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山崎賢人、キラキラ男子から三枚目男子へ 『一週間フレンズ。』で見つけた本当の個性

2017年02月26日 10:02  リアルサウンド

リアルサウンド

(c)2017 葉月抹茶/スクウェアエニックス・映画「一週間フレンズ。」製作委員会

 TVアニメ化、舞台化もされている『一週間フレンズ。』が実写映画化され、公開中だ。葉月抹茶の人気少女コミックが題材ということで、若い女子だけをターゲットにしたキラキラ作品に思いがちだが、実際には切ない青春ストーリーとして、幅広い層から好意的に受け止められている。主演は川口春奈と山崎賢人。ここで、山崎はくるくるパーマの三枚目の男子を演じ、これまでにない新鮮な表情を見せている。


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 山崎扮する高校生の長谷は、あるとき川口扮する香織に惹かれるが、香織は1週間で友達に関する記憶を一切なくしてしまう記憶障害を抱えていた。たとえ誰かと親しくなっても1週間が経つとその記憶はリセットされてしまう。香織は友達を作らないと決めていた。しかし、そんな香織に、長谷は毎週、「友達になってください」と伝え続ける。彼女が自分のことを忘れてしまっても、何度でも、何度でも。その度に彼女の心を開こうとぶつかっていく。


 大きなショックによる記憶障害は実際に起こりうるが、それにしてもこの設定は現実的にはどうなのかと思うところもある。だが、相手を想う気持ちのまっすぐさと、それによって生まれる切なさのパワーが強く、いわゆる漫画的な設定を生身の人間が演じることの不自然さは打ち消された。ドラマ「1リットルの涙」「フジコ」、映画『電車男』『7月24日通りのクリスマス』などのベテラン、村上正典がメガホンを取っており、そのことも高校生たちのキラキラ物語に終わらない空気を含ませた。


 村上監督の指揮による現場は、テイクを重ねて役者たちのいい表情、芝居を引き出していくのではなく、NGがない限りは一発OKで進んでいくという。役者たちの緊張感もいつも以上に高まるはずだ。そうしたなかで、山崎は、解放されたように、純粋で屈託のない笑顔を振りまく。
 
 雑誌のモデルとして活動を開始した山崎は、2010年にドラマ「熱海の捜査官」で俳優デビュー。翌年には『管制塔』にて映画初主演を務めた。同作で組んだ橋本愛とは、続けて『Another』でもW主演する。当時の山崎は、宣伝のための取材でも人見知りの強いシャイな少年といった印象が強く、口数も多くはなかった。映画の中でも、感情をそれほど表に出さないからこそ返ってにじみ出る、まだ自己が形成できていない少年としての危うげな空気感があった。


 デビュー間もない頃は、こうした佇まいだけで十分だったが、年齢もキャリアも重ねるとそうはいかなくなってくる。そうした時期に立て続けに出演し、山崎のイメージを一般に認知させたのが、女子向けキラキラ映画の男子である。『L・DK』では壁ドンという流行を生み、『ヒロイン失格』『orange』『オオカミ少女と黒王子』と、立て続けに少女コミックの実写化に出演。それぞれに抱える過去があったり、王子といってもドS王子だったりと、当然、キャラクターはみな違うが、少女が求めるキラキラ男子であることは変わりない。山崎は、生まれ持った容姿で、求められたことに応えた。しかしそれは期待されたもの以上でもそれ以下でもなかったとも言えた。


 原作ものの、特に少女コミックに描かれる男子像を定着させた山崎だったが、同時に、バラエティなどでの露出増加に伴い、本人には天然で三枚目の要素が強いことが浸透し始める。素を出し始めた山崎は、取材でもリラックスした言動が見られるようになった。


 そして昨年秋に公開された、こちらもコミックが原作の『四月は君の嘘』で、変化の兆しが。天賦の才能を持ちながら、トラウマに苦しめられるピアニストの青年を演じて見せた“弱さ”。『orange』でのキャラクターも弱さを打ち出していたものの、まだ小さな枠内に留まっている節があった。しかし『四月は君の嘘』でのそれは、何かが違った。


 普段の自分は、必ずしもカッコいい山崎賢人である必要はないのだと、素を見せ始めたことが、役者業にもプラスに働いたのではないか。そう思わせる、変化があった。このタイミングで訪れた、三枚目キャラのうえに成り立つ長谷は、ついに出会った本当の山崎の個性を生かせる役だった。


 殻を破ったことにより、長谷としての山崎には、香織を見つめる瞳に始まり、手を振るしぐさひとつにも、“柔らかさ”が加わった。今年もすでに大注目の『ジョジョの奇妙な冒険 ダイヤモンドは砕けない 第一章』や、福田雄一が監督する『斉木楠雄のΨ難』、青春ミステリー『氷菓』と、やはり原作ものが続々公開予定の山崎だが、今後の山崎賢人は一味違う。『一週間フレンズ、』での柔らかさは、そう思わせるのに十分だ。(望月ふみ)