トップへ

小金井刺傷事件、冨田さん「死ぬか、一生刑務所」要望…犯罪被害者を守るためには?

2017年02月27日 11:03  弁護士ドットコム

弁護士ドットコム

記事画像

東京都小金井市で2016年5月、女子大学生・冨田真由さん(21)がナイフで刺され、一時意識不明の重体になった事件の裁判員裁判は、2月28日に判決の日を迎える。検察は、殺人未遂と銃刀法違反に問われた岩埼友宏被告人(28)に対し、懲役17年を求刑。一方、被害者参加制度を利用した冨田さんの代理人弁護士は無期懲役が相当と主張している。


【関連記事:「アマゾン多過ぎ」ヤマトドライバーから悲鳴続出、「利便性」が生んだ過酷な実態】


岩埼被告人は、冨田さんのファンだったが、プレゼントを返送されたことなどに恨みを募らせ、犯行に及んだとみられている。冨田さんは、首や胸、背中など34カ所を刺され、意識不明におちいったが、奇跡的に回復。裁判では意見陳述も行なった。しかし、顔などに傷が残ったほか、口元はまひし、食事や会話にも支障があるそうだ。


冨田さんの供述調書には、「死んでしまってほしい」「できないなら、一生刑務所に入っていてほしい」という強い処罰感情に加え、「(被告人が出所したら)また殺しに来る」など、恐怖感が読み取れる言葉も並んでいる。


冨田さんの気持ちは察するに余りあるが、現実問題として、今回の事件ではどの程度の処罰が想定されるだろうか。また、制度として犯罪被害者を「報復」から守る手段はあるのだろうか。上谷さくら弁護士に聞いた。


●「殺人未遂で死刑判決がくだることはない」

「今回の事件で、被告人は殺人未遂罪、銃刀法違反罪で起訴されています。法定刑としては死刑も可能ですが、殺人未遂で死刑判決がくだることはないでしょう。


この事件と類似性がある、三鷹ストーカー殺人事件は、先日、懲役22年の刑が確定しました。三鷹事件は、殺人罪、住居侵入罪、銃刀法違反、児童ポルノ禁止法違反で起訴されており、小金井事件よりもかなり罪状は重いです。


そうすると、今回の事件では、検察官が求刑した懲役17年に近い判決が出ると予想されます。殺人未遂罪で懲役17年というのは、刑としては相当に重い部類に入ります。しかし、被害者の冨田さんにとっては、自分の安全が確保されるのがその期間だけという意味しかなく、到底受け入れられないでしょう」


裁判員裁判で量刑が重くなる可能性はあるのだろうか。


「報道で知る限りですが、被告人は法廷で不規則発言を繰り返して退廷させられ、その後、被害者は意見陳述をできなくなったということです。


このような出来事を目の当たりにした裁判員の被告人に対する心証が悪いのは当然です。被告人が罪を認めていることや、法廷で一応謝罪したことなどについて、信用できないと判断する可能性が高いでしょう。一方で、被害者の心の叫びは裁判員の共感を得やすいです。したがって、裁判員裁判で量刑が重くなる可能性はあります。


ただし、裁判官によって量刑資料が示され、ある一定の幅の中で審理することになるでしょうから、類似性がある他の事件と比べて、この事件だけが突出して重くなることはないと思われます」


●「重傷病給付金の支給額はあまりにも低額」

「被害者は、被告人に対して損害賠償請求ができますが、被告人に資力がない場合、判決を得ても絵に描いた餅となります。犯罪被害給付制度を利用することもできますが、重傷病給付金の支給額は上限がわずか120万円です。


あまりにも低額ですから、大幅に増額されるよう法改正されるべきだと考えます。なお、障害が残った場合、その等級に応じて、障害給付金が支給されます」


●報復を防ぐ手段は乏しい…「被害者を守る法制度を」

「犯罪被害者は、たとえ加害者が罪を素直に認めて謝罪し、十分な被害弁償をしたとしても、報復されることを強く恐れています。今回の事件でも、事件の性質や裁判中の被告人の言動から、冨田さんが報復について『現実的』な恐怖感を抱いたであろうことは想像に難くありません。


実際、強姦致傷罪などの加害者が、警察に通報した被害者を逆恨みし、服役して出所後わずか2か月で被害者を殺害した事件もありました。この事件では最高裁で死刑が確定しています」


加害者が出所した後に、被害者を守る方法はないのか。


「出所後に被害者を守る制度としては、現在のところ、加害者の処遇状況などに関する通知制度しかありません。被害者が希望すれば、刑務所からの出所予定や、場合によっては出所後の住居地を知らせてもらえる制度です。


しかし、出所後の住居地は、加害者の申告によるものであり、実際にそこに居住しているのかどうかの確認はされません。また、実際に居住したとしても、転居してしまえばその後のことは分からないため、被害者を守ることにはならないでしょう。


今回のような事件の場合、被害者が警察に相談すれば、出所予定に合わせて身辺のパトロールをしてもらえる可能性はありますが、その程度です。今後、報復による被害を防ぐため、出所後もある程度加害者を監視し、被害者を実効的に守っていくための法制度を整備すべきだと思います」


(弁護士ドットコムニュース)



【取材協力弁護士】
上谷 さくら(かみたに・さくら)弁護士
福岡県出身。青山学院大学法学部卒業後、毎日新聞社に入社。新聞記者として稼働した後、2007年弁護士登録。犯罪被害者支援弁護士フォーラム(VSフォーラム)会員。第一東京弁護士会犯罪被害者に関する委員会副委員長、青山学院大学法科大学院実務家教員、保護司。
事務所名:神田お茶の水法律事務所