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スカパラ、ユニコーン、ピロウズ、ノーナ、the GazettE……キャリアバンドの充実示す新作

2017年03月07日 13:03  リアルサウンド

リアルサウンド

東京スカパラダイスオーケストラ『Paradise Has NO BORDER』通常盤

 yahyel、The Wisely Brothers、FIVE NEW OLDといった新たな才能を持ったニューカマーが次々と台頭している日本のバンドシーンだが、THE COLLECTORSの日本武道館公演の成功に象徴されるように、長いキャリアを持ったバンドが充実した活動を続けていることもまた、現在のシーンの活性につながっている。そこで今回は、ベテランバンドのキャリアハイを証明するような新作を紹介したいと思う。


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 2015年にデビュー25周年の節目を迎えた東京スカパラダイスオーケストラは、その後も止まることなく、ボーダレスな活動を続けてきた。新たな起点となったのは、尾崎世界観を招いたシングル『爆音ラヴソング / めくったオレンジ』。さらに片平里菜、Ken Yokoyama、さかなクンとのコラボレーションを繰り広げるとともに南米ツアーを含む精力的なライブ活動を展開。そこで得た勢いと斬新なアイデアは、本作『Paradise Has NO BODER』にも強く反映されている。特に印象的なのは、ブラジル、ジャマイカ、日本など、世界中の音楽のテイストを貪欲に取り入れながら、生々しいライブ感とともに放たれるインストナンバー。自らが作り上げてきたキャリアに定住せず、常に新しい景色を求めて進み続けるスカパラの姿勢は、本当に刺激的だ。


 メンバーの50歳を記念したライブ『50祭』の各公演のために制作されたテーマ曲(メンバー5人、それぞれ2曲ずつ)を収めたアルバム『半世紀 No.5』。「歓喜の歌」をサンプリングしたヒップホップナンバー「半世紀少年」(川西幸一 / Dr)、昭和歌謡曲風のハードロック「ゴジュから男」(手島いさむ / G)、オーセンティックなヘビィメタルとともに50男の家庭での立場を歌い上げた「ロック!クロック!オクロック!」(奥田民生 / V)、パンキッシュなサウンドと演歌が混ざり合う「TAIRYO」(EBI / B)、マンボのリズムとウェスタン風のメロディが交互に出て来る「RAMBO N°5」(ABEDON / Key)。遊び心ありすぎ、ふざけすぎのアイデアとミュージシャンとしての高いスキルが結びついた本作は、“50歳になってもこんなに楽しいことが出来るんだ?!”という最良のお手本。こんなオジさんに私もなりたい。


 前作『STROLL AND ROLL』でシンプルなロックンロールを志向したthe pillows。先行配信シングル「王様になれ」を含む本作『NOOK IN THE BRAIN』は、山中さわお(V / G)がもっとも得意とするオルタナティブな手触りの作品となった。独創的なコード感、既存のフォーマットを逸脱するようなギター・アンサンブル、そして、優れたポップネスを備えたメロディがひとつになった本作からは、彼らのモードが“できるだけ楽しくバンドを続ける”から“唯一無二の音楽で新しい場所を目指す”に変化していることが感じられる。絶対に避けることができない、自分ではコントロールできない事柄ーー最も顕著な例は“時間”だろうーーを受け止めながら、どうやって自分を覚醒させるか?という歌詞のテーマもきわめて興味深い。


 ポップミュージック研究家としても大きな功績を残している西寺郷太(V)、数多くのレコーディング、ライブに参加している奥田健介(G)、小松シゲル(Dr)によるNONA REEVESの、メジャーデビュー20周年を記念したベスト盤『POP'N SOUL 20~The Very Best of NONA REEVES』。「BAD GIRL」(1999年)、「ラヴ・アライヴ feat.宇多丸」(2005年)などのシングル曲を網羅した本作には、日本の音楽シーンにおけるポップの概念を刷新し続けきた彼らのキャリアが刻み込まれている。特筆すべきは新曲「O-V-E-R-H-E-A-T」。世界的なネオソウル、ディスコ・リヴァイバルの流れを汲みながら、最新鋭にして普遍的なポップソングを体現したこの曲は、まさに彼らの真骨頂と言えるだろう。踊れる日本語ポップスの最高峰を存分に味わってほしい。


 2002年に結成され、‘00年代以降のネオビジュアル系を牽引。下の世代のバンドにも大きな影響を与え続けているthe GazettEの結成15周年を記念したバラードベストアルバム『TRACES VOL.2』。全曲再レコーディングされ、現在の彼らの音楽性がリアルに反映された作品に仕上がっている。耽美的でドラマティックなメロディライン、隠喩を多用したダークファンタジー的な歌詞の世界観も印象的だが、もっとも注目すべきはメンバー個々のセンスとテクニックが存分に活かされたサウンドメイクだろう。プレイヤーの息づかいが伝わるような演奏、緻密で生々しいアンサンブルを含め、ビジュアル系という枠に留まらない、ロックバンドとしての魅力がしっかりと体感できる作品だと思う。(森朋之)