トップへ

成田凌、同性がかっこいいと思える役者へ 『大貧乏』で見せた落ち着きの演技

2017年02月27日 01:32  リアルサウンド

リアルサウンド

成田凌・宣材写真

 昨年の大ヒットドラマ『逃げるは恥だが役に立つ』(TBS系)で俳優としてブレイクし、人気知名度ともに急上昇中の俳優・成田凌。昨年の8月に公開されて今だにロングヒットしている映画『君の名は。』や、現在公開中の映画『キセキ ーあの日のソビトー』など話題作に立て続けに出演している。現在放送中のフジテレビ系ドラマ『大貧乏』では、物語の重要な鍵を握る人物として、主演の小雪や伊藤淳史だけでなく、滝藤賢一や奥田瑛二などの曲者役者たちとも対等に渡り合うほど、演技力に磨きをかけてきている成田。また、彼は『MEN'S NON-NO』の専属モデルでもあり、同じく同雑誌の専属モデル・坂口健太郎と共に、現在を担う若手俳優のひとりとして注目を浴びている。そんな成田の魅力について考察してみたい。


参考:成田凌が語る、『キセキ ーあの日のソビトー』現場の楽しさ「チーム感はすごく出ている」


 成田は1993年生まれの現在23歳。93年生まれは、福士蒼汰、神木隆之介、菅田将暉、野村周平、山田涼介、有村架純、武井咲 、志田未来、のん、西内まりやなど、まさに今の映画・ドラマ界の中心となっている美男美女揃いの当たり年だ。「20歳になる前くらいに急に役者になりたいと思いました」(引用:成田凌が語る、『キセキ ーあの日のソビトー』現場の楽しさ「チーム感はすごく出ている」)と語るように、成田は元々俳優志望で、実はモデルオーディションを受ける際にも「役者をやりたいので手助けしてほしい」と伝えていたそうだ。2013年よりファッション雑誌『MEN'S NON-NO』の専属モデルとして活動を始め、2014年にフジテレビNEXT smartオリジナルドラマ『FLASHBACK』にて主演を務め俳優デビュー。93年組の中では遅いスタートといえる。


 しかし、メンノンモデルは若手俳優の登竜門でもある。創刊当時の風間トオルや阿部寛を始め、大沢たかお、田辺誠一、谷原章介、反町隆史、竹野内豊、伊勢谷友介、井浦新、東出昌大など、多くの名優を輩出してきたエリートコースだ。ジュノンスーパーボーイが爽やかで可愛い系なのに対し、顔やスタイルはもちろんのこと、良い意味でのプライドの高さやクールさを兼ね備えたモデルが目立つ。そのため、俳優としても魅力的な素材であり、メンノンモデルに選ばるだけでもスターになる素質があるという証明になるのではないか。役者としてのキャリアは2年ちょっとの成田だが、早くもブレイクしているのも不思議ではない。


 同じようにメンノンモデルと平行して俳優業をしている坂口は、モデルとしては先輩であるが、俳優としては2014年にデビューしているため成田と同期。キャリアだけでなく、佇まいや、醸し出す物静かでミステリアスな雰囲気も似ている。何事も良きライバルで、切磋琢磨する事がキャリアアップにも繋がり、事実ふたりとも俳優として地位を築いてきている。坂口はドラマによって役に成りきるタイプの印象で、どの役も「坂口健太郎だけど坂口健太郎に見えない、でも坂口健太郎なんだよな」という感じのナチュラルさ。そして表層的ではない真実を心に秘めている演技が絶妙だ。成田も同様に心に秘めた演技がうまいが、違いを強いて言うならば、元々自分が持つ(周りから見える)ミステリアスでクールなキャラを演じた時に抜群の芝居を見せている。


 成田の演技が注目され始めたのは、2016年のNHK BSプレミアムドラマ『ふれなばおちん』。主婦である長谷川京子との12歳差の恋に落ちる劇団員の役だ。実年齢より5~6歳上の役を熱演。今までは同世代の役者たちとの学生役が多かっただけに、ベテラン俳優たちとの共演だからこそ光る、若さゆえの大胆な芝居で、俳優として可能性を見いだした。


 成田の名を一躍有名にしたのが、同年の『逃げるは恥だが役に立つ』で演じた土屋百合(石田ゆり子)の部下・梅原ナツキ役である。基本的には上司の百合をサポートするクールだけどどこかトボケたキャラ。だが、時には歳の差の恋愛に悩む百合に「男にすっげー惚れて、本気で必死に追いかけた事ありますか?」「生きて会えるだけでいいじゃないですか」と叱咤激励していた。そして、最終回にゲイだったことを告白し、脇役なのに一番の衝撃を視聴者に与えたのだ。最終回での、スマホのやり取りだけで出会ったことのない沼田(古田新太)と、ドキドキしながら初めて待ち合わせする時の表情や仕草は、女性視聴者の心を鷲掴みしたことだろう。最終回につながる伏線を張っていた梅原役なだけに、きっと『逃げ恥』を最後まで見た人は成田の演技が脳裏に残り、もう一度最初から見返したくなるに違いない。高視聴率ドラマで幅の広い演技を見せたのは、彼にとって大きなターニングポイントになった。


 そして今回の『大貧乏』。主人公の七草ゆず子(小雪)は、8歳の息子と6歳の娘を女手ひとつで育ててきたシングルマザー。しかし、ゆず子が勤めていた人件派遣会社が突然倒産したことで、収入も貯金も全て失い、一文無しの大貧乏に。途方に暮れていたゆず子の元に、かつてゆず子に憧れていた同級生で今はエリート弁護士の柿原新(伊藤淳史)から、会社の倒産には裏があることを聞かされる。そして、営業部員であった加瀬春木(成田凌)と共に真相を暴いて行く模様を描く。


 一見ふたりのサポート役だが、初回から会社のデータを盗んでいたり、柿原の前では急に態度が悪くなったり、ふたりのスパイのような行動をとっていたり、一方で子供たちに対する優しさを見せたりと、なかなか本心が掴めない存在だ。前回の放送では、子供の頃に家族が犠牲になったため、社長への復讐をほのめかす、半沢直樹的なリベンジ魂を内に秘めていたことが判明した。春木の真の目的が分かってきた段階だ。


 このドラマの成田は、もはやベテラン俳優かと思うぐらいの落ち着きを見せた演技をしている。表情には出さないが内に秘めた復讐心や、それがいつ爆発し裏切るか分からないといった危うい感じが、実に見事なのだ。気さくな男かと思いきや、年上の小雪に対していつ手を出してもおかしくない雰囲気など、成田本来が持つミステリアスでクールな印象が遺憾なく発揮されている。まさにハマり役である。しかも、業界でも屈指の曲者ベテラン俳優らにも、演技で臆する事無く対等に渡り合う姿は、正直ここまで芝居ができるのかと驚きであった。


 『ふれなばおちん』などでもクールな役は演じてきたが、今までは「女性が好きになるイケメン俳優」という印象が大きかった。だが、今回は同性から見てもかっこいいと思える役者に進化している。ここへ来て、ワイルドな男っぽさが出てきた成田は、坂口との色が分かれてきたとも言えるのではないだろうか。もしかしたら今後は、メンノンモデルの先輩である竹野内のような役者になっていくのかもしれない。すでに次回作の連続ドラマ『人は見た目が100パーセント』(フジテレビ系)に出演が決定し、実際に美容師免許を持つ成田が売れっ子美容師役をするということだが、果たしてどんな一面を見せてくれるのだろうか。(文=本 手)