2017年02月25日 10:13 弁護士ドットコム
情状証人として証言台に立った被告人の母親の涙が、それまでロボットのように無表情で冷酷だった若手検察官に、人間の心を取り戻させたように見えた――。2月下旬、東京地裁でおこなわれた刑事裁判での一コマだ。
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この事件では、30代の男性被告人が、勤務先のコンビニ店から現金を盗み出して、窃盗罪に問われた。検察官は、メガネをかけた男性で、被告人と同世代くらい。無表情に、冷静に、正確に冒頭陳述を読み上げた。起訴内容に争いはなく、ドラマ性もない公判かと思いきや、被告人の母親が証言台に立つと様変わりした。
「明るくてやさしい子でした」「残念でなりません」。振り絞るように、弁護人の尋問にこたえる高齢の母親。弁護人が「被告人が二度と罪をおかさないように、お母さんはどういうことをするのか?」と問うと、「甘いかもしれないけれど、(お金が)足りなかったら、少し援助してあげたい」と声をつまらせた。
弁護人は厳しい質問をつづける。「(被告人は)もう30歳を超えているので、むしろ自立することを促すべきではないのか?」。この瞬間、母親は耐えきれず、涙声になり、鼻をすすりながら「しっかりしてほしいです」と述べた。被告人もつられて泣きはじめ、法廷に重たい空気が流れた。
弁護人の尋問が終わり、検察官の番になった。「母」の涙の影響を受けてか、検察官にも変化が起きていた。傍聴席からもはっきりとわかるくらいに、目の周りを赤らめていたのだ。尋問中も、伏し目がちで、声は少しうわずり、鼻を一度すすった。ロボットらしさが消えて、そこには人間が立っていた。
(弁護士ドットコムニュース)