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松たか子「抱かれたいの…」に大反響 『カルテット』切なすぎる夫婦関係にピリオド

2017年03月01日 06:12  リアルサウンド

リアルサウンド

(c)TBS

 女優・松たか子が、2月28日に放送された火曜ドラマ『カルテット』(TBS)第7話で見せたあまりにも切ない演技に、視聴者から大きな反響が寄せられている。第1話より、伏線を張り巡らせながら描かれてきた、巻真紀(松たか子)とその夫・巻幹生(宮藤官九郎)の関係にピリオドが打たれ、物語はいよいよ最終章へと向かう。


参考:満島ひかり、名演技の秘訣は“目の使い方”にアリ


 前回放送された第6話では、幹生が別荘に忍び込んだ来生有朱(吉岡里帆)と鉢合わせになり、もみ合った挙句にベランダから有朱が転落するという衝撃的な展開が描かれた。別荘の2階には、幹生によって拘束された世吹すずめ(満島ひかり)が、助けを求めている状況だ。そこに真紀が帰ってくるところから、今回の物語がスタートする。久しぶりに再会した幹生と真紀だったが、状況が状況だけに、のんびりとしている訳にはいかない。幹生が事の経緯を説明すると、真紀はふたりで逃亡することを提案し、有朱の遺体(実は死んだふりをしているだけなのだが)を車に運び込む。すずめのことは、見捨てるつもりだ。ところが幹生は、真紀を共犯にするわけにはいかないと、ひとりで車に乗り有朱を運び出してしまう。


 驚いた真紀は、とっさに有朱が乗ってきた車を借り、幹生を追いかける。一方の幹生は、有朱と共に飛び込もうと思ったダムを覗き見ているうちに、実はとっくに目を覚ましていた有朱に、車ごと逃げられてしまう。有朱は途中で真紀の車とすれ違うと、おたがいに「ごめんなさい」と謝り、車を交換する。有朱はそのまま、もともと行動をともにしていた家森諭高(高橋一生)のもとに戻り、強引に口裏を合わせて、彼とともに自分の店「ノクターン」へと帰っていく。自力でガムテープの拘束を解いたすずめは、タクシーで真紀らを追いかける途中、有朱らの車とすれ違うのだが、彼らは気付かない。真紀は真紀で、駅前で自首しようとしていた幹生を見つけ、東京のマンションに帰ろうと、彼を車に乗せる。そして、途中に寄ったコンビニで、ようやくすずめと遭遇する。登場人物それぞれが複雑に交差する様子は、このドラマそのものの縮図のようで、コメディとしても秀逸だった。


 真紀とすずめの再会シーンは、今回のハイライトのひとつだ。真紀に置いて行かれたすずめは、「すごく怒っている。見捨てられた感100です」と、真紀の行動を責める。ようやく会えた夫への想いから、なにもかもを捨てて走り去った真紀は「夫婦だから…」と言い訳をするが、すずめは「夫婦だからなんだろう? こっちだって同じシャンプー使っているし、頭から同じ匂いしているし」と譲らない。そして「行かないで!」と真紀の手を握り、引きとめようとする。真紀はそれに対し、「彼のことが好きなんだよ、ずっと変わらないまま好きなんだよ」と返し、耳元でなにかをささやいて、静かにその場を去る。コンビニの冷たい光の前で交わされるやり取りには、これまで過ごしてきたふたりの時間が濃縮されていて、しかしそれでも尚、埋めることができない溝があることを伝える一幕だった。どんなに親密な時間を過ごそうとも、人はそれぞれ違う思いを抱いている。「抱かれたいの…」と真紀は言い、すずめは呆然とした顔で真紀の手を離した。


 真紀と幹生は、東京のマンションに戻ると、久しぶりの団欒のひと時を過ごす。風呂上がり、バスローブの前を勢い良くはだけるが、中にはパジャマを着ているという冗談に、真紀は大笑いをする。恋人同士のようなたわいもない時間が、真紀にとっては嬉しい。おでんを食べながら、この1年になにがあったのかを報告する真紀。カルテットのメンバーについて面白おかしく話すと、幹生も笑う。まるで何事もなかったかのような、平和な夫婦の姿である。しかし、幹生が話をしようとすると、真紀は柚子胡椒を取りに台所へ。ワインを見つけ、「飲む?」と訊ねるが、幹生はあまり乗り気ではない。噛み合わないふたりだったことに、改めて思い至った幹生は、意を決して真紀に話し始める。


「真紀ちゃんのことずっと考えていた、忘れたことない。2年間、夫婦だったし、ここで一緒に暮らして楽しかった。良い思い出がいっぱいある。本当に大事に思っていた。いつも、いまも大事に思っている。だから、幸せになってほしいって思っている」


 「幸せになってほしい」は、重みのある別れ言葉だ。真紀もまた、「こちらこそありがとう。結婚して2年…3年か、ずっと幸せだったよ。好きだったよ」と、笑顔で応える。そして、結婚指輪を外し、離婚届を出しに行く。幹生は別れ際、両手を広げて真紀を抱きしめようとするが、真紀はただ握手を返す。そしてふたりは、別々の道を歩んでいく。涙をこぼさないやり取りの中に、人生の陰影が重ねられた、同ドラマ屈指の名シーンだったといえよう。


 別荘へと戻った真紀は、幹生からの初めてのプレゼントだった詩集を眺めながら、すずめに「こんなに面白くないものを面白いって言うなんて、面白い人だなって。よくわからなくて、楽しかったの」と語り、それを暖炉にくべた。恋愛感情の不条理さをユーモラスに表した、味わい深い台詞である。


 “全員片思い”で始まった『カルテット』だが、真紀の夫婦問題が終わりを告げたことで、メンバーの関係にも変化が起きようとしている。(松下博夫)