2017年03月07日 10:53 弁護士ドットコム
うつ病などを理由に休職している間、旅行や趣味を楽しんでもいいのでしょうか。インターネット上のQ&Aサイトには、うつ病で休職中、主治医から、気晴らしに旅行や趣味を楽しむよう勧められたという書き込みがありました。
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とはいえ、病気で仕事を休んでいるのに旅行に行くのは気がひけたり、会社にバレたら問題になるかもしれない、と不安に思ったりする人もいるかもしれません。
うつ病で休職中に旅行に行ったり、趣味を楽しむことは、法的に何らかの問題があるのでしょうか。古川拓弁護士に聞きました。
労働者がうつ病で休職中に旅行に行ったり、趣味を楽しんだりしたこと自体を理由に、会社が懲戒などの処分をすることは許されません。会社が休職を認めている以上、そのようなことを理由として(懲戒)処分を行うことに合理的理由はないからです。
休職中は治療に専念する義務があるのではないか(「療養専念義務」などと呼ばれます)という考えもありますが、旅行や趣味は健康な人でも日常生活上で行うことですし、うつ病など精神障害の療養方法として有効な場合もあります。
そのため、とても過酷な旅行に行ったり、趣味に没頭するあまり病気に悪影響を及ぼしたのであればともかく、旅行や趣味それ自体がことさらに問題視されるべきではありません。
また、会社(使用者)側としては「仕事ができない(就労不能)からこそ休んでいるのではないか」という問題意識から「本当は病気ではないかもしれない」などという考えを持つかもしれません。
しかし、そのような可能性があると考えるなら、本人の同意を得た上で、労働者の主治医の意見を求めたり、産業医への受診を勧めるなどすべきです。
なお、仮に、休職中の旅行や趣味を理由として、会社(使用者)が不当な処分を行った場合、労働者は、その処分内容やそれによって受けた不利益の種類に応じて、法的手続により争うことができます。その場合は、労働問題に詳しい弁護士に相談することをおすすめします。
病気で休職中の給料や手当などの扱いですが、会社(使用者)が、休職中でも給与全額を支払ってくれる場合には、基本的には問題は生じないでしょう。問題は会社が休職中の給与を支払ってくれない場合です。この場合には、うつ病などの病気が「仕事が原因(業務上)」かどうかによって扱いが異なります。
病気で休職中の給料や手当などの扱いは、うつ病などの病気が「仕事が原因(業務上)」かどうかによって異なります。
まず、(1)「仕事が原因」で病気になった場合は「労災(業務災害)」にあたりますので、休業補償を受けることができます。具体的には、休業を始めて3日間は労働基準法にもとづき会社(使用者)から「休業補償」を、4日目以降については労災保険法にもとづき国から「休業補償給付」を受けることができます。
単に業務災害であるだけでなく、会社(使用者)の過失(義務違反)が原因で病気になった場合には、「休業補償」や「休業補償給付」などを超える休業損害や慰謝料などについて、会社などに対する損害賠償請求ができます。
また、(2)通勤途中の交通事故など、通勤災害が原因の病気でも、休業を始めて4日目以降は労災保険法にもとづく「休業給付」を受けることができます(支給の内容は「業務災害」と基本的に同じです)。
一方、(3)仕事が原因ではない病気(私傷病などと呼びます)は、就業規則や賃金規定に休職期間中の給料に関する取り決めがあれば、基本的にはそれに基づいた給料や手当を受けられます。そのような取り決めがなくても、社会保険に加入しているのであれば休業4日目以降に「傷病手当金」を受けられます。支給される期間は、支給開始から1年6カ月です。
労働者が取ることができる休職の期間ですが、この点についても、病気の原因が仕事上なのかどうかによって扱いが異なります。
(1)仕事が原因で病気になった場合には、仕事を休んで治療(療養)する必要があるなら、原則としてその病気が治るまで(「治ゆ」又は「症状固定」するまで)休職することができます。この期間中、会社(使用者)はその労働者を解雇することは法律上許されません(就業規則などで定めた休職期間を経過したとしても解雇や退職扱いができません)。
ただし、治療(療養)を開始して3年が経っても病気が治らない場合には、会社(使用者)は「打切補償」を行うことで、労働者を解雇できる場合があります。
一方、(2)通勤災害や(3)私傷病の場合には、法律上の明確な制限はありません。会社が就業規則などで定めた休職期間を超えて休業が長引くなどすると、本来要求されている勤務を全うできない、ということで解雇されてしまう可能性があります。
もっとも、通勤災害や私傷病で働けないのであれば無条件に解雇できる、というわけではありません。労働者を解雇するにあたって、会社(使用者)が、医師の意見を聴いたり、回復の見通しを検討するなど、慎重な対応がなされなかった場合には、会社が労働者を解雇する権利を濫用したとして、解雇が無効になる場合があります。
うつ病で休職している期間中にアルバイトをすることも、治療(療養)のために行っていると認められるのであれば、それ自体が問題になると考えるべきではありません。
会社によっては、アルバイトなどの兼業を禁止あるいは許可制とする取り決めを就業規則などで定めている場合があります。しかし、就業規則などの定めがあれば常にアルバイトが禁止されたり、会社がアルバイトを許可するかどうかを自由に決められるわけではありません。
先ほど説明したように、休業補償や傷病手当金は病気の原因によっては受け取れないこともあります。その場合、生活のためにやむなく働かざるを得ないケースもあるでしょうし、いわゆる「リハビリ就労」が、病気からの回復の途中で必要な場合も考えられます。
特に、職場でのパワハラなど人間関係が原因でうつ病など精神障害になってしまった場合や、会社が時短勤務などのリハビリ就労を一切認めないような状況であれば、他の職場でのアルバイトによるリハビリ就労を経て、職場に復帰することがやむを得ないと認められる場合が十分考えられます。
一方、休職中の労働者が他の職場でアルバイトとして働いているという事実について、会社から「それならそもそも、うちの会社で働けるのではないか(就労が可能ではないか)」と考えられてしまい、法的紛争となってしまうリスクがないとは言えません。
そこで、労働者としては、まずは会社(使用者)に対して、他の職場でアルバイトとして働くことを告げたり、あるいは働く許可を求めるなどすることをおすすめします。会社が不当にこれを認めない場合には、主治医の先生や労働問題に詳しい弁護士に相談しつつ、その後の対応を検討すべきでしょう。
なお、過去に私が担当したケースで、長時間労働を行った末に不当解雇を受けたために精神障害を発症して療養されている方が、療養中に他の職場でのリハビリ就労(時短)を行ったというケースがありました。これについて労働基準監督署は、リハビリ就労日以外の療養日に対して、休業補償給付を支給する決定を行いました。
このことから、労働基準監督署も、他の職場でリハビリ就労を行っているからといって、その労働者が一般的に就労可能となっているとは考えていないと言えます。
(弁護士ドットコムニュース)
【取材協力弁護士】
古川 拓(ふるかわ・たく)弁護士
弁護士法人古川・片田総合法律事務所 代表。2004年弁護士登録。京都弁護士会・過労死弁護団全国連絡会議 所属。特に過労死・過労自殺・労災事故などの労災請求・損害賠償請求事件に力を入れ、全国からの相談に応じている。著書に「労災事件救済の手引 - 労災保険・損害賠償請求の実務 -」(単著),「働く人のためのブラック企業被害対策Q&A: 知っておきたい66の法律知識」(共著)など。
事務所名:弁護士法人古川・片田総合法律事務所
事務所URL:http://fk-lpc.com/