤー視点で見る2017年ガールズバンド

2017年03月07日 17:03  リアルサウンド

リアルサウンド

SHISHAMO『SHISHAMO 4』

 大きな話題を集めているSHISHAMOの『SHISHAMO 4』を筆頭に、2月はねごと、赤い公園、sympathyと、ガールズバンドのリリースが相次いだ。もちろん、一言で「ガールズバンド」と言っても、その楽曲は各バンドによって実に様々。そこで今回は、2月にリリースされた新作や今年ブレイクが期待される新人を、プレイヤー視点で分析してみたい。


(参考:フェス至上主義は終わりを迎えるか? パスピエ、SHISHAMOが挑む“フェスの外”へのアプローチ


 SHISHAMOに関して、プレイヤーとしての側面が語られることはそう多くはないかもしれない。そもそもSHISHAMOは、特に歌詞の面において高い作家性を誇る宮崎朝子というソングライターが中心で、彼女がシンガーソングライターではなく、バンドというスタイルを選んでいることに面白味や時代性がある。よって、一番重要なのは楽曲の世界観そのものであり、『SHISHAMO 4』においては高野勲をアレンジャーに迎え、ホーンセクションやストリングスを導入することで、各曲のストーリーにより彩りを与えている。


 では、彼女たちにプレイヤーとしての魅力がないのかと言えば、もちろん、そういう話ではない。10代の頃にリリースされた初期の作品に関しては、まだまだアマチュア然とした印象だったが、すでに彼女たちは日本武道館でワンマンを行うバンドであり、各メンバーもプレイヤーとして確かな成長を遂げている。特に冒頭の4曲にはバンドとしての基礎体力の向上がはっきりと表れていて、中でもボ・ディドリー・ビートとウォーキングベースによる軽快なリズムが、一見楽しげなデートなのに、実はお互いの気持ちがすれ違っているというストーリーの切なさを逆に引き立てる「すれちがいのデート」は白眉な仕上がり。『SHISHAMO 4』の完成度の高さは、宮崎のソングライティングにバンドとしての表現力が追いついたからこそ、成し得たものだと言うべきだろう。


 そんなSHISHAMOに続くバンドとして期待されているのが、『SHISHAMO 4』と同日に、ファーストアルバム『海鳴りと絶景』を発表したsympathy。まだメンバーの4分の3が現役大学生という若いバンドだが、チャットモンチーや相対性理論の遺伝子を受け継いだソングライティングはすでに堂に入ったものがある。現時点では、プレイヤーとして一人一人の個性が明確に表れているとは言えないが、アレンジャーにakkinを迎え、ドラムを重ねてサイケ感を演出した「深海」や、ささくれ立ったギターでハードに攻める「二十路」など、アルバムからは表現の深化が伝わると共に、さらなる成長の余地も感じられる。


 SHISAMOやsympathyよりも上の世代にあたる、ねごとと赤い公園は、それぞれがバンドとしてのオリジナリティを確立させつつ、新作では正反対なアプローチを見せているのが面白い。「ねごと流のダンスミュージック」を追求した『ETERNALBEAT』でのねごとは、バンドというよりも音楽集団と言うべき方向性へと進化。手数の多いプレイでバンドのロック的な側面に大きく貢献していた澤村小夜子(Dr)は、素材として比較的シンプルなビートを提供し、藤咲佑(Ba)は表題曲をはじめとしたいくつかの曲でシンセベースを演奏。それを沙田瑞紀(Gt)が中心となってまとめあげることで、独創的なダンスミュージックが生まれている。


 もちろん、プレイヤーとしての個性が消えているのかといえばそうではなく、Squarepusherを生で再現するイメージだったという「cross motion」のドラムをはじめ、随所に聴き応えのあるプレイが挿入されているし、さらにライブでこの楽曲が全て生演奏されることを考えれば、そこではバンドとしてのねごとの進化を目撃することができるはず。


 一方の赤い公園のニューシングル『闇夜に提灯』は、ロックバンドとしての実力を証明する一曲。イントロのスリリングな各楽器の絡みに始まり、強力なリズム隊がボトムの太いダンスビートを叩き出し、コンパクトな中に多彩なアプローチを詰め込んだ津野米咲のギターも面白い。近年の赤い公園は、獰猛なロックバンドとしての姿と、楽曲の中の情報量の多さ、そして、ポップスとしての洗練を天秤にかけつつ楽曲を作り続けてきたような印象があるが、いよいよ絶妙なバランスを見出したような手応えが感じられる。


 最後に、今年注目の2バンドについても触れておこう。まずは2月23日から始まった『スペースシャワー列伝 JAPAN TOUR』にも参加し、ブレイク最右翼と噂されるyonige。デビュー作『Coming Spring』の頃は、トリビュートへの参加も発表されているASIAN KUNG-FU GENERATIONに通じるオルタナなサウンドが印象的だったが、昨年発表の『かたつむりになりたい』ではより開かれたポップなサウンドへと移行。フロントマンの牛丸ありさのギタープレイはコード弾きを中心としたシンプルなものだが、レスポールを抱えた男勝りなたたずまいに、新たなカリスマ誕生を期待させる。


 名古屋を拠点に活動し、「NEO=ニュー・エキサイト・オンナバンド」として「NEOカワイイ」を標榜する4人組、CHAIも面白い。ファンクやヒップホップを音楽性のベースにしつつも、そういったカテゴライズが馬鹿らしくなるような自由奔放な活動姿勢が楽しく、ある意味インディーズ時代の赤い公園にも通じる雰囲気がある。MVなどはよりめちゃくちゃで、エキセントリックなイメージも先行しているように思うが、専門学校出身のドラマー・カナを中心とした、グルーヴ感のある演奏はなかなかのものだ。


 yonigeもCHAIもそれぞれ全く違う方法論で、ステレオタイプな「ガールズバンド」からの脱却を試みる2組だと言っていいだろう。共に4月に新作のリリースが予定され、そこからまた新たな波が生まれていくのかもしれない。(金子厚武)