2017年02月22日 20:23 弁護士ドットコム
裁判所の令状なしに、捜査対象者の車などにGPSを取り付ける捜査の違法性が争われた窃盗事件で、最高裁大法廷(裁判長・寺田逸郎長官)の弁論が2月22日に開かれた。弁護側は、GPS捜査は警察の裁量で運用されているとして、「きちんとしたルールがないと許されない」と訴えた。判決日は後日指定される。
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令状なしのGPS捜査の違法性については、裁判所によって判断が分かれており、今回、最高裁が何らかの判断を示すとみられる。弁論後、司法記者クラブで会見した弁護団の小林賢介弁護士は、「GPS捜査の違法性を認めてほしい。監視型社会において、捜査がどうあるべきか、示唆のある判断があれば」と最高裁への期待を語った。
弁論が開かれたのは、窃盗罪などで起訴された男性(45)の上告審。店舗荒らしなどを繰り返した疑いがあるとして、大阪府警が令状を取らず、男性の車などにGPS端末を装着し捜査していた。取得した情報は裁判の証拠として提出された。
一審の大阪地裁では、男性の供述などから懲役6年6カ月としたが、令状なしのGPS捜査は違法と判断し、証拠として採用しなかった。しかし、二審の大阪高裁は、量刑を変えなかったものの、「捜査に重大な違法はなかった」として、証拠を採用した。
その後、男性側が上告。GPS捜査で集められた情報は、違法収集証拠に当たるとして、一部の事件については無罪を求めている。
警察の捜査は、「任意捜査」と「強制捜査」に分けられ、強制捜査の場合には裁判所の令状が必要だ。警察の見解では、GPS捜査は尾行などと同じ「任意捜査」で、裁判所の令状は必要ないとしている。
一方、裁判所の判断は分かれている。たとえば、名古屋高裁は2016年6月、プライバシー侵害の危険性があるとして、令状なしのGPS捜査を違法としたが、広島高裁は同年7月、別の事件で違法ではないという判決を下している。
男性の弁護団は、GPS捜査のすべてを否定しているわけではない。裁判の過程で実際にGPSを使った捜査の検証実験を行い、その有用性も理解しているという。
問題は、そのGPS捜査が、警察の裁量で運用されていることだ。GPS捜査の実態は長らく明らかにされず、裁判で提出される証拠も、それがGPS捜査に基づくのかどうかさえ示されてこなかった。
弁護団の亀石倫子弁護士は、「警察のルールに任せていると拡大解釈され、犯罪に関係ない一般市民にも(GPSが)つけられる可能性がある」として、立法によるルールづくりの必要性を強調する。
亀石弁護士によると、今回の事件では、犯罪と関係ない被告人男性の交際相手の車にもGPSが設置されていたという。「『犯罪捜査のためには必要』『自分は関係ないや』と思うかも知れないが、きちんとしたルールがないと、いつ自分が対象になるかわからない。被疑者・被告人だけの問題ではなくなる可能性がある」(亀石弁護士)
GPS捜査の抱える問題は、個人の位置情報を取得することが、プライバシー侵害につながらないかということだ。今回の弁論で、弁護団は「位置情報の扱われ方は人の生き方を左右する」として、次のように訴えた。
「病院にいれば、病気だと思われます。お寺や神社にいれば、その信仰を持っていると思われます。裁判所にいれば、紛争を抱えていると思われます。なんの説明もいりません」
その上で弁護団は、今回の裁判がプライバシーを大切にする社会になるかの分岐点になると結んだ。
(弁護士ドットコムニュース)