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小金井ストーカー事件、懲役14年6月に「短すぎる」との批判…妥当な判決だった?

2017年03月01日 16:34  弁護士ドットコム

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東京都小金井市で2016年5月、音楽活動をしていた女子大生・冨田真由さんがファンの男に刺された事件の裁判員裁判で、東京地裁立川支部は2月28日、殺人未遂と銃刀法違反の罪に問われた岩崎友宏被告人に対し、懲役14年6月(求刑懲役17年)を言い渡した。


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阿部裁判長は、岩崎被告人の犯行について、冨田さんが出血性ショックで亡くなっていても不思議はなかったとして、「危険かつ悪質」「殺意は非常に強固」と批判。量刑は殺人未遂の中で「もっとも重い部類」が相当とした。


被害者参加制度を利用した冨田さん側は、無期懲役を望んでいた。一方、判決では、岩崎被告人の内省が深まっているとは言い難いものの、「一応は謝罪の言葉がある」ことや、初犯であることなどから、懲役14年6月とした。


ネット上で、量刑について「短すぎる」「死刑にしろ」といった意見が多くあがっているが、今回の判決について、刑事事件に詳しい弁護士はどう考えているのか。德永博久弁護士に聞いた。


●殺人未遂としては「かなり重い部類の判決」

ーー殺人未遂はどの程度の刑になるのか?


殺人未遂罪の法定刑は、殺人既遂罪(つまり殺人罪)と同じく「死刑、無期又は5年以上の懲役」(刑法199条、同法203条)と定められています。


ーー上限が示されていないのなら、懲役は何年にしても良い?


ただし、刑事裁判における量刑としては、(1)殺人未遂罪のみで処罰された場合には懲役3年から8年程度が相場です。また、(2)放火や爆弾等の手段を利用した場合には、他の犯罪(建造物放火罪、爆発物取締法違反等)に対する評価も含まれますので、懲役10年から20年といったものが多くなります。


ーーでは、今回の懲役14年6月という判決は?


これを前提としますと、本件の「懲役14年6月」という判決は、放火や爆弾使用等を伴うケースに近い量刑ですので、かなり重い部類の判決になります。


●過去には殺人未遂で「無期懲役」の例もあるが…

ーー犯行の内容からすると、軽すぎるという意見もあるが?


量刑を判断する際は、「犯行に至る動機、犯行の計画性、犯行の態様、犯行の結果(被害者の人数、被害の程度)、被害回復の有無、被害者の処罰感情、被告人の反省の有無・程度、前科・前歴の有無・内容」といった複数の要素を総合勘案しつつ、「過去の同種犯罪に対する刑罰との均衡」を加味して判断されます。そのため、国民感情がそのまま量刑に反映されることは少ないと思われます。


この点、今回のような「裁判員裁判」においては国民感情を反映することも期待されています。しかし、その場合でもやはり「過去の同種事案における判決」が判断指標として用いられますので、今回の事件においてのみ国民感情を殊更に重視して量刑相場を極端に逸脱した判決になる可能性は低いと思われます。


なお、過去に殺人未遂罪で無期懲役の判決が下された事案が「元日本赤軍メンバーによるテロ事件」であることからしますと、本件において無期懲役の判決を下すことはやはり難しいのではないかと思われます。


(弁護士ドットコムニュース)



【取材協力弁護士】
德永 博久(とくなが・ひろひさ)弁護士
第一東京弁護士会所属 東京大学法学部卒業後、金融機関、東京地検検事等を経て弁護士登録し、現事務所のパートナー弁護士に至る。職業能力開発総合大学講師(知的財産権法、労働法)、公益財団法人日本防犯安全振興財団監事を現任。訴訟では「無敗の弁護士」との異名で呼ばれることもあり、広く全国から相談・依頼を受けている。
事務所名:小笠原六川国際総合法律事務所
事務所URL:http://www.ogaso.com/