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『キングコング』監督が語る、日本のポップカルチャーとコングの関係性 「どのキャラも尊敬する宮崎駿監督のアニメに出てきそうでしょう?」

2017年03月06日 17:33  リアルサウンド

リアルサウンド

ジョーダン・ボート=ロバーツ監督

 まず断言します! 『キングコング:髑髏島の巨神』は本当に面白い! そして映画ファンに愛される。「あれ観た?」と語り継がれる作品になるでしょう! そのプロモーションのために来日した『キングコング:髑髏島の巨神』のジョーダン・ボート=ロバーツ監督に単独でインタビューすることができました。キングコングはアメリカ映画が生んだキャラクターの中で最も有名なキャラのひとつ。しかし本作はこれまでのコング映画の伝統に縛られず、まったく新しいアドベンチャー・アクションに仕上がっています! 日本のアニメ、マンガ、TVゲームが大好きで、また80年代前後のベトナム戦争映画に影響を受けたというジョーダン・ボート=ロバーツ監督。自分の引き出しの中にあるものをすべてぶちまけ、嬉しくなるようなエンタテインメントに組み立て直したのです。いかにして『キングコング:髑髏島の巨神』は生まれたのか? 聞いてみました!(杉山すぴ豊)


参考:菊地成孔の『ラ・ラ・ランド』評:世界中を敵に回す覚悟で平然と言うが、こんなもん全然大したことないね


■「『キングコング』と『地獄の黙示録』を足した映画」


ーーよろしくお願いします。実は僕は昨夏のサンディエゴ・コミコンで行われた『キングコング:髑髏島の巨神』のパネル(発表会)に参加していました。だから壇上の監督の写真撮りまくりましたよ!


ジョーダン・ボート=ロバーツ監督(以下、ロバーツ監督):本当!? それはありがとう!


ーーその発表会で監督が、今度の映画は「コングと言えば“美女と野獣の物語”という概念を覆す」「70年代のベトナムの大型軍用ヘリがコングと戦う映画を作りたかったんだ」と聴いてもうビックリ! でもすごく期待していましたんです。でもその期待をはるかに上回る面白さでした! すごい映画ですね! しかしなぜ“ヘリVSコング”にしたのですか?


ロバーツ監督:実はこの仕事の話が来た時に、最初はすごいオファーがきた! やった! と思ったんです。その後ふと、なんでまたコングの映画を作るんだろう、と思ったのです。なぜなら今の時代は面白いものやエンタテインメントがいっぱいある。こういう時代の中で、コングを今観るべき映画にするにはどうしたらいいのか、と。で、自分はどういうコングの映画だったら観たいか、どういう映画だったら友達にすすめられるか、考えたんです。そのときなぜか浮かんだのはジャングルにナパーム弾を投下するヘリ軍団の前に、夕日をバックにそびえたつコングのイメージ。これをやりたいと。それでプロデューサーにコングと『地獄の黙示録』を足したような映画をやりたいと言ったらOKが出たんです。


ーーたしかに『地獄の黙示録』(巨匠フランシス・フォード・コッポラがベトナム戦争をテーマに作った衝撃作)を意識されていると思います。トム・ヒドルストン演じる主人公の名前コンラッドも『地獄の黙示録』のもとになった小説の作者の名からですよね。でも監督は30代。『地獄の黙示録』は79年の映画だから、当然リアル・タイムの映画ではないですよね?


ロバーツ監督:僕はすごい映画ファンなので昔の映画、名作といわれるものをたくさん見ています。だから70年代のコッポラの映画『カンバセーション:盗聴』『ゴッドファーザー』『地獄の黙示録』にも魅了されました。あの時代に生まれていなかったのを後悔したぐらいですから(笑)。あと『ディア・ハンター』『プラトーン』というベトナム戦争映画も好きです。そういういろいろな要素をくみあわせて作りました。


ーーなるほど。ちなみにハリッド版『ゴジラ』の監督のギャレス・エドワーズ監督はゴジラ好きを公言しており、また前作がそれこそ『モンスターズ』という作品だからハリウッド版『ゴジラ』に起用されました。しかしあなたはモンスター映画好きを名乗っていたわけではない。なぜ監督に抜擢されたのだと思いますか?


