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『A LIFE』菜々緒、“共感できる悪女”で新境地へ その多面的な演技を読む

2017年02月27日 20:23  リアルサウンド

リアルサウンド

(c)TBS

 菜々緒扮する榊原実梨が、深冬の重病を会議の場で暴露し、浅野忠信扮する壇上壮大の責任問題を訴えるという波乱の展開で幕を閉じた『A LIFE~愛しき人~』第7話。


参考:『A LIFE』真の主人公は浅野忠信だーーカリスマ性を封印、初めて見せる“無様”な演技


  「手に入らないのならばいっそのことは無くしてしまえばいい」という考えを持つ壮大は、壇上記念病院を桜塚中央病院の傘下に入れることを企て、さらには小児外科を潰そうと病院改革を推進し続ける。ワンマンプレイで計画を進める壮大の暴走には、周囲の人間も不信感や戸惑いを募らせ、とうとう親友の羽村圭吾(及川光博)にも「ついていけない」と見放されてしまう。その一方で沖田一光(木村拓哉)は、深冬の治療方法を思いつき、彼女との絆をより一層深めていく。物語は折り返し地点を越え、大きな展開を見せていく。


 壮大は、ここまでどうしようもないほど非道な男として描かれているが、彼の不品行を際立たせているのが、菜々緒や及川光博らが演じるサブキャラクターたちだろう。特に、壮大が実梨に冷酷な態度をとる第6話では、菜々緒が“不憫な悪女役”を見事に演じきり話題を集めていた。放送が進むにつれて株を落としていく壮大は、ここで一気に女性視聴者の支持を失ったのではないか。


 菜々緒にとってクールな悪女役はおなじみだが、『A LIFE』で演じている榊原実梨は、これまで以上に人間味を持つキャラクターだと言える。『ファースト・クラス』や『サイレーン 刑事×彼女×完全悪女』の悪女役は、キャラのインパクトで勝負していた部分が大きく、どんどん過激に演出されていたのに対し、本作ではじわりじわりとキャラの性格が滲み出てくるように演じている。視聴者の感想も、いつもの「~役の菜々緒が怖すぎる」という言葉ではなく、「かわいそう」「幸せになってほしい」といった共感の声へと変化している。


 昨日放送された第7話の冒頭では、第6話で壮大との関係を絶ち、顧問弁護士を外されたはずの実梨が、何事もなく現場復帰する模様が描かれた。壮大と実梨の会話からは、ふたりが再び元の関係に戻ったと想像できるが真相はわからない。また、深冬が重病を患っていることを知っていると告白し、壮大の気持ちの所在を問いただすシーンも映し出された。普段は感情を表に出さず、平坦な声で会話をする実梨だが、壮大と会話をするときだけは感情が声に表れる。第6話で「どうして愛してくれなかったの…」と泣き崩れた実梨。ここでの問いかけにも彼女の悲痛と必死さが表れていたように思う。


 特定の人物以外には本心を明かそうとせず、何枚も仮面を付けている実梨は、他のキャラクターと比べても多面性のある難しい役柄だろう。沖田や羽村に見せる顔、壮大の妻である深冬に見せる顔、壮大のみに見せる顔、そして誰にも明かさない素顔、ここまで奥深いキャラを、錚々たる面子の中で堂々と演じきるのは並大抵のことではない。また、存在感の強い浅野忠信との二人芝居が多い菜々緒だが、浅野に負けず劣らず自身の個性をアピールしているのも印象的だ。


 第8話の予告では、実梨が壮大にビンタをするシーンが映し出されていた。ここまで感情的に怒りを表すシーンはなかったので、真相が気になるところだ。第7話での暴露といい、物語をかき回していく役柄として、さらに高度な芝居を見せてくれそうである。(泉夏音)