2017年02月24日 10:23 弁護士ドットコム
現在世の中は確定申告まっただ中。しかし、給与所得者の皆さんは「確定申告は自分には縁がない」「年末調整しているからほどよく還付されている」などと思っていないだろうか。
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昨年、あなたの家族の誰かに「医療費」が多めにかかったことはないだろうか。手術をしたり、長期にわたった通院をしたり、入院したり、と「少し大きな出費だったな」と感じたら、領収書やレシートを集めて見つめなおすべき。
その額が10万円を超えていれば、医療費控除の対象になる。
医療費控除は、確定申告で該当年の1月1日から12月31日までの世帯の医療費の合計に応じて所得控除が受けられる制度だ。
控除項目に計上する場合は、10万円を額面から差し引かれるので、10万円を超える必要はあるものの、200万円を上限として所得が控除されるので、医療費負担が重い家庭にはありがたい控除制度だ。
方法は、領収書をまとめて、世帯でいちばん年収の高い人の所得控除項目として確定申告をするだけ。所得税の対象額が下がるため、源泉徴収をされた所得税が還付される可能性が高くなる。
領収書を集める際に悩ましいのが、どの領収書が医療費控除の対象になるか。世の中には西洋医学から東洋医学、民間療法までありとあらゆる「治療」がある。もしなんでも控除項目になるのであれば、温泉での湯治すら控除項目になってしまう。
国税庁のホームページ(https://www.nta.go.jp/taxanswer/shotoku/1122.htm)によると、医療費控除の対象になる医療費の主なものは以下のものだ。
(1)病院や歯科医院での治療費(2)治療のための薬の購入費(※ビタミン剤など予防・健康増進目的のものは×)(3)病院・介護施設に収容されるために使うサービス
(4)あん摩マッサージ指圧師、はり師、きゅう師、柔道整復師による施術の対価(※疲れを癒したり、体調を整えたりする目的のものは含まれない)(5)病気療養サービス(入院の際の療養費や家政婦等による付き添いなど)(6)助産師による分娩の介助費用(7)介護福祉士等による淡の吸引や、経管栄養による費用(8)介護保険下の施設・居宅サービス
上記によれば、「病院」「医院」関連のものは大半が控除対象になることが理解できる。加えて、国税庁ホームページによると、通院の際の交通費や松葉杖・コルセットなど医療器具の購入費も控除対象に含まれるとあるので、さまざまな項目が当てはまりそうだ。
しかし、多くの「医療費」を集めようとすると、どうしても疑問にぶつかってしまう。
「インターネットの情報を元に購入した治療目的の漢方薬」「肩こりの治療してもらっている鍼灸院」などの“微妙な”領収書をどうするかという疑問だ。
上記の項目は「治療」目的ともいえそうだが、判断が難しい費用だ。こういった“グレーゾーン”と感じられる費用の領収書の金額も合算して控除額に計上してもいいのだろうか。久川秀則税理士に控除の対象となる医療費の考え方、見分け方について聞いた。
「インターネットやドラッグストアなどで購入した漢方薬や風邪薬などについては、医師の処方箋に基づかなくても、治療や療養の目的のものは医療費控除の対象となります。目的が病気予防や健康増進のためのものは対象になりません」
つまり、風邪の治療や湿疹の治療の医薬品購入については、対象になるのは間違いなさそうだ。それでは、肉体疲労回復のためのサプリやドリンクも対象になるのだろうか。
「治療の目的かどうかについては、具体的な疾病の症状があるかどうかで判断すればよいでしょう」
つまり、具体的に「疾病」と言えない「肉体疲労」については対象外ということだ。
「分かりやすい例は、持病等がありますが医療機関に通院しない場合です。持病や風邪等の明らかな疾病治療の場合は、レシートを保存しておきましょう。ドラッグストアの場合には、治療目的の医薬品と、それ以外の日用品とをレシートを分けてもらったほうが、取りまとめの際に便利ですよ」
それでは、「肩こりの治療のための鍼灸院」の領収書についてはどう考えればよいだろうか。
「あん摩マッサージ指圧師等による施術や鍼灸院などにおける施術の対価については、多くの場合、医療費控除の対象になります」
久川税理士はこう指摘するが、国税庁のホームページ(https://www.nta.go.jp/shiraberu/zeiho-kaishaku/shitsugi/shotoku/05/06.htm)には「健康維持のためのマッサージ代やはり代は、医療費控除の対象とはなりません」とある。この点についてはどう考えるべきなのだろうか。
「健康増進のためのマッサージ等は対象とならないこととされていますが、例えば、あん摩マッサージ指圧師、柔道整復師など国家資格を有している治療には健康保険を適用して行われるものも多く、その場合には治療として医療費控除の対象となります。もちろん個々の症状・疾病の診断は専門的な知見で判断されるものですので、中には健康増進のためとして行われるマッサージなどもあります。したがって、受診に際し医療費控除の対象となるかどうかを確認することをお勧めします」
つまり、マッサージなどにおいても診断の結果に応じて、「治療」とされる場合も少なくないということだ。
ただ、「整体」「リフレクソロジー」「カイロプラクティック」などと称して、国家資格を持たずにマッサージをしているケースも多い。「治療」のつもりで通っている、国家資格を持たないマッサージなどの場合も対象になるのか。
「リフレクソロジーやカイロプラクティックなど国家資格を有しない施術は、そもそも治療という位置づけではないため、健康保険が適用されないものです。大前提で治療という位置づけでないものは、医療費控除においても対象外ということになります。受診の際に確認したほうがよいでしょう」
マッサージは1時間も施術を受ければ、費用が5000円を超えてしまうこともしばしば。家族に定期的にマッサージを受けている人がいる場合は、受診の際に医療費控除の対象となるかを確認し、対象となる場合には早速今日からレシートや領収書を保管するようにしよう。
【取材協力税理士】
久川 秀則(ひさかわひでのり)税理士
青山学院大学文学部英米文学科を卒業、平成7年に東京国税局入局、外資系の銀行や証券会社の税務調査など国際課税畑を長く経験、同局法人課税課で源泉所得税審理係長を務めるなど税法通達に精通、平成19年に退職して税理士登録、幅広い税務に精通するだけでなく、中小企業経営や資金調達などにも専門分野を広げ、多方面で活動している。
事務所名 : 税理士法人 原・久川会計事務所(平塚橋事務所)
URL: https://www.zeikei-support-tokyo.com/
(弁護士ドットコムニュース)