テスト初日の午前9時5分。ライバルたちの出走よりやや遅れて、フェルナンド・アロンソがステアリングを握るマクラーレンMCL32がコースイン。1周のチェック走行を終えて戻ってきたが、その後は本格的な周回を始める気配がない。
目隠しのつい立て越しにエンジンカウルを外す作業が垣間見え、早くもトラブルに見舞われたことがわかった。しばらくして、マクラーレンからは「オイルシステムの不具合」という説明があった。昼過ぎになっても、アロンソ車はガレージ内にとどまったまま。
午後3時過ぎから始まったチームのレーシング・ディレクター、エリック・ブーリエの定例会見では、このトラブルに質問が集中した。「オイルシステムの問題だ。何が起きているのか、ホンダに確認しているところだ」ブーリエは困惑と不機嫌が入り交じったような憮然とした表情で、同様の答えを繰り返した。
会見終了後、ホンダの長谷川祐介総責任者に話を聴く機会を得た。テスト開始早々のトラブル発生に長谷川総責任者の表情も当然明るいものではなかったが、原因については極めて明確に語ってくれた。
「オイルタンクの形状、より具体的にはタンク内のバッフル(オイルが偏らないようにする板状のパーツ)の配置がうまくなくて、走行中にGがかかった時にうまくオイルが吸えなかった。それで油圧が落ちてしまいました」
不具合はすでに前日のフィルミングデーでわかっていたという。ある程度の対策は施したが、時間的に完全なものではなく、トラブル発生はある程度覚悟していたということだった。
「決して深刻な問題ではありません。ただ届きにくい場所にあり、修理のためにはエンジンを切り離さないといけない。新車に新パワーユニットの組み合わせなので、通常なら2時間程度で住む交換作業が、かなり長くかかってしまいました」
パワーユニットごと交換を終え、午後4時過ぎにテストを再開してからは、順調に走行を続けることができた。とはいえ7時間もロスしたツケは大きく、アロンソはわずか29周の周回で10番手タイムに終わった。
それにしても今回のトラブルを巡っては、マクラーレン側の対応に大いに疑問を感じた。実走テストでいきなりトラブルを出したことは、確かにホンダに非がある。
しかし、ブーリエが会見した時点では、すでに原因と対策の見通しは把握していたはずである。ところが彼はその情報を積極的に開示せず、そのためヨーロッパのメディアはいまだに、パワーユニット本体に由来する深刻なトラブルと捉えている。
事態は翌日になっても改善されていないようで、「パワーユニットの根本的な問題である可能性がある」という報道が散見された。ブーリエはともすれば、ホンダ批判を放置する傾向がある。マクラーレンに任せるだけでなく、ホンダがより積極的に情報発信する必要があるのではないだろうか。