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「週末映画館でこれ観よう!」今週の編集部オススメ映画は『アシュラ』、「KUZOKU SAGA~空族サーガ~ 空族全作品特集上映」

2017年03月03日 20:12  リアルサウンド

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 リアルサウンド映画部の編集スタッフが週替りでお届けする「週末映画館でこれ観よう!」。毎週末にオススメ映画・特集上映をご紹介。今週は、編集スタッフ2人がそれぞれのイチオシ作品をプッシュします。


参考:宮台真司×富田克也×相澤虎之助 特別鼎談「正義から享楽へ 空族の向かう場所」


■『アシュラ』


 リアルサウンド映画部のロン毛担当・宮川がオススメする作品は、韓国映画『アシュラ』。


 『オールド・ボーイ』『渇き』のパク・チャヌク監督作『お嬢さん』(3月3日公開)、『チェイサー』『哀しき獣』のナ・ホンジン監督作『哭声/コクソン』(3月11日公開)と、韓国映画界を代表する監督の最新作が立て続けに公開される3月上旬。そんな2作品と同時期に公開されるのが、『MUSA -武士-』のキム・ソンス監督が手がけたノワール映画『アシュラ』だ。


 利益のためならどんなことでもする悪徳市長のパク・ソンベ、ソンベの裏の仕事を背負い金を稼ぐ汚職刑事のハン・ドギョン、ドギョンを兄のように慕う後輩刑事で、後にパク・ソンベの手下になるムン・ソンモ、犯罪行為を犯してまでもパク・ソンベを逮捕しようと目論む検事のキム・チャインという4人の関係性を軸に、本作では暴力や裏切りなど、悪人たちの狂気が描かれていく。


 パク・チャヌクとナ・ホンジンに比べて日本公開作品が少なく、監督としての知名度は日本ではあまり高くはないであろうキム・ソンスだが、韓国では彼らと肩を並べるほどの実力派監督だ。韓国ノワールの傑作『悪いやつら』のユン・ジョビン監督は「凄まじいエネルギーに打ちのめされた」と本作に太鼓判を押しており、先のナ・ホンジンも「スクリーンに映る全てが素晴らしい」と大絶賛。


 クァク・ドウォン(検事キム・チャイン役)とファン・ジョンミン(市長パク・ソンベ役)の『哭声/コクソン』コンビをはじめ、『グッド・バッド・ウィアード』のチョン・ウソン、『背徳の王宮』のチュ・ジフン、さらには名バイプレイヤーとして知られるチョン・マンシクなど、韓国映画ファンにとっては堪らない役者たちが魅せる渾身の演技合戦は息つく暇もないほど。


 韓国ノワールならではの犯罪ドラマとして優れたストーリー展開はもちろんだが、タバコの火を顔面に押し当てたりグラスを食べたり(!)という容赦ない暴力描写、どうやって撮ったのかと目を疑うほどの斬新なカーアクション、ジョニー・トーを彷彿とさせる見事なラストの銃撃戦など、この手の作品が大好物な人もそうでない人も、間違いなく魅了される1作だ。


 なお、リアルサウンド映画部では、キム・ソンス監督のインタビューを近日公開予定。


■「KUZOKU SAGA~空族サーガ~ 空族全作品特集上映」


 ベイスターズファン歴22年目の石井がオススメするのは、新宿K's cinemaにて開催される「KUZOKU SAGA~空族サーガ~ 空族全作品特集上映」。


 先週末より最新作『バンコクナイツ』が公開中の映像製作集団・空族。富田克也、相澤虎之助のふたりが中心となって活動する空族は、常識に囚われない映画作りとテーマ選びで、唯一無二の映画体験を観客に与え続けてくれています。


 2011年に公開された『サウダーヂ』は、映画というフィクションでありながら、登場人物と風景が自分の心に棲み着いてしまった、そんな一生ものの映画体験を味わってしまった作品でした。映画に登場する外国人労働者たちや“土方”たちの姿は、決して身近な存在ではないのに、観終わった後に不思議な親密感を持ってしまう距離感が『サウダーヂ』にはあります。舞台となった山梨県甲府市という街、この日本という国を捉え直さずにはいられません。


 『サウダーヂ』が突きつける、定住外国人や貧困、地方都市の荒廃といった決して一元化できないテーマは、公開から6年が経った今、ますます見過ごしてはいけないものとなっていると感じます。2時間半を超える長尺の作品にもかかわらず、「もっと彼らと一緒にいさせてくれ!」と思わず思ってしまう、むしろ、2回、3回と続けて観ることで味わいが増していく、そんな傑作です。


 その他、昨年10月に開催されたシネマヴェーラ渋谷「日本映画の現在」で上映されなかった、『チェンライの娘』、『RAP IN TONDO の長い予告編』など、貴重な作品を本特集上映では観ることができます。特に『チェンライの娘』の川瀬陽太さんの中年ダメ男っぷりは最高なので(今思えば、『バンコクナイツ』の前日譚か?)お見逃しなく。


 全作品ソフト化されていない劇場でしか観ることができない空族映画。 最新作『バンコクナイツ』とあわせて、この機会に是非!(リアルサウンド編集部)