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スダンナユズユリー × DJ DARUMA × A&R櫻井克彦『OH BOY』ヒップホップ座談会

2017年03月01日 19:03  リアルサウンド

リアルサウンド

スダンナユズユリー × DJ DARUMA × A&R櫻井克彦(写真=石川真魚)

 E-girls兼Happinessのパフォーマー・YURINOと須田アンナ、そしてE-girlsのボーカル・武部柚那の3人によるガールズヒップホップユニット・スダンナユズユリーが3月1日、デビューシングル『OH BOY』をリリースした。1ボーカル&2MCというスタイルで、ダンスまで披露するヒップホップユニットは非常に珍しく、しかも彼女たちは自らダンスの振り付けや歌/ラップのリリックも手がけているという。もともとヒップホップが大好きだという3人は、いかにしてこの表現にたどり着いたのか。メンバーたちに加え、スダンナユズユリーのディレクションを手がけたPKCZ®のDJ DARUMA氏、楽曲プロデュースを手がけたavexのA&Rの櫻井克彦氏を迎え、制作の裏話から、LDHにとってのヒップホップについてまで、深く語ってもらった。


(関連:EXILE THE SECONDが示すヒップホップへのアプローチ 矢野利裕『BORN TO BE WILD』評


■DJ DARUMAとA&R櫻井克彦が語る、スダンナユズユリーが生まれるまで


ーーDARUMAさんと櫻井さんは、スダンナユズユリーにどんな関わり方を?


DARUMA:僕は彼女たちと一緒にロゴやイメージなど全体のディレクションのお手伝いをさせて頂いています。HIROさんが持っているマインドやスタイルを、僕のフィルターを通してスダンナユズユリーに落とし込む感じです。HIROさんは「DARUMAとNIGO®さんは同じヒップホップなんだけど両者は表現方法が異なっている」と言っていて、DARUMAならではのヒップホップ感をスダンナユズユリーに反映してほしいと。NIGO®さんは現在、Happinessでディレクションを行っていますが、それとはまた異なるカラーを引き出していければ。


櫻井:僕はavexの社員で、彼女たちの音源制作を中心に携わっています。スダンナユズユリーは、メンバーの「ヒップホップをやりたい!」という衝動から始まっていて、ここまで来る道のりの中で、グループの方向性やコンセプトが定まっていきました。今は音楽機材が発達しているから、その気になればPC一台でトラックを作れるし、iPhoneでラップも録ることもできる。気軽にヒップホップを始められる時代です。だけど彼女たちは、この1年をかけていろんなことを吸収して、試行錯誤しながら自分たちのスタイルを作り上げてきた。この過程がとても重要でした。


ーーDARUMAさんと櫻井さんから見た、メンバーの印象は?


櫻井:彼女たちは、生まれた時からヒップホップカルチャーがあって、自然に触れてきた世代なんだなと感じます。90年代からヒップホップに触れてきた我々でも、たとえばカラオケでラップを歌ったりすることに抵抗感があったりするのですが、彼女たちはてらいなく歌えてしまう。それはすごく羨ましいし、だからこそ彼女たちがヒップホップに挑戦することに大きな可能性を感じています。


DARUMA:彼女たちのヒップホップの解釈は、僕たちが思っているものとは少し違っていて、そこがすごく良い。もちろん、同じ文化の延長線上にあるんだけれど、彼女たちは枠に捉われずに自分たちなりの解釈で、自分勝手に楽しんでいるのが素晴らしいと感じています。主体的に楽しんでいる感覚はキープしつつ、僕たちが経験的に培ってきたベーシックなヒップホップ感を取り入れてもらって、きちんと世の中の人々に共感してもらえるスタイルを一緒に作り上げていきたいですね。


ーーただラップに挑戦しただけの楽曲ではないことは、出来上がった作品を鑑賞しても感じました。細部に至るまでヒップホップカルチャーへのリスペクトが込められていて、尚且つ、音楽的な挑戦もしている。


