3月4日、鈴鹿サーキットでスタートしたモータースポーツファン感謝デーで行われたイベント『Hondaロードコースの源流』で、国内外のレースで多くの伝説を築き上げてきた星野一義が、先輩にあたる北野元、高橋国光のふたりとともに、1966年に世界グランプリ250ccクラスのタイトルを獲得したホンダRC166を駆り、デモランを行った。
四輪レースでは主にニッサンのドライバーとして、数多くの伝説を残してきた闘将・星野一義。中学生のころ、世界に挑戦し大活躍したホンダの二輪レーサーに熱中し、雑誌『オートバイ』や『モーターサイクリスト』で見た高橋国光の勇姿、マン島を駆けるホンダのバイクを何度も見返し、スペックを「今でも全部書ける」というほど、星野にとってホンダのバイクは憧れだった。
その後モトクロスに挑戦をはじめカワサキワークスに入ったため、ホンダは星野にとってライバルとなった。そのため、当時のホンダのバイクに乗ることは「叶わぬ夢」となっていた。しかし、その星野の憧れを聞きつけた北野と国光が「夢を叶えよう」と実現したのが、今回のイベントだ。しかも用意されたのは、星野が「125ccの5気筒も好きだったけど、これは別格。たまらない」という6気筒のRC166。2台しか現存していないマシンだ。
今回のイベントのために、モビリティランドは当時のホンダワークスのライディングスーツを再現したものを採寸し制作。また、「星野がRCに乗る」と聞き、友人たちも鈴鹿に駆けつけたほか、「子どものころからの夢が叶うから」と星野は家族を鈴鹿に呼び寄せた。そして星野が“所属”する立場のニッサンも、快くホンダのバイクを駆ることを許可してくれた。
爽やかな晴天に恵まれた4日、いよいよデモランのときがやってきた。北野、国光とおそろいの、ブラックに『HSC』のロゴが入ったスーツを着た星野は、「あれから40年。やっとこのチャンスが来ました」とふだんの監督のときとはまったく異なる、子どものような笑顔で語った。
トークが終わり、「ホンダさん、このチャンスをくれてありがとう! マン島に行ってきます(笑)!」とヘルメットを被った星野は、6気筒の非常に甲高いエキゾーストノートを響き渡らせたRC166にまたがると、RC164の北野、RC142の高橋に続いてストレートに入っていった。
「クラッチを離す感触や、感覚は体が覚えている。考えなくてもできる」とひさびさのライディングながら、前を走る北野、高橋を追い抜かないように気をつけつつも、星野は回転に気をつけつつ、スクリーン越しに先輩たちの背中とコースを眺めながら周回を終え、笑顔でバイクを降りた。
「いや~、本当にすごかった! すごいよ」と星野は興奮した様子で語った。
「あのサウンドも素晴らしい。RC166はやはりフェロモンがあるよね。本田宗一郎さんは本当にすごいことをやってきたと思うよ。そして他のメーカーもだけど、日本の技術は本当にすごい」
「1万3000回転でバラついちゃうんだけど、それを越すといきなり1万7000回転来るんだ。そこの谷が直らないらしいんだけど、1万7000の音はすごかったな……。ウォーミングアップしているときの音からして素晴らしいよね。やっぱりレーサーはこうじゃなきゃ!」
「もう少し走りたかった!」という星野だが、走行は5日も行われる予定だ。ふたたび感動を新たにする星野の表情と、最高のエキゾーストノートをふたたび目の当たりにすることができそうだ。