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ceroが考える“都市と音楽の未来” 「今は『オルタナティヴ』な音楽って成立しにくい」

2017年03月01日 18:03  リアルサウンド

リアルサウンド

cero(撮影=小田部伶)

 3月2日から8日まで一週間にわたり、東京・渋谷近辺にて超大型イベント『TOKYO MUSIC ODYSSEY』が開催される。スペースシャワーTVが主催する本イベントは、「都市と音楽の未来」をテーマに渋谷WWWやWWW Xなど複数の会場にて行われる音楽とカルチャーの祭典。ライブやDJパフォーマンスをはじめ、映像作品の上映やアワード授賞式など、様々なイベントが日替わりで行なわれる予定だ。


 そこで今回、3月4日にWWW Xで行われる『ALTERNATIVE ACADEMY』に、STUTSやYogee New Waves、WONKらと出演することが決まったceroを迎え、本番に向けての意気込みはもちろん、本イベントのテーマ「都市と音楽の未来」にまつわる話をざっくばらんに話してもらった。(黒田隆憲)


・「バンドのメンバーの楽器を想像して作るようになった」(橋本)


ーー最近ライブのサポート・メンバーが変わりましたが、調子はいかがですか? 


高城晶平(以下、高城):すごく楽しいですね。練習も面白くて実り多い編成です。これまでもceroというグループはバンド編成......つまりフォーマットが変わることで音楽性が変化していったり、あるいは音楽性の変化に伴って編成が変化したりしながら活動してきたのですが、ここにきてまた変貌を遂げていて。


橋本翼(以下、橋本):これで何期目だろうね(笑)。


高城:いつも僕らは、自分たちが「やりたいこと」に「やれること」が追っつかず、器とそこに乗る素材の大きさが、なかなか合わなくて、素材が揃った時には器が変わってたり、その逆もあったり。今は、ちょうど器と素材がぴったり合っている感じがします。僕ら、『Obscure Ride』(2015年5月)をリリースして以降、演奏スキルがかなり鍛えられ、ようやく自分たちが「やりたいこと」と「やれること」が揃った気がする。そのうちにまた、ズレが生じてくるのかもしれないですけどね。とにかく今は、バンドとして脂が乗っている時期なので、いろんな人に見て欲しいです。


荒内佑(以下、荒内):今の編成のいいところは、メンバー各々の「能力差」がすごくあるところ。譜面をケータイのメールみたいにパパッと読める人もいれば、読めない人もいて。めちゃくちゃ演奏が上手い人もいれば、俺みたいによくわかんない演奏している人もいる(笑)。どっちが良い悪いじゃなくて。それがすごく豊かだなって思うんです。すごく「社会」っぽいというか。


高城:そうだね。「ソーシャル」がバンドの中にある感じがする。


荒内:みんなが同じように上手かったり、同じように下手だったりするよりは、能力差がある方が魅力を感じます。飲み会もそうじゃないですか、同じ話題を同じようにするというよりは、多様な話題になって。今はそういう面白さがあります。


ーーそれって、お互いの価値観の違い、能力差を楽しめるからこそできるんですよね。能力のある人がない人にイライラしたり、逆にやっかんだりしたら、そうはいかない。


荒内:まあ、多少はそういうイライラもあると思いますけどね(笑)。それもスパイスです。


橋本:以前曲を作る時は、「ライブで再現するにはどの楽器を代わりに使ったらいいんだろう」と考えていたんですが、今はバンドのメンバーの楽器を想像して作るようになった。「このフレーズを彼が演奏したらどうなるかな」とか、一人ニヤニヤ想像しながら作っています(笑)。


ーーさて、今年も『TOKYO MUSIC ODYSSEY』が開催され、『ALTERNATIVE ACADEMY』にはceroもラインアップされています。確か昨年の『ALTERNATIVE ACADEMY』は、残念ながら直前に出演キャンセルになってしまったんですよね?


高城:そうそう。橋本くんがね、二日前だったかな、インフルエンザに罹ってしまって。


橋本:すみませんでした!


高城:ちょうどウイルスの潜伏期間だったから、これはどうしようもないと。出演キャンセルは、震災の時を除くと初めてだったかな。とても残念だったんですけど、「もし次回がありましたら是非」というふうに思っていたので、今年もこうやって呼んでいただけて光栄です。


ーー高城さんと荒内さんは、観に行かれたそうですね。


高城:はい、客席で観ていたんですけど、なんだか複雑な気持ちでしたよね。置かれている立場として、素直に楽しめる感じではなかったんですけど(笑)。でも、とてもオシャレで素敵なイベントでした。


・「ceroを始めた頃は、オルタナ感やアンチテーゼは意識してた」(高城)


ーー『TOKYO MUSIC ODYSSEY』は、テーマが「都市と音楽の未来」です。僕らが今住んでいる東京について、何か思うところあります?