櫻井:制作していく中で、しっかり3人のキャラ分けができたのは大きな収穫でした。Happinessは7人組の2ボーカルで魅せていくスタイルで、エレガントな雰囲気や女性らしい柔らかさもある。それに対して、スダンナユズユリーは“三位一体”のガチャガチャしたパフォーマンスが売りで、よりポップで毒っ気があるイメージです。メンバーそれぞれを紐解いていくと、アンナは何度もラップに挑戦する中で、低音と倍音が出せることが武器だと気付いて、そこにスワッグ感を足したり、わざとビートをズラすテクニックを身につけたりして、今のスタイルになりました。彼女と好対照となったのはYURINOで、ダンスのスピード感やリズム感が、そのままラップのスタイルにも表れている。滑舌も良いし、高音でキレがあります。加えて、チョイスするリリックもYURINOらしい。ボーカルの柚那は、全然そういうイメージがなかったので、「え、この子がヒップホップ好きなの?」って驚いたけれど、ブースに入ったら歌はうまいし、声はソリッドだし、すごくヒップホップに合っている声質だなと感じました。普通、歌が得意な人はラップが苦手だったりするんだけれど、彼女はリズム感がタイトで、しかもダンスまでできる。走攻守、三拍子そろった選手ですね。


ーーシングル表題曲「OH BOY」の制作陣には、トラックメイカーにSKY BEATZ氏、ミックスにD.O.I.氏を迎えるなど、ヒップホップシーンでも活躍するクリエイターが集結していますね。


櫻井:昔から一緒にやっているヒップホップのクリエイター達には、本当に助けてもらいました。たとえばレコーディングはBUZZER BEATSのSHIMIくんですし、ラップについてはKEN THE 390くんに相談して、DREAM BOYに所属するYURIKAちゃんをアドバイザーとして紹介してもらいました。みんな、スダンナユズユリーのかっこよさを理解してくれて、ビジョンを共有できる方々です。単に流行のサウンドを取り入れるのではなく、スダンナユズユリーの個性に合わせて、かっこいいものを選び抜いていく感覚で作っていきました。そうやって制作を進める中で、僕はいくつか彼女たちにハマるルールを見つけて。たとえば、セクションで歌い分けないこと。Aメロがラップ、Bメロが歌、サビが入って、ブリッジでラップみたいな感じで、順番にやっていくのではなく、どのセクションでもラップと歌を織り交ぜて、3人が絡み合う構成にしました。ライブでも、3人が固まってパフォーマンスする姿をイメージしました。また、ユニゾンパートは極力入れないようにして、さらに複雑にしました。でも、そうなるとトラックも派手だから、情報量が多すぎて聴き疲れしてしまう。そこで今度は削ぎ落とす作業が必要で、歌とラップが入り混じっていても、リリックの字数やフロウを整えることで、聴きやすさを追求しました。夏合宿のようなイメージで何度もスタジオに入り、メンバーと一緒に何度もトライ&エラーを繰り返し、ようやく形になっていきましたね。「うまくいったらHappinessのツアーでパフォーマンスしよう」って言っていたのが、ちゃんと念願が叶って皆さんにお披露目できたのは、メンバーにとっても僕らにとっても大きな自信になりました。


■メンバーがヒップホップに目覚めたきっかけ


ーーメンバーの皆さんは子どもの頃からヒップホップに触れてきたとのことですが、実際に意識するようになったのは?


スダンナ:小学生の頃、兄の影響でDef Techを聞いていて、ラップも幼い頃から真似して歌っていました。母がフィリピン人なのですが、洋楽のブラックミュージックを耳にすることも多かったので、その影響も大きいと思います。その後、2NE1のCLちゃんのパフォーマンスを観て「女の子がラップしてダンスをするのは、こんなにカッコイイんだ!」って衝撃を受けてからは、音楽はもちろんファッションもヒップホップ寄りになっていきました。


柚那:私は小学校2年生からダンスを始めたんですけど、踊ってきたジャンルがヒップホップだったこともあって、今も変わらず聴き続けている音楽なんです。ダンスを通して好きになった音楽なので、特定のアーティストを聴いてきたっていうよりは、思わず踊り出しちゃうようなリズムに反応して聴いてきた感じです。


