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弓木英梨乃が見せた、プロデューサーとしての資質 遊佐未森、Negiccoとの共演をレポート

2017年02月22日 17:32  リアルサウンド

リアルサウンド

弓木英梨乃(撮影=矢沢 隆則)

 2017年2月19日、弓木英梨乃の主催ライブ「弓木流 vol.2」が関交協ハーモニックホールで開催された。2016年8月7日に同じ会場で開催された「弓木流 vol.1」では、ゲストにつじあやの(1stステージ)と土岐麻子(2ndステージ)を迎えていたが、「弓木流 vol.2」はゲストに遊佐未森(1stステージ)とNegicco(2ndステージ)を迎えて開催された。


(関連記事:KIRINJI・弓木英梨乃、楽曲