高城:僕ら3人はJR中央線沿いにある吉祥寺という場所でよく遊んでいたのですが、高校の頃にみんなで行ってた喫茶店とか、軒並みなくなっているんですよね。当時と比べたら、ほぼ完全に細胞が入れ替わった感があって。残り少なかったいくつかの店も、壊滅状態。『カルディ』もなくなったし、『ダルジャン』っていうスパゲティ屋もなくなってしまって。でもそれは、「都市の宿命」っていうところもあるんでしょうね。みんな年老いていくし。


橋本:そういう伝統あるお店が潰れていくのは、新興勢力というか、新しい企業の力がどんどん入ってきているからだと思うんですけど、見てるとエグイなと思いますね。古いものに対して、あまり重きを置いてないような気がするし、「ちょっと野蛮だなあ」と思う時もあります。


高城:割と「スクラップ&ビルド」的な開発の仕方が多いですよね。「履歴」を残したがらないというか。去年、ニューヨークへ行った時に印象的だったのは、街がすごく古いんですよ。それって、天災や空襲の被害がなかったというのも大きいと思うんですけど。


ーーインフラが昔のまま残っていて、それを補修しながら発展している感じですよね。すごい早さで新開発が進んでいく一方、「リノベーション」という形で古いものを残していこうという動きも最近はありますよね。


高城:そういうパターンもありますよね。例えば吉祥寺の「ハーモニカ横丁」がそう。作ったおじいちゃんたちは代替りして、若い人がうまいこと受け継いで、昔ながらのお店をオシャレに蘇らせたりしている。


ーー東京も場所によって表情が違いますよね。空襲の被害が少なくて、昔ながらの街並みが割と残った西東京の方とか、再開発がガンガン進んで古い景観がほとんどないベイエリアとか、あるいは下町のごちゃっとした区域と、高層ビルが立ち並ぶ区域が混在している新宿とか。それを音楽で置き換えてみると、ceroは東京のどの辺になるんでしょうね(笑)。


高城:なるほど(笑)。うーん、でも音楽は古いものからの影響を受けずに作るのは、ほぼ不可能だと思います。全く新しい、どの文脈にも根ざしていないような音楽があったとしたら、それはもの凄いことですよね。新しく感じる音楽でも、大抵は何かのルーツだったり、何かと何かを掛け合わせたものだったりして、完全に新しいものはなかなか生まれない。「再開発したベイエリア」のような音楽が、もし生まれたらそれは凄いことだと思うけど......。


ーーじゃあ、「ベイエリアが好きな街なのか?」と言われたらそんなことないし、そこはやはり音楽に置き換えるのは無理がありますね(笑)。今回、ceroは『ALTERNATIVE ACADEMY』という枠に登場するわけですが、「オルタナティヴ」という定義についてはどう思いますか?


荒内:「オルタナティヴ」の本来の定義は、「別の選択」ということですよね。でも、音楽ジャンルとして「オルタナティヴ」という言葉が誕生した90年代と比較すると、今は様々なジャンルが乱立する中、いろんなポジションの人がいるわけじゃないですか。そうなると、「メインストリームに対する別の選択」という意味で使われていた頃のようには、「オルタナティヴ」という言葉そのものが使えない気がするんですよね。


ーー確かにそうですね。ある意味、全てが「オルタナティヴ」というか。


荒内:そうなんですよ。だから、今は「オルタナティヴ」な音楽って成立しにくい。


ーーそれだけ多様化したのは、いいことですよね。まさに、「みんなちがって、みんないい」(笑)。


高城:面白い時代だと思います。それこそceroを始めたばかりの頃は、もうちょっと気張りがあったんですよ。今となっては、当時の感覚をリアルに思い出せないんですけど、何かに対してのオルタナ感やアンチテーゼは、割と意識してやっていた。こうやって話してみて思ったけど、今はそんなことほとんど意識せずに音楽を作っていますね。気がつけば、周りはオルタナティヴばかりだし(笑)。


ーーそういえば、新木場コーストのワンマンでやっていた新曲は、さらに変態度が増していました(笑)。今の話でいうと、どこにも属さないような、それこそ「オルタナティヴな曲」だと思ったんですよね。


荒内:あの曲は、アフリカンなリズムを、それこそ「都市的」な感覚で鳴らそうというテーマで作ったんです。アフリカンなものを「アフリカっぽいでしょ?」って演奏するんじゃなくて、僕らがこうやって普通に生活している感じにフィットするよう定義し直したというか、普段着で演奏する感覚。


ーー20年くらい前だと、「アフリカンリズムを日本人がやったってそれはフェイクだ」とか、「そもそも黒人のグルーヴを日本人が体得するのは不可能だ」とか、そういう批評って普通に存在していたと思うんですよ。日本人がブラックミュージックをやるといったら、可能な限り自分のライフスタイルも含めて黒人に寄せていくことが求められていたというか。


