2017年03月06日 10:43 弁護士ドットコム
あまり聞きなれない「教育基本法14条」という法律が注目されている。きっかけは、国有地の売却経緯に疑念が出ている学校法人「森友学園」(大阪市)の問題だ。この疑惑を追求する中で、売却経緯だけでなく、同法人が運営する幼稚園の教育方針に関する問題も明らかになってきた。
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園児が教育勅語を素読する映像のほか、2月下旬には「安倍首相がんばれ、安倍首相がんばれ。安保法制国会通過よかったです」と、幼稚園児が運動会で連呼するビデオ映像も報じられた。こうした学校の教育方針に対し、野党などからは、教育基本法が禁じる「政治的活動」にあたるのではないかと批判も噴出。3月に入り、籠池泰典理事長が「今後同様の事例が生じないよう配慮する」との意向を示したとも報じられている。
学校の教育現場における政治的活動を禁じる「教育基本法14条」とは、どのような法律なのか。また、森友学園の教育方針は、法的な問題をはらんでいるのだろうか。高島惇弁護士に聞いた。
「教育基本法14条は、学校における政治的中立性の確保を定めた規程です。
第1項は、民主主義社会において、国民一人ひとりが主体的に政治へ参画する重要性を考慮し、政治に関する様々な知識やこれに対する公正な批判力が適切に養われるよう努めるべき旨を定めています。
その一方で、第2項は、学校が『公の性質』(教育基本法6条1項)を有する事実を考慮し、直接間接を問わず、特定の政党を支持し、又はこれに反対するための政治教育を行うことを禁止しています。
ここでいう『法律に定める学校』には、宗教教育に関する中立性を定めた学校教育法15条2項と異なり、国立公立のみでなく私立も含まれるため注意が必要です。また、学校教育法1条に定める『学校』と同義であるため、幼稚園や大学も当然に含まれます。
学校教育において、特定の政党における政策や主張を支持ないし反対するよう教育を行うことは、本条項により禁止されています。仮に、特定の政党における政策や主張について教育する場合は、他の政策や主張も紹介したり、異なる見解を示した複数の資料を児童生徒へ提示するなどして、公正な批判力が養われるよう留意して教育する必要があります」
違反した場合には、どのような処分となるのか。
「万一、義務教育の学校において、特定の政党を支持又は反対する目的をもって、児童生徒に政治上の一党一派に偏した教育を行うよう、教職員に対し教唆又はせん動を行った場合には、1年以下の懲役又は3万円以下の罰金に処せられる危険があります(義務教育諸学校における教育の政治的中立の確保に関する臨時措置法3条)」
森友学園では、「安倍首相がんばれ」と幼稚園児に連呼させたり、教育勅語の素読をさせたりしていると報じられている。このような教育内容は、教育基本法に反していると言えるのだろうか。
「森友学園で、園児に『安倍首相がんばれ』と連呼させたことの趣旨は、現時点では明らかになっていません。しかし、仮に学園において、安保法制など特定政党の政策を支持するような教育を行っていた場合には、学校教育法14条に違反している可能性は否定できません。
また、教育勅語についても、歴史上における一つの知識として教育する趣旨であればともかく、道徳教育に関する特定政党の政策を支持させる目的を有していたのであれば、政治的中立性の確保という観点からあまり望ましくないものと考えます。
教育基本法14条は、国民の政治的教養を尊重するよう求めつつ、学校が政治的中立性を失わないよう定めている点で、非常に繊細な規程となっています。
政治的教養を養う上で、どのような教育が望ましいかは難しい問題です。しかし、児童生徒の理解力が成熟していない状況においては、特定の価値観に偏らないよう多様な考え方を示す必要性があるのではないでしょうか」
高島弁護士はこのように指摘した。
【補足】教育基本法
第十四条 良識ある公民として必要な政治的教養は、教育上尊重されなければならない。
2 法律に定める学校は、特定の政党を支持し、又はこれに反対するための政治教育その他政治的活動をしてはならない。
(弁護士ドットコムニュース)
【取材協力弁護士】
高島 惇(たかしま・あつし)弁護士
退学処分、学校事故、いじめ、体罰など、学校内におけるトラブルを精力的に取り扱っており、「週刊ダイヤモンド」にて特集された「プロ推奨の辣腕弁護士たち」欄にて学校紛争問題が得意な弁護士として紹介されている。
事務所名:法律事務所アルシエン
事務所URL:http://www.alcien.jp