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川口春奈は少年漫画ヒロイン向き? 『一週間フレンズ。』の“絶対的美少女”感

2017年03月04日 06:03  リアルサウンド

リアルサウンド

『一週間フレンズ。』(c)2017 葉月抹茶/スクウェアエニックス・映画「一週間フレンズ。」製作委員会

 映画が始まってすぐの時点で、主人公はヒロインに一瞬で恋に落ちるというのに、その恋が一切前に進まずに、一週間経てばリセットされてしまう。出会いの場面での悪印象と、ライバルの出現から、主人公に思いを寄せる幼馴染と、正反対の性格だけど理解してくれる親友の存在。まさに典型的な青春ラブストーリーが始まるお膳立てができているのに、そうはならない。


参考:山崎賢人、キラキラ男子から三枚目男子へ 『一週間フレンズ。』で見つけた本当の個性


 それだけ、「友人との記憶が一週間でリセットされる」という設定が強く物語に左右しすぎていて、10年近く前に日本映画界で大ブームとなった難病モノのラブストーリーとはまた違うアプローチで、この歯がゆい物語を演出する。しかも、途中から登場するライバルのイケメン青年のことを、ヒロインが忘れないのは「友人」ではなくそれ以上の立場に置いているからだと気付いてしまうと、もう居たたまれなくなってしまう。


 それでも、これが少女漫画原作の映画ではなく、『月刊ガンガンJOKER』に連載されていた毅然とした少年漫画だったことを思い出すと、この進展しない恋模様にも合点が行く。これが少女漫画であれば、ライバルからヒロインを奪い取ることに成功して、“恋愛成就”という帰結点に向かって進んでいくのだろうが、少年漫画である以上、どの雑誌で連載していようが「努力・友情・勝利」が根本に見え隠れする。


 山崎賢人演じる主人公は、ヒロインのために空回りしながらも積極的に奔走していく「努力」をしつつ、うまく恋心を扱いきれずに「友情」から入る。そして、一度は途絶えてしまうその「友情」の再開こそが「勝利」としての位置付けだろう。その結末の先に訪れるであろうラブストーリーに期待してしまうのは少女漫画的な考え方で、あくまでも少年漫画的な見せ方に留める。なんとも憎たらしい演出だろう。


 これまで少女漫画の実写化で、王子様として数多の恋模様を演じ切ってきた山崎が、なんの変哲もない主人公を演じられるというのは、見ていてとても安心ができる。むしろ、バラエティ番組などで見せる彼の朗らかな表情からは、屈託のない笑顔は実に似合うし、こういうキャラクターの方が相応しいのではないかとさえ思えるのだ。


 一方でヒロインの川口春奈は、ここ数年で急激に女優としての魅力を増した印象があるが、本作ではさらに磨きがかかり、画面に映るだけで映画が輝く。川口といえば、もともとはファッション雑誌『ニコラ』でデビューし、リハウスガールからポカリスエットのCMを経て、高校サッカーの応援マネージャーに就任するなど、いわゆる若手美少女女優の登竜門をコンプリートしてきた逸材だ。


 その“絶対的美少女女優”としての地位にいながらも、なかなか大きな当たり役に恵まれずにいた彼女は、2013年の秋に放送された、ゴールデンタイム枠での初主演ドラマ『夫のカノジョ』(TBS系)が歴史的な低視聴率を記録してしまう。普通ならばそこで低迷期に入ってしまいかねないところを、逆に踏み台にして、チャンスに変えたとみて間違いないだろう。翌年からの出演作、とくに『金田一少年の事件簿N』(日本テレビ系)で4代目・七瀬美雪を演じた彼女の姿は、プレッシャーから解放されたように伸び伸びとしていた。同じ役をその1年半前に演じたときと比べれば、表情の柔らかさが格段に違うのだ。


 今回の『一週間フレンズ。』で彼女が演じた藤宮香織という役柄を見ると、ちょうどその時期に公開された主演映画『好きっていいなよ。』での主人公・橘めいを思い出す。どちらも過去に起きた友人とのトラブルがきっかけで心を閉ざし、独りで過ごしていた彼女に、イケメン男子が近付いてきて、徐々に心を開いていくという共通点がある。今回は「友達になってください」という山崎賢人に対して「ムリ」の2文字を浴びせ続けるが、出会いの場面で回し蹴りを食らわせて「死ね」と罵るよりかは充分優しくなったものだ。


 大きく違うことは、典型的少女漫画の軌道に乗っている『好きっていいなよ。』では、自分の決めたルールや、おとずれる試練に自分から乗り越えていくというヒロインの成長があるのに対し、『一週間フレンズ。』では、そのままでありつづけるヒロインに、男主人公が成長していくということにある。その部分でも、明確に少女漫画と少年漫画の違いが現れているのだ。


 いずれにしても、近づきがたい美少女としてのイメージを維持しつづけている彼女だからこそ絵になるのだろう。その点では、もしかすると少女漫画よりも少年漫画のヒロインに向いているのではないだろうか。


※山崎賢人の「崎」は「たつさき」が正式表記


■久保田和馬
映画ライター。1989年生まれ。現在、監督業準備中。好きな映画監督は、アラン・レネ、アンドレ・カイヤット、ジャン=ガブリエル・アルビコッコ、ルイス・ブニュエル、ロベール・ブレッソンなど。