ロバーツ監督:前作『キングス オブ サマー』が認められた後、次はいわゆるハリウッド大作をやりたい、と周りに言っていたのです(笑)。僕はアート映画や黒澤映画のような外国映画も愛していますが、子どものころに観たハリウッド娯楽大作が大好きだったから。なのでチャレンジしたかったんです。それと『キングス オブ サマー』は、若者たちが森の中で冒険する話で、そこでの自然の描き方、森の描写が今度の髑髏島に合うとプロデューサーは思ってくれたのかな。あの作品では自然にさわれるような生々しさをうまく表現できたし。あと若いからでしょうね。大作だからいろいろな人が口を出す。今回ロケも多いから天候も味方をしてくれないこともある。その中で自分のビジョンを貫き通すためには全身全霊で打ち込まなければなりません。それには若さが必要です(笑)。


ーーそのビジョンというのが、今までのコング映画とは絶対違うものを作るぞ! ということだったのですね。


ロバーツ監督:そうです。コングというのは映画を超えてポップカルチャーにおける重要なアイコンですが、でもそれを現代の観客に観てもらえるコンテンツに仕立て直すというのは相当パワーがいりますからね。でもこの作品は33年版の『キング・コング』に原点回帰した作品でもあるのです。コングが出てくる映画はいくつかありますが、モンスターというより巨大なゴリラなんです。でも33年版のコングは、猿というより神秘的な存在で巨神であり二足歩行の大魔獣なのです。このカリスマ性を復活させてみました。だからサイズも超巨大。人間が見上げて、恐れおののくようなサイズにね。ここには僕の大好きなゲーム『ワンダと巨像』からの影響もあります。あと映画館で観るべき作品にしたかった。だから映画館の大きなスクリーンで大暴れするのが似合う、見栄えがするキャラにしました。


ーーコング以外の怪獣たちも魅力的ですね。


ロバーツ監督:髑髏島の怪物たちは既知の動物や恐竜とは違ったものにしようと思いました。どのキャラも尊敬する宮崎駿監督のアニメに出てきそうでしょう? パワフルだけど神秘的。怖いけど美しい。彼らは自分の縄張りの中では”神”でコングはその頂点に立つ巨神なのです。強敵スカル・クローラーは、33年版に登場した“後足のないのトカゲ”がモチーフです。33年版の髑髏島の怪物たちは基本恐竜でしたが、あのトカゲだけはフィクションの怪物でした。だから採用したのです(笑)。顔が白くて体が黒いから『千と千尋の神隠し』のカオナシや『エヴァンゲリオン』の使徒サキエルにも似てますね(笑)。


■「目指したのは神話の創出です」


ーー日本のポップカルチャーが本当にお好きなのですね。


ロバーツ監督:ええ。だからこのオープニングのシーンは、日本刀とコングなのです(笑)。僕の好きなものを同時にスクリーンの中に存在させたいと。しかもその日本刀の持ち主の名前がイカリグンペイです。イカリは『エヴァンゲリオン』の主人公の名前、グンペイはゲームボーイの生みの親の方の名前を使わせていただきました。日本のゲーム文化が大好きなので。


ーーなるほど! 最後にお聴きしたいのですが、もちろん映画というのは観客が自由に解釈し楽しめばいいのですが、監督が本作に託したメッセージというのがあるとすれば、それはなんですか?


ロバーツ監督:僕が目指したのは神話の創出です。現代はテクノロジーがいきつくところまでいき神話がなくなってしまった。でも神話というのは“この世には人間の手に負えないなにかがある” “人間は、実はこの世界のことをほんのちょっとしか知り得ていない、まだまだ知らないことがいっぱいあるんだ”ということを教えてくれます。そういう神話のようなお話を作りたかったのかもしれません。コングは決して人間がコントロールできない“すごいもの”なのです。


ーー素敵です!ありがとうございました!


 本当に優しい方でした。すごく髭が印象的で(笑)。特に理由もなくほうっておいたら伸びちゃったとのこと。話していてわかったのは、すごい映画ファンであり日本のポップカルチャーを愛しているのですね。そういう自分の好きなものを全部つめこんだのが、この『キングコング:髑髏島の巨神』なのです。この映画には怖い怪物たちが登場しますが、グロいけれど決して不快ではない。それは監督がひとつひとつのキャラに愛をこめて描いているからかもしれません。(杉山すぴ豊)