YURINO:私もダンスからヒップホップに入りました。中学1年生から始めて、自然とヒップホップが好きになって、DJをやっていた従兄弟のお兄ちゃんからKANYE WESTのCDを借りて聴いたのがきっかけで、自分でも掘るようになりました。高校生になって東京に来てからはストリートで遊んでいる友達もできて、そういう子たちからヒップホップのファッションや音楽について教わって、どんどんのめり込んでいきました。古着屋を巡ってスニーカーをチェックしたりして、スタイルも常にオーバーサイズでした。表舞台に立つ時も、プライベートでも、常にヒップホップを意識しています。


ーースダンナユズユリーの表現は、ファッションも重要なポイントですね。


スダンナ:ヒップホップが好きな人って、ファッションに対するこだわりも強いと思いますし、気に入ったものを自分たちで発信していく姿勢は、音楽もファッションも同じ。ぱっと見で伝わるヒップホップ感は大切にしていきたいです。


YURINO:私たちだから表現できる音楽、そしてファッションを追求していくことで、耳でも目でも楽しめるガールズヒップホップを見せていきたいです。例えば2PACの曲で踊るときに2PACのバンダナの巻き方で登場したり、アーティストがMVで着ていた服を取り入れたりなど、ヒップホップカルチャーを知っているからこそ作れるスタイルがあると思っています。そこまで実践することで、もともとヒップホップが好きな方々にも面白がってもらえたら。


柚那:特に同世代の女の子たちは、見た目のかわいさやかっこよさに影響を受けて、好みの判断材料にすることも多いと思います。私たちが活動する時にこだわっているファッションから、そういう子たちにもっとヒップホップを好きになってもらいたいです。


ーー今回、自らリリックも手がけたそうですね。実際にチャレンジしてみて感じたことは?
スダンナ:私とYURINOちゃんはパフォーマーだったので、この活動が始まるまで、楽曲制作に携わったことがありませんでした。レコーディングを見学したことはあったけれど、「ボーカルは頑張っているな、パフォーマーも頑張らないと!」って、応援する気持ちの方が大きかった。実際にブースに入ったら、レコーディングって本当に大変で「ボーカルは毎回、こんなにすごいことをしていたんだ」って、改めて彼女たちのすごさに気付きました。でも、やっぱり自分たちが制作に携わった楽曲は愛着もひとしおで。ちゃんと形にしてファンの方にお届けできたことがすごく嬉しいですし、関わってくださったスタッフさんにも感謝の気持ちでいっぱいです。皆さんにちゃんと恩返しできるよう、もっと頑張っていきたいって強く思いました。この初心は、ずっと大切にしていきたいです。


柚那:3曲目の「こんにちWhat's Up」では私もラップに挑戦しているんですが、本当に難しくて。リズムはわかるものの、やはり流し方が歌っぽくなってしまったりして、かなり苦労しました。でも、スダンナとYURINOは練習のたびにどんどん自分のスタイルを確立していって、二人の吸収力に驚くとともに、負けてられないなって。それと、「OH BOY」のリリックを自分で書かせていただいたのも大きな経験になりました。HIROさんから、等身大であることを大切にと言われていたので、3人で〈ひとりの男の子に夢中な女の子〉をテーマに決めて、できるだけ素直に自分の気持ちを綴ったんですが、書くのに丸一日かかってしまいました。でも歌い手として、自分で作詞するのは夢だったので、曲が出来上がったときはすごく嬉しかったです。


YURINO:「OH BOY」の女の子は、〈ミニミニでPretty girl〉という歌詞があるように、自分のことをかわいいって言っちゃう強気な女の子なんです。そういうところにヒップホップの魅力を感じてくれたら嬉しいですね。パフォーマンスの面では、今まではダンスだけをやってきたんですが、今回はラップに挑戦させていただいて。歌いながら踊るのって本当に難しいけれど、すごく楽しいなって思いました。最初はマイクとの距離の取り方もわからなくて、マイクを口にぶつけてしまったり、かなり苦戦したのですが、ダンスだけのパフォーマンスとは違った面白さがあることも発見しました。表現の幅が増えて、新たに発信できる方法が増えたのも嬉しいです。


■スダンナユズユリー、そしてLDHにとってのヒップホップとは


ーー若い世代の彼女たちが、これほどヒップホップに夢中になっているのはすごく頼もしいです。日本におけるヒップホップの現状を、櫻井さんとDARUMAさんはどう捉えていますか?


櫻井:今はフリースタイル・バトルなどの影響もあって、ヒップホップが盛り上がっていますね。何度も日本でヒップホップが流行したことがあったのですが、その度にブームとして消費されてしまいました。もちろん、ヒップホップが消えたわけではなかったけれど、メインストリームまで席巻するような勢いはなくなっていった。その反省もあるからこそ、今回は単なるブームではなく、ちゃんとカルチャーとして定着して、良い作品が多くの人に届くようになれば嬉しいです。そのためにも、メインストリームで通用する間口の広いヒップホップは必要です。そういう意味で、ヒップホップの4大要素(ラップ、DJ、ダンス、グラフィティ)をちゃんと踏まえて、なおかつポップスターとしての才能を持ったスダンナユズユリーには大きな期待をしています。


DARUMA:僕が近年、すごく大きい出来事だと思ったのは、韓国のラッパー・Keith Apeが日本のKOHH達とフィーチャリングして発表した「잊지마(It G Ma)」が世界的にヒットしたこと。KOHHらの出現でアジアのヒップホップが一気に変わったと感じています。彼等のスタイルは流行を踏襲しながらも独自性があり、しかもアメリカのヒップホップリスナーにも受け入れられた。アジアのヒップホップを世界に発信していくには、またとないチャンスだと考えています。櫻井さんが言うように、今回の波を“ラップブーム”として終わらせないためにも、日本のヒットチャートに新世代のヒップホップを送り出すのは、90年代からこの文化に携わってきた僕たちの責任でもあると捉えています。そしてその延長としてアジア発のヒップホップカルチャーを永続的に生み出していきたいです。


ーーガールズヒップホップのグループというのも珍しいし、フレッシュですよね。


櫻井:ヒップホップは自己主張と承認欲求の強い、割と男社会のカルチャーなので、これまで女の子が挑戦しにくかった部分もあると思います。加えて、自分で歌詞を書くのでグループとしてまとめていくのはさらに難しい。ましてや、ラップだけでなく歌とダンスを兼ね揃えたグループとなると……。


DARUMA:あと、カワイイ! これも重要なファクターですよ。


櫻井:そう、カワイイ(笑)。こんなグループはほかにないと思います。


ーースダンナユズユリーもそうですが、ELLY(三代目J Soul Brothers)さんがCRAZYBOY名義でヒップホップに挑戦するなど、LDH全体がヒップホップの色を濃くしている印象も受けます。改めて、LDHにとってのヒップホップとは?


DARUMA:もともとHIROさん自身がヒップホップを通ってきた人なので、アーティストがきちんとそれぞれの責任を持って挑戦するのなら、会社でバックアップしていこうという体制は確実にあります。繰り返しになりますが、今は日本にヒップホップ文化を根付かせる大きなチャンスで、その意味でもLDHの役割は大きいと考えています。アジア全域やアメリカなど、世界のヒップホップシーンと協力体制を取ってシーンを発展させていきたいですね。


スダンナ:私たちが好きで影響を受けたものを、スダンナユズユリーを通して発信することで、同世代の女の子が「ヒップホップってかっこいいんだ」って興味を持ってくれたら嬉しいですし、いつかは女の子がカラオケでラップをするのが普通になるくらいに浸透させたい。それが、LDHに所属する私たちだからこそできる、ヒップホップへのアプローチなんだと思います。そのためにも等身大の自分たちで楽しみながら、音楽への探究心を磨き続けていきたいです。


柚那:今回はデビューシングルなので、キャッチーな楽曲ですが、もっとヒップホップ色が濃い楽曲や、「女の子がこんな曲をやっちゃうの?」ってびっくりされるぐらいハードな楽曲にも挑戦したいですね。加えて、ライブもたくさんやって、いつかは観に来てくれたファンの方々も一緒に踊ってしまうような、そういう空間を作っていけたら。


YURINO:E-girlsからの派生グループなので、今はもともとのファンの方々が応援してくれている状況だと思います。ファンの皆さんを大事にして期待以上のものを届けるとともに、さらにその枠を広げて、ヒップホップが好きな人々にも支持されるようなグループに成長していきたいです。(取材・文=リアルサウンド編集部)