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社会保険逃れ? 雇用主変更、6年半で67回も…長崎県臨時職員裁判の問題点

2017年02月24日 10:23  弁護士ドットコム

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長崎県の臨時職員だった女性が、約6年半のうちに県と外郭団体との間で、繰り返し雇用主を切り替えられたのは違法だとして、県を相手に約420万円の賠償などを求めていた訴訟が2月2日、福岡高裁で和解した。県が解決金として50万円を支払う。


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女性は2006年8月、臨時職員として県庁の交通政策課に採用されたが、およそ1カ月ごとに雇用主が県や複数の外郭団体に切り替わった。その回数は、2013年3月までの約6年半で、67回に及んだそうだ。


法律上、2カ月以内の雇用なら社会保険の適用が除外される。女性は雇用主が次々に変わったのは、「社会保険の事業主負担を逃れる意図だった」として県を提訴。2016年3月の一審・長崎地裁は「意図」は認められないとしたが、県に慰謝料40万円の支払いを命令していた。


●長崎県の言い分は?

長崎県人事課によると、女性は外郭団体に雇用されている期間も、交通政策課の部屋で働いていたという。県は「毎回必要性を考えて、次の契約を結んでいた。雇用主が変わる度に、業務内容は変わっていた」と説明する。


しかし、業務の範囲があいまいな部分もあったようで、2014年11月には、当時外郭団体の所属になっていたこの女性に、県の業務をさせたとして、長崎労働局から指導を受けている。


長崎県は、今回の和解成立について、「違法性はないという認識は変わらない」とコメント。ただし、契約が変わる際に「雇用通知書」を交付していない実態もあったそうで、「裁判所から説明不足を指摘されており、真摯に受け止めなければならないと考えている」と話している。


臨時採用の職員を何度も雇い直したり、何度も雇用主を変えたりすることに法的な問題はないのだろうか。大部博之弁護士に見解を聞いた。


●「臨時職員制度」の趣旨を逸脱したやり方

ーー臨時職員を何度も採用し直すことに問題はないのか?


「臨時職員制度は、地方公務員法22条で定められた制度で、臨時的・補助的な業務に従事することが想定された任用形態です。更新も一度しか認められておらず、更新が繰り返されることは想定されていません。あくまでも臨時・補助的な業務であることが想定されているからです。


長期間の勤務が前提になっているのであれば、本来であれば、期間の定めのない正規職員としての雇用が検討されなければなりません。


本件では、およそ1カ月ごとに雇用主を切り替えるというやり方で、結果として6年半もの間、県やその外郭団体に雇用されたというのですから、本来の臨時職員制度が想定していた趣旨からは明らかに逸脱しています」


ーー臨時職員のため、この女性には有給休暇がなく、退職金も払われなかった


「正規職員であれば、当然に認められる権利の行使を付与しないための便法として、このような雇用方法をとったのであったとすれば、極めて悪質といわざるをえません。


ただし、形式上、採用手続きをきちんと履行しているのであれば、使用者側にそのような意図があったことを証明することは難しいかもしれません」


ーー似たような事案は、一般企業でも起こり得るか?


「雇用主が変わること自体は問題ではありません。問題なのは、当該職員が誰の指揮監督関係の下にあるのかが不明確であるという場合です。自己の雇用する労働者を、他人の指揮命令を受けて当該他人のために労働に従事させるような状況は、職業安定法・労働者派遣法に違反することになります。


本件ではこのような事情が影響して、第一審では慰謝料が認められたようです。一般の会社でも、同じ職場で複数の関連会社が存在する場合に、同一の従業員が複数の会社の業務をこなしているような状況はよくあると思います。そういう場合に、職業安定法・労働者派遣法に抵触するおそれがないか、吟味する必要があるかもしれません」


なお、長崎県では、2014年7月に総務省が出した、非常勤職員らの任用に関する通知を受けて、2015年から臨時職員の雇用条件を変えている。原告の女性の頃は、最長雇用期間が「2カ月間に25日以内」となっていたが、現在は6カ月に延長され、多くの臨時職員が社会保険に加入できるようになったそうだ。


(弁護士ドットコムニュース)



【取材協力弁護士】
大部 博之(おおべ・ひろゆき)弁護士
2006年弁護士登録。東京大学法学部卒。成城大学法学部講師。企業法務全般から事業再生、起業支援まで広く扱う。
事務所名:小笠原六川国際総合法律事務所
事務所URL:http://www.ogaso.com/