高城:ああ、そうですね。ロックやフォークミュージックにしたって、昔は「日本語でやるものじゃない」って言われていましたし。


ーーええ。そういう感覚は、今やもうすっかりフラットになりましたよね。別に黒人に寄せなくても、日本人のフィルターを通したブラックミュージックを演奏すれば、それはオルタナティヴなものになるっていう。そういう土壌作りに貢献してきたバンドの一つは、間違いなくceroじゃないかと。


高城:例えばヒップホップにしても、かつてのロックやフォークのように「日本語でやるもんじゃない」と言われた時代もあったと思うけど、今や街のいたるところで、若い人たちが「サイファー」(ストリートで行うフリースタイルバトル)をやってる。昨年ツアーで全国を回った時も、地方の高架下でやってる人たちを見かけたし。僕ら今年で32歳になるんですけど、こういう変遷を目の当たりにするような歳になってきたんだな、と感慨深くなりました。これから先も、もっともっと変わっていくでしょうしね。


・「間違って買ったハズレのCDが、いい意味での『異物』になる」(荒内)


ーー3年後は東京オリンピックも開催されますけど、意識することはあります?


高城:2013年、開催地が東京になったという発表があり、そのすぐあとに僕らリキッドルームでライブがあって。確かMCで、オリンピックの話をしたんですよ。はっぴいえんどが『風街ろまん』を出した頃って、東京オリンピック前夜のムードを、音楽で立ち上らせるというテーマがあったらしく。それを今の気分と重ね合わせながら、「ここから東京はすごく変わっていくだろう」と思った。そんな中、自分たちはどんな風に音楽を鳴らすべきなのかを、より一層考えなきゃいけないみたいな。割と大きいことを言った覚えがあります(笑)。あれから4年が経ち、街を見渡してみるとやっぱり変わってきてる。いよいよ近づいてきてるんだなと思いますね。「待ち遠しい」というよりは危惧することのほうが多いですが。


ーー「音楽の未来」というテーマについては、何か思うところはありますか?


荒内:今の若いミュージシャン、それこそ昨年出演していたD.A.N.とかすごく早熟ですよね。色んなことを知ってる。それってインターネットの力がかなり大きいのかなって思います。例えば古着屋とか、俺らが10代の頃は、どの店がイケてて、どの店がダメか、行ってみないと分からなかったじゃないですか。「あ、ここダメだったな」とかそういう失敗の積み重ねで、だんだん経験値が上がっていくというか。でも彼らはSNSで情報を集めて、「あ、ここがイケてるんだな」みたいに効率よく情報を集めてる。そうやって、若いうちから良質なものをどんどん取り入れて作っていく音楽は、どうなっていくんだろう、と。


ーーなるほど。そういう意味では、若い世代の方がより「純化」しているというか、「結晶化」している気がしますよね。


荒内:そうですね。ただ、効率よく情報が集められる反面、みんなの持つ情報が似てきてしまう、という側面もある。間違って買っちゃったようなハズレのCDに、意外と俺たちは影響を受けていたりして、それがいい意味での「異物」になっていたりするじゃないですか。そういう感覚は、もしかしたら僕らの代で終わりかもしれない。


ーー「なんだこれ、全然良くないけど、買っちゃったからとりあえず聴くか」なんて思って聴いているうちに好きになっちゃって。


荒内:そうそう(笑)。知らないうちにそれに影響を受けていたりしますからね。もちろん、どちらの音楽が良い悪いじゃなくて、どんどん洗練されていく若い人たちが純化されていく先の音楽もとても楽しみですね。


高城:そういう意味でも今回のイベントは、すごくいいメンツですよね。直近で見たのはSTUTSかな。僕らが主催したイベント『cero presents "Traffic"』に呼ばせてもらいました。すごく好きですね。MPCプレイヤーとして登場したヒップホップのトラックメーカーなのに、例えばAlfred Beach Sandalのようなバンドをレコーディングに呼ぶ。ヒップホップとバンドの間にある架け橋を、意識せず軽やかに行き来できるんですよ。きっと、彼らが今後担うことってたくさんあるんだろうなと思います。


荒内:WONKもすごいですよね。ワールドスタンダードなことをやってる。現在進行形のジャズを、向こうのバンドにも引けを取らないレベルで奏でている。ほんと、若くて上手くてすごいなあと思います。


橋本:交流のある人たちが多いですね。Yogee New Wavesも、野音のイベントで一緒だったし。okadadaさんも『cero presents "Traffic"』の大阪公演でDJをやってもらって。まだライブをちゃんと見たことないバンドを見るのも楽しみだし、ここ最近はライブに行けてなかったバンドも、どんな風に成長しているか楽しみです。(取材・文=黒田隆憲)


■イベント情報
『ALTERNATIVE ACADEMY』
2017年3月4日(土)東京都 WWW X
OPEN 22:30/START 23:00
<LIVE ACT>
cero、Yogee New Waves、WONK
<DJ ACT>
okadada、サイトウ"JxJx"ジュン、STUTS、Licaxxx