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「日本最高の四輪耐久レースを」18年スタートの『鈴鹿10時間』はどんなレースになるのか

2017年03月05日 20:32  AUTOSPORT web

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これまでスーパーGTの一戦として争われてきた鈴鹿1000kmが、2018年からGT3による10時間耐久に生まれ変わる。
3月4日、鈴鹿サーキットを運営するモビリティランドは、2018年からこれまでスーパーGTの一戦として開催されてきた鈴鹿1000を発展させ、新たに『第47回サマーエンデュランス 鈴鹿10時間耐久レース(仮称)』を開催すると発表したが、これはいったいどんなイベントになるのだろうか。現段階で分かっているコンセプト、そしてどんなレースになるのかを、少々長くなるが確認しておこう。

■日本最高レベルの、四輪による耐久レースを
 記者発表会で山下晋モビリティランド社長が語ったのは、「伝統の鈴鹿1000kmのコンセプトを継承する新しいレース」だ。鈴鹿1000kmはこれまで45回を開催してきたが、モビリティランドにとっては「二輪の鈴鹿8耐とならび思いの詰まったレース」としている。

 ただ、近年のスーパーGTでは車両が高速化しており、6時間に満たずフィニッシュしてしまうことも多い。山下社長は「もちろん悪いことではなく、進化した結果ではあります。しかしながら、鈴鹿8耐とくらべると多少耐久レースの醍醐味であるドラマであったり、さまざまな変化であったりというところが少ない、と言えなくもないレースとなっています」と、改めて鈴鹿の耐久レースはどんなものであるべきかを社内で検討したという。

 モビリティランドでは、鈴鹿で最も長い歴史をもつ1000kmの歴史を振り返り、原点に立ち帰って下記のコンセプトに至ったという。

『日本最高レベルの四輪による耐久レースを再構築しよう』

 レース距離は現在は1000kmで、時間は6時間弱。しかし耐久レースとしてファンに楽しんでもらうためには、「もう少し長い方がいいだろう」という結論に至った。ただ、鈴鹿は住宅地でもあり、早朝や深夜に走行はできない。また少々厳しくはなるが、東京や大阪から訪れたファンも日帰りできるということを考え、10時半スタート~20時半フィニッシュの10時間レースという設定がされた。

 これまで鈴鹿1000kmは、BPR GTやFIA-GTの一戦として開催されたり、スーパーGTとして開催された時期はあったが、現在のスーパーGTでは「GT500は世界でもトップレベルのモンスターマシンで、素晴らしい性能をもっていますが、10時間となると少し困難なところがあります」と山下社長は言う。

 そこでふたたび原点に立ち戻り、「1000kmの原点を思い出してみると、さまざまなメーカー、さまざまな国のクルマたちがそこに参加していました。それを実現できるとしたらどんなカテゴリーなんだ」と検討された結果が、世界中で活用されているGT3カー、そしてJAF-GTを含むGT300車両の参加する10時間耐久というスタイルだ。

「我々は、それらが一堂に会するレースを開催したら、お客様にとっても楽しいのではないかと考えました。GT300、ならびにGT3の世界中のマシンが一堂に会し、世界中のモータースポーツファンにお楽しみいただける、他にはないスペシャルなイベントにできると確信しています」と山下社長はこの決定に至った経緯を語った。

■GTA、SROと協議の末決まった新たな10時間レース。SGTは別日程に
 このコンセプトをふまえ、モビリティランドでは現在スーパーGTを開催するパートナーである、GTアソシエイションの坂東正明社長に相談した。GTAとしては現在スーパーGTのグローバル化を進めており、ブランパンGTシリーズのGT3の性能調整を使ったり、セパン12時間に車両が参戦できるようにするなど、GT3を生み出したSROモータースポーツグループとは親密な関係にある。

 そこで、GTAを経由してSROが紹介されることになった。

「モビリティランドから連絡があったんだ。それとミスターバンドウからも連絡があった。スーパーGTで鈴鹿1000kmを開催してきたのは知っていたから、最初に聞いた時は驚いた。スーパーGTのなかでもビッグレースだったからね」というのは、SROモータースポーツグループ代表のステファン・ラテルだ。

 SRO、GTAともモビリティランドの考えた趣旨に賛同し、コラボレーションパートナーとして協力することになった。この結果、今回発表されたレースの主な概要は以下のようになった。

・レース距離:10時間耐久
・参戦車両:FIA-GT3(JAF-GT含むGT300車両、スーパー耐久ST-X車両含む)
・目標参戦台数:フルグリッド50台
・賞金総額:1億円
・レース開催時期:8月最終週

 また、GTアソシエイションとモビリティランドでは、現在この鈴鹿10時間開催にともない、スーパーGTの別日程・別レース距離での鈴鹿開催を協議している。山下社長によれば、「今年の鈴鹿1000kmには発表したい」と語った。

■どのチームが参戦する? 「目標はフルグリッド50台」
 ではいったい、2018年の鈴鹿10時間にはどんなチームが揃うようになるのだろうか。SROが関与するGT3カーのレースは、ヨーロッパで多くの参戦台数を誇るブランパンGTシリーズ、2017年から始まるブランパンGTアジア、イギリスGT選手権など多岐に渡る。

