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三浦友和、“一家の大黒柱”役がハマる理由 『就活家族』と『葛城事件』の共通点を探る

2017年02月24日 06:03  リアルサウンド

リアルサウンド

リアルサウンド映画部

 テレビ朝日で木曜よる9時に放送中の『就活家族~きっと、うまくいく~』は、父、母、姉と弟の4人家族が、同じ時期に職を探すことになる悲喜こもごもを描いたドラマで、三浦友和が連続ドラマで17年ぶりの主演を務めている。


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 この三浦友和の演じる富川洋輔は、もともとは、大手鋼鉄メーカーの人事部長で信頼も厚く、出世コースからも外れていなかったし、新築の家も建設中であった。しかし、会社の女性社員から事実無根のセクハラ疑惑をかけられ、会社を辞めることになってしまう。


 よくある話だが、洋輔は、会社を辞めた後も、家族にその事実を伝えられず、定時に家を出ては夕方まで公園で過ごし、時間になると家に帰るという暮らしをしていた。それもこれも、一家の大黒柱が、リストラにあったとは言えないからだ。


 三浦と言えば、2016年に出演した映画『葛城事件』でも、家や家族を背負う役を演じている。役のキャラクターこそ『就活家族』の洋輔とまったく違うが、こちらで三浦友和が演じた父親は、高圧的で自己中心的で、そのことで妻と二人の息子の精神が崩壊し、長男は結婚して家庭を持っているもののリストラされ、次男は犯罪を犯してしまう。その長男が、『就活家族』で共演している新井浩文だというのも興味深い。


 『葛城事件』で家族が崩壊してしまったのは、抑圧的な父親のせいなのは間違いないが、それは、誰もが実現できると思っていた、昭和の理想の家族に自分たちが近づけなかったフラストレーションとも関係がある。つまり、家族全員で食卓を囲み、子供は学校を出て就職をして、家族が増えていくという、かつてならば当たり前のことが出来にくくなった現代において、それをかたくなに守ろうとするばかりに、家が心安らぐ場所ではなくなってしまったのだ。


 三浦は『就活家族』でも家を背負っている。しかし、なぜ今、三浦友和が、家を背負う役が当たり役になっているのだろうか。


 そこには、三浦自身が、国民的なアイドルであった山口百恵と結婚し、息子たちも芸能界で活躍していて、理想的な家族であることを誰もが知っていることにも関係があるだろう。そんな彼が家を背負う姿は、イメージしやすいのではないだろうか。また、彼の生真面目で責任感のありそうな姿と、そこから来る、頑固で信念を曲げられなさそうな印象も、家を背負う役には、ぴったりな気がしてしまう。


 俳優の中には、もっと肩の力が抜けていて、家族のありかたの変化をすんなり受け入れる役が似合うタイプのものもいるだろうし、家族はいても、そこに重きをおかず、アウトロー的に生きる父親像が似合う人もいるだろう。個人的には、前者は中井貴一であり、後者は役所広司をイメージしている。そして、三浦は家族の大黒柱としてどっしりと存在しているのが似合うタイプの俳優に見える。故にそれが崩壊した姿を演じると、妙に引き込まれるものがある。


 昨今の家族の形は、どんどん変化しているし、『就活家族』や『葛城事件』のように、かつて描いていた理想のようにはいかないと感じている人も程度の差はあれ多いことだろう。そんな現代の理想と現実の狭間で感じる戸惑いを体現できるのが三浦友和という役者であるから、2016年から17年にかけて、立て続けに当たり役に恵まれているのではないだろうか。(西森路代)