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「辞めたセラピストに常連客をとられた」サロン店長激怒、法的責任を問える?

2017年03月01日 10:23  弁護士ドットコム

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「この憤りは抑えられません」。ある出張リラクゼーションサロンの経営者が弁護士ドットコムの法律相談コーナーに怒りの投稿を寄せました。


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投稿者によると、1年前に退職した元従業員Aさんが、常連客Bさんと個人契約をしていたことが分かったそうです。この店では従業員に対し、客との連絡先交換や退職後の個人契約を禁止する旨の誓約書にサインさせていたといいます。


投稿者は、Aさんには、かなり目をかけてきたといい、強い憤りを感じているそうです。また、常連客Bさんにもお怒りの様子。というのも、Bさんは現在、店のほかのスタッフに対しても、個人契約を持ちかけているのだそうです。


「今の従業員に『してはいけない』と改めて認識させるため」にも、Aさん、Bさん双方に違約金を支払わせたいそうですが、そんなことは可能なのでしょうか。戸田哲弁護士に聞きました。


●ポイントは、いつから個人契約を結んでいたか

「これは元従業員Aさんに『競業避止義務違反』があるかの問題です」。戸田弁護士は、このように説明します。


「労働者は、会社と雇用契約(労働契約)を締結して働いている間は、会社と競合する業務を行わないという『競業避止義務』を負います。在職中であれば誓約書に関係なく、守らなくてはなりません。


仮に、Aさんが在職している時から個人契約を結んでいたら、競業避止義務違反として違法になる可能性が高いでしょう」


●「競業避止義務」と「職業選択の自由」のどちらが優先される?

「一方、退職後にBさんと契約していた場合は、少し検討が必要です。労働者には『職業選択の自由』があります。店を退職した後にも競業避止義務を負わせるためには、就業規則の取り決めや書面での合意が必要になります。


この点、Aさんは、客との連絡先交換や退職後の個人契約を禁止する旨の『誓約書』にサインをしています。この誓約書が根拠となって、退職後についても競業避止義務を負うことになります」


ということは、誓約書を結んでいる以上、Aさんの行為は違法?


「それは誓約書の内容次第ですね。退職後にも無制限に競業避止義務を負うとなると、労働者のキャリアがまったく阻害されることになってしまいます。実務上は、競業の範囲や禁止期間などによって、一定の絞りと配慮がなければ、退職後の競業禁止の契約は公序良俗に反して無効になると解釈されます(民法90条)。


今回の誓約書は、店の客に限定した内容と思われますので、ある程度対象は絞られています。禁止の期間が、たとえば『退職後の1年間』と限定されているのであれば、Aさんの違法性を問える可能性が高いです。


しかし、禁止期間が無制限の場合、誓約自体が無効となる可能性があります。店にとっては競業禁止の誓約書の作り方がポイントということになります」


では、常連客のBさんについてはどうでしょうか。店のHPには、スタッフと客の個人契約を禁止する利用規約が掲載されているそうです。Bさんは違約金を払わなくてはならない?


「利用規約に違反することになるので、一定の違約金を払わなければならない可能性は出てきますね。


ただし、客が店員と連絡先を交換したりすることは、基本的に当事者の自由です。もし利用規約がなければ、営業妨害に近いような悪質なケースでない限り、違約金の賠償責任は負わないでしょう」


●個人契約をめぐる問題は、会社と労働者の双方から多くの相談が寄せられる

「個人契約など、競業避止義務の問題をめぐっては、たとえば、今回のようなエステティシャンや美容師、そのほか家庭教師や塾講師、一般企業でも営業職の方などが遭遇しやすいといえます。


個別のお客さんを持つ優秀な方と会社との間でトラブルになることが多く、会社側・労働者側のどちらからも多くの相談が寄せられています。専門家の意見を取り入れた取り決めをすることが大切です」


(弁護士ドットコムニュース)



【取材協力弁護士】
戸田 哲(とだ・さとし)弁護士
千葉県弁護士会労働問題対策委員会副委員長。労働者側・使用者側の双方の事件を数多く取り扱い、「労働」分野の総合対応を強みとする。労働事件専門講師経験も多数(弁護士会主催研修、社会保険労務士会主催研修、裁判所労働集中部主催労働審判員対象研修等)。Ⓡ労務調査士
事務所名:西船橋法律事務所
事務所URL:http://nishifuna-law.com