 ラテルはこれらのシリーズのトップチームや、メーカワークス、さらにアメリカからもエントリーを集めたいという。「彼らの興味を集めることがゴールであり、目標だ。それもあって、モビリティランドから我々に声をかけてもらっているのだと思う」とラテル。

 山下社長はフルグリッド50台、エントリーはそれ以上という目標を立てているが、ラテルは「おそらくスーパーGTなど国内から半分、我々から半分が理想ではないだろうか」という。ブランパンGTアジアは2018年も鈴鹿、富士でレースが予定されており、ロジスティクスの負担が少ないことから、「(我々からの)そのまた半分はブランパンGTアジアになるだろう」とラテルは予想する。

「僕の仕事は、さらにアメリカやヨーロッパ、オーストラリアからエントラントを集めることだ。カレンダーも重要になるので、時間に余裕があるに越したことはないだろうね。できるだけのセッティングはしたい」

 また、ラテルは「メーカーも大いに関心を示すだろう。また、現地のチームと組んで参戦することも多いと思うので、スーパーGTのチームが参戦し、そこにメーカーからのサポートドライバーも加わるだろう」と予想する。さらに言えば、GT500はこのタイミングでレースは無いので、GT500のドライバーをGT300チームの“助っ人”として起用することも理論上は可能なはずだ。

 当然ファンが期待するのは、ヨーロッパのワークス格のチームが参戦することだ。アウディのWRT、フェニックスやポルシェのマンタイ、BMWのシュニッツァーやローヴェ、メルセデスのHTP、ベントレーのMスポーツ等が参戦すれば、ファンにとってはたまらない。

■タイヤは? 性能調整はどうなる?
 また、ラテルは現在車種バラエティが増えているGT4については、「スパ24時間では、65台のGT3カーが参戦している。だからGT3と、JAF-GTカーだけで十分だろう」と現段階では考えていないという。性能調整(BoP)についても「スーパーGTでも使われているし、世界中の選手権でBoPをSROのものを使っている。うまくいくだろう」としている。

 さらに、「おそらくこのプロジェクトではタイヤはワンメイクになるだろう。BoPもその方が定めやすい。日本のタイヤメーカーかどうか!? それは僕の役割ではないね(笑)。モビリティランドが決めてくれるだろう」とタイヤワンメイクを示唆した。ちなみに、SRO主催のレースではピレリが多いが、昨年のセパン12時間ではヨコハマも使用された。

 そしてモビリティランドが目指すのは、他の多くの著名な耐久レースと同様に、鈴鹿10時間耐久を「鈴鹿市全体を巻き込んだイベントのようなものができれば(山下社長)」という夏のお祭りイベントにしたいということだ。すでにモビリティランドでは、行政を含めた話をしているという。週末だけの開催ではなく、1週間を通した“お祭り”が理想のようだ。

 そのコンセプトがあることから、インターコンチネンタルGTチャレンジのような“世界戦”になることは、ラテルは「現在協議中」というものの、山下社長は「それほどこだわってはいません」という。

「1000kmのはじまりも、8耐のはじまりも最初は世界選手権ではありませんでした。その後変遷は重ねてきましたが、まずは我々のイベントが魅力的なものになるということが先になります」

■「夢のステージ」実現に向けた今後の課題は
 一方、今後に向けての課題もある。まず気になるのは、実際にエントリーが集まるのかどうかだ。モビリティランドでは、参戦モチベーション向上を目指し総額1億円という賞金を用意した。ただ、国内のチームでも「シリーズ戦でないということは、出なくてもいい」とも言える。実際に10時間耐久ともなればコストも相応にかかり、車両への負担も出てくるだろう。これを上回るレースとしてのプレステージ性が重要なことは、ラテルも示唆している。

 さらに、日程の面でも世界各国のシリーズ戦との協調が不可欠だ。SROとのパートナーシップによりその面では配慮がなされるだろうが、海外チーム車両の参戦には、コストが高い航空便での輸送がおそらく必須になるだろう。現在レース開催のスポンサー等も活動しているというが、こちらの確保も重要な課題だ。

 また、スーパーGT300クラスのGT3車両やスーパー耐久ST-X車両は、GT3のレギュレーションどおり性能に関わる改造はできないものの、ホイールの変更やドライバー交代のサポート器具、パーツ等で日本独自の改良が細かな部分で認められているが、SRO主催のレースでは純正のものに戻さなければならないなど、細かなレギュレーションのすり合わせも必要となる。

「世界のGT3のシリーズ統一戦という夢のステージ(山下社長)」というレースは、いったいどんな姿で2018年に行われるのか。ラテルは「もちろんこの新しいレースも人気になるだろう」と期待を込める。

「なんと言っても日本で最も長距離のレースになるからね。アメリカでもデイトナ24時間、セブリング12時間、ヨーロッパでもニュルブルクリンク24時間、スパ24時間と、長距離レースは大変な成功を収めている。鈴鹿10時間も1000kmの歴史を繋いだまま、大きなレースになるだろう」