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「宇宙戦艦ヤマト2202 愛の戦士たち」福井晴敏×羽原信義インタビュー ファンが期待する“ド真ん中”をつくりたい

2017年02月24日 17:54  アニメ!アニメ!

アニメ!アニメ!

「宇宙戦艦ヤマト2202 愛の戦士たち」福井晴敏×羽原信義インタビュー ファンが期待する“ド真ん中”をつくりたい
現代に蘇ったヤマト。大成功を収めた『宇宙戦艦ヤマト2199』から3年。いよいよ続編が出航する。1978年に公開され社会現象を巻き起こした『さらば宇宙戦艦ヤマト 愛の戦士たち』と、同年放送のTVシリーズ『宇宙戦艦ヤマト2』をベースに紡がれる新しいヤマト。
『2199』から大胆にスタッフを入れ替え、新たに誕生する『宇宙戦艦ヤマト2202 愛の戦士たち』は、一体どのような場所まで見る者を連れて行ってくれるのか。
全七章という長い航海の出航を前に、シリーズ構成を担当した福井晴敏と羽原信義監督に、『ヤマト』との出会いから本作をどう作っているのかまで、じっくり話を伺った。
[取材・構成:細川洋平]

『宇宙戦艦ヤマト2202 愛の戦士たち』
2017年2月25日(土)劇場上映開始
http://yamato2202.net/

――まずは改めて、おふたりが『宇宙戦艦ヤマト』という作品に出会ったときの思い出を教えてください。

羽原信義(以下、羽原)
僕は小学校5年の時にリアルタイムで第1話から見ました。確か『テレビランド』という子供向けテレビ情報誌で放送前に情報は知っていたと記憶しています。

福井晴敏(以下、福井)
俺は『さらば宇宙戦艦ヤマト 愛の戦士たち(以下、さらば)』(1978)公開直前に、テレビで『宇宙戦艦ヤマト 劇場版』を放送していたのを見たのが初めてで、確か小学校3年でした。

羽原
ヤマトに出会ったのは、ほぼ同い歳だったんですよね。

福井
やっぱり最低でも10歳にはなってないと見るのは難しかったと思いますね。

羽原
でも今とはだいぶ違って、僕らが子供の頃はまだアニメではなく“テレビまんが”って言われていた時期なんですよね。そのうえ小学校5年くらいになると「まだ見てるの?」と言われる。そんな中、「ストーリーがちゃんとあってすごい感じがする!」とか「SFっぽい!」という好奇心に惹かれて食いついたという感じです。


福井
俺が初めて劇場版をテレビで見た時は親戚のおじさん、おばさんも偶然いて、ふたりとも最後まで見てました。大人も見るというのは驚きでしたね。それからも近所のそば屋とかラーメン屋に行くと、再放送をやっていれば『ヤマト』が流れてる。いつもだとニュースとかバラエティを流していると思うんだけど、誰もチャンネルを変えないで見ていた、というイメージがありますね。俺らにとっては見ることが背伸び。

羽原
そうでしたね、大人の仲間入りという感じでした。うちの祖父は戦中派で実際戦地にも行っている人間だったので、『ヤマト』第2話で戦艦大和が発進するシーンを見て「よくできとるなあ」と感心してました。

――素朴な疑問ですが、羽原監督のおじいさまや戦中派の方はどうご覧になっていたという印象がありますか?

福井
放送自体は(太平洋)戦争から何十年も経っていますし、戦争体験というのはもちろん壮絶なものであったかと思いますが、すべてが悪い思い出、というわけでもない。それで戦中派の人たちに話を聞くと、ヤマトのような戦艦を模したものがアニメに出てきたりするのは……。

羽原
高揚するものもありますか。

福井
そう。それから懐かしさも感じるみたいで。もちろん戦争はもうイヤだ御免だと思っている一方で、そういう感情を持ってるんだなあというのは、具体的な言葉に出るわけではないけれども感じましたね。

――そういった思いがエンターテインメントとして抽出されたものが、やがてTVアニメ『宇宙戦艦ヤマト』につながっていく。

羽原
だと思いますね。

福井
あとは戦後の日本人が、戦争をどう捉えているのか、ということに実写の日本映画すら表現しあぐねていたことを、アニメだからこそ初めて素直に表現できた、というのはあると思います。「愛し合うべきだった」と。主人公たちがあれだけ凄まじい戦いをした後にそこに気づく。それは「戦中を経験した人たちが出した答えなんだな」と今は改めて思いますね。


――多くの人をさまざまな角度から熱くさせた『ヤマト』を、改めて作り直す、というプロジェクトが『宇宙戦艦ヤマト 復活篇』(2009)を経て『2199』ではじまりました。おふたりは一連の動きをどうご覧になったのでしょうか。

羽原
僕は『宇宙戦艦ヤマト 復活篇 ディレクターズカット版』(2012)でアニメーションディレクターを担当していましたし、ヤマトにどっぷりハマっていましたので、心からただただいいものを作りたい! 楽しませたい! という思いでやってきました。『2199』では僕も現場にいて「そこ見えない箇所だけど描くんだ……!」と驚いたくらい緻密な描き込みをしていて、画面の中に息吹として少しでも入れば、という意気込みがすごかったですね。先ほどの戦争といったテーマ的なものを入れようと考えたこともないですし、完全に切り離して作っていました。

福井
『2199』総監督の出渕(裕)さんもそうだったと思います。戦後日本を、といったことをもう一度やる時代ではなかったし、企画は日本人にこれまた強烈な印象を与える震災があった2011年より前からずっと動いていたものですから、とにかく今の人に向けた作品を作ろう、それが第一義であったと思うんですね、『2199』は。だから成功を収めたんだと思います。

(次ページ:「2202」はデートムービー?)

――『2202』の企画はいつ頃立ち上がったのでしょうか。

福井
2、3年前ですかね。『2199』が終わってすぐ、ということだったと思いますけど、こっちに話が来て動き出したのは2015年半ばくらいからですね。

羽原
僕はもう少し後ですね。最初に福井さんの企画書を見た時にビックリしたんです。『さらば』の設定年は2201年が定番なのに、企画書に書いてあるのは「2202」。1年増えてる! しかも今のロゴっぽいものが書かれていて、最後の2がでかい! それで、『宇宙戦艦ヤマト2(以下、ヤマト2)』(1978)と一緒かと。なおかつ「愛の戦士たち」という『さらば』のサブタイトルも入っている。このタイトルを見ただけで、福井さんの覚悟がすごく見えてきたんです。だから「これはすごいものになるな」とその時に思いましたね。

福井
最初に『さらば』および『ヤマト2』のリメイクを、という話が来たのに対して、「2202」サブタイトルは「愛の戦士たち」で行きましょうと企画を立てたのはこちらなんです。

アニメーションはいかに前作のファンを裏切るか、という観点で続編が作られてきたと思うんですよ。その筆頭がガンダムだったと思うんですが、自分がやった『ガンダムUC』では、裏切るばかりではなくて、期待のド真ん中に応えるものを作ってもいいだろうという意図で企画したんです。まさにその流れですね。当時『さらば』は観客動員400万人。勢いとしては『君の名は。』に匹敵するくらいで、デートムービーにもなっていた。あのお客さんをもういっぺん連れ戻すためには? と。じゃあ「愛の戦士たち」をまず謳ってしまえ。謳ったからにはそれに見合う内容をやらなくては。そういう順番でした。

――デートムービー的にも見てもらいたいという思いがあるのでしょうか?

福井
ありますよ。しかも本気で付き合っている相手と見るのにピッタリだと思います。

羽原
うん、そうですね!

福井
これから2~3年やるわけですけど、最後まで見たら、気分としてはゴールインすると思います。

羽原
ヤマト見ながら3年過ごしてたら結婚してるかも知れないですね(笑)。

――話は遡りますが、『2202』のベースとなった『さらば』を、当時おふたりはどう受け止められていたのでしょう?

福井
これは世代でかなり分かれていると思います。俺はヤマト世代よりちょっと下だったので受け止めるだけですよ。劇場には行けなくてテレビ放送で見ましたけど、素直に泣きました。最後どうなるのかも知ったうえで見ているのにね。

羽原
僕は本当に何も情報がない中、劇場で見ていましたから、もう2段、3段とドンドン底に落ちていく感じにビックリしましたね。劇場内では途中からすすり泣きがはじまって、全員が泣いてました。終わった後、誰も席を立たない。そういう経験をした初めての作品でした。


――凄まじい熱量が今のお話からも伝わってきます。その『さらば』と『ヤマト2』を掛け合わせたものを、今改めておふたりは手がけられている。

福井
そうなんです。途中の物語もそうですし、なにより結末が全然違う作品ですからね。それが今回は『2202』の「2」と「愛の戦士たち」が入っている。どちらのルートも取れる一方で、どちらのルートにも行かないかも知れない。それで『2202』の『0』は『Φ(ファイ)』になっています。「どちらでもない」という意味合いを込めて。

羽原
絵コンテはみんなで作っているんですけど、シナリオが深いのですごく悩みます。悩んで悩んで、昨日もちょっと福井さんに相談して。

福井
話し合いを年中やってますね。息の長いコンテンツですし、羽原さんは『復活篇』からずっと作品に関わっていますから、古代進像が出来上がっているわけですよね。だけど今回はその殻を破っていかなくてはいけないところがあって、それをどのぐらい破るのか、というところです。俺だけならもっとアナーキーなものになっていたと思いますけど(笑)。

羽原
あはは(笑)。逆に僕だけでやるとヒーロー過ぎてしまうので、すごくバランスが取れていると思います。

『さらば』というのは有名アニメーターが参加していたりして、画面の方でも当時の最先端なものを見られました。だから今回も新しいことができたらいいなと思いって味付けをしているところです。具体的に言うと、『2199』から登場している宇宙戦闘機「コスモタイガーII」に関して、設定通りのCGモデルと、もう一つ「バージョンK」と呼ばれているモデルが用意されています。名アニメーターの金田伊功さんの頭文字をとってリスペクトさせていただいたネーミングです。機首や両翼が通常より下がっていたり、手前にぐわっとくるカットの時には機首が伸びる、といった作画風デフォルメをするギミックが搭載しているものをCGチームが作ってくれました。このあたりも見どころの一つになっているかと思います。


――参加作画陣では湖川友謙さんも参加されていると言うことで担当カットも楽しみです。

羽原
そうですね! 『さらば』の総作画監督は湖川さんですし、『復活篇』の時に色々とお付き合いさせていただいたご縁で、今回は「第一章のガトランティスのところを描いてください!」とお酒で酔わせて(笑)。絵コンテ段階から、湖川さんにお願いするパートは「あおり(※/湖川氏が得意とする構図。カメラを人物のやや斜め下に設定する)でね」、とコンテを担当してくれた榎本明広さん(2199でのチーフディレクター)に伝えていました。湖川さんの作画はキレがあっていいんですよね!

――では最後に、改めて本作の注目ポイントをお願いします。

福井
今や無料でも楽しめる娯楽がネットには十分あふれている中で、「お金を払って見る」という習慣がある人は、HuluやNetflixといった定額配信サービスで海外ドラマを見るのが好きな方が多いと思うんです。海外ドラマのように、次の話数を見たくなる仕掛けを用意し、次から次へと興味をもたせて大きな一つの物語を語る、というのを目指しています。まずは第一章。リメイクを期待して見てくれるひとたちは、最初は「え?」と思うかもしれません。でも徐々に「なるほど、これはそうだよ!」とわかってくると思います。

羽原
企画段階から福井さんとは、『さらば』や『ヤマト2』の記憶に残る画は再現したい、と話しあっていました。そこに、バランスに気を付けつつ新しいキャラクターや表現方法を提示していますので、そのあたりを楽しみながら最後まで見ていただけたらいいなと思っています。

――ありがとうございました!