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振付稼業air:man、夏まゆみ、竹中夏海……人気振付師の特徴を書籍から分析

2017年02月27日 17:03  リアルサウンド

リアルサウンド

振付稼業air:man『振付稼業air:manの踊る教科書』(2014年、東京書籍)

 2016年の音楽シーンを席巻した“恋ダンス”などを引き金に、アイドルやアーティストだけでなく振付を手がけたMIKIKOら振付師たちにも注目が集まっている昨今。そこで改めて注目したいのが、振付師たちがさまざまな切り口からダンスについて語った書籍だ。発売後から数年経っても売れ続けている下記の作品は、いずれもアイドルのパフォーマンスを読み解く上でヒントになるものばかりだ。


(関連:NEWSの「EMMA」で描かれた“エロさ”際立つ世界 メンバー表現力の広がり見せる一曲に?


■振付稼業air:man『振付稼業air:manの踊る教科書』(2014年、東京書籍)


 2011年から2013年にかけて学校現場でスタートしたダンスの必修化に合わせ、学生や教師向けに書かれた1冊で、現代的なダンスの代表格としてヒップホップの基本的なステップなどが解説されている。中でも彼らの振付メソッドのヒントになるのが、創作ダンスの作り方に関するページだ。「テーマとストーリー(起承転結)を決めよう」「役割(リーダーや音楽担当など)を決めよう」「アイテム(小道具)を使ってみよう」……と、振付のプロセスをわかりやすく説明している。


 例えばNEWSの最新シングル曲「EMMA」をこのメソッドに当てはめると、まず複数の振付師によるチームであるair:manが、小悪魔的な女性を主人公にした同曲の世界観についてミーティング→4人の振付師が並んで踊りながら、ダンスのテーマである“セクシー”な見せ方のアイデアを出し合う→ストーリーをより広げるための小道具として女性に見立てたジャケットを提案→MV撮影などでは実際に振付を踊ってみせる係と、モニターを見ながらダンスのバランスや踊る位置、どんな動きがカメラに抜かれるのかなどを細かくチェックする統括係に分かれる→印象的なジャケットプレイが完成、といった具合だ。そのプロセスは1月25日放送の『news every.』(日本テレビ系)などでも紹介されていた。CMの振付など多彩な仕事で知られる彼らの振付は、物語性を強く感じさせるため、どんな人から見ても作品の世界観が伝わりやすい好例といえる。


■夏まゆみ『ダンスの力 モーニング娘。AKB48…愛する教え子たちの成長物語 』(2014年、学研パブリッシング)


 現在はNHK Eテレなどの教育番組でも見かけることの多い“夏先生”こと夏まゆみが、ダンスを通して初期のモーニング娘。やAKB48らをどのように育ててきたかを綴ったノンフィクション本。AKB劇場立ち上げ当初、ステージ演出やMC台本まで手がけていた夏は、コンパクトなスペースでリピーターの心をつかむさまざまな振付を考案してきた。


 例えばAKB48のメジャーデビュー曲「会いたかった」(2006年)では、お客さんに会いたくて待ちきれない気持ちを表現するため、登場シーン&2コーラス目で“最初に目が合った客に指さし→違う方向の別の客に向けて手を広げる→視線を移して3人目の客におじぎ”をするという構成に。「(20人でそれをやれば)一曲で百二十人のお客さんに『会いたかった』の思いを伝えることができる。その人たちは、君たちと目が合ったということで、きっとファンになってくれる」とメンバーに説明していたそうだ。


 さらに、現場判断で今後伸びると思うメンバーを必ず2コーラス目でセンターにし、その魅力をファンはもちろん秋元康らスタッフにもアピールしていたという。振付やフォーメーションが結果的にアイドルたちを精神的にも成長させ、輝かせていることがわかりやすく説明されていて興味深い。


■竹中夏海『IDOL DANCE!!! 歌って踊るカワイイ女の子がいる限り、世界は楽しい』(2012年、ポット出版)


 アイドル専門の振付師として活躍する竹中夏海が、アイドルのダンスの極意や事務所ごとのダンスのカラーの違いなどを徹底分析。自らが振付で関わるPASSPO☆(当時はぱすぽ☆名義)の玉井杏奈や、東京女子流のディレクター&衣装担当などのインタビューもあり、さまざまな立場からの現場の声も反映されている。


 彼女がアイドルのダンスを俯瞰する上でたびたび語っているのが、Perfumeのダンスパフォーマンスの凄さ。技術的に上手いのはもちろんだが、3人の魅力をMVで世界的に発信するにあたって、ステージとは異なるMV専用の振付が多用されていることをポイントとして挙げている。「love the world」(2008年)の座った姿勢から始まる振付、「ナチュラルに恋して」(2010年)での動く歩道を使ったウォーキングやラインダンスなど、映像作品として完成度の高いダンスシーンを作り込むことで、固定ファン以外の層にも人気が広がったという説には確かにうなずけるものがある。


 また中でも特に詳しく説明されているのが、フォーメーションについて。例えば結成当初、踊っていると必ず正面からは見えにくいメンバーがいる10人編成だったPASSPO☆における、曲のサビ途中でメンバーを回転させる“渡り鳥”“万華鏡”などの個性派フォーメーションを図解で説明。他にも平面で広がって動きを見せるPASSPO☆に対し、ハロー!プロジェクトのグループは「階段を使った見せ方とかが凄く巧い」と評価している。


 一言で振付師と言っても、わかりやすく教えることを重視した振付稼業air:man、育成に重点を置いている夏、俯瞰して冷静に分析する竹中などスタンスに大きな違いがある三者。しかし3冊ともアイドルのパフォーマンスを楽しむ上でさまざまなヒントを与えてくれることは間違いないので、ぜひご一読を。(古知屋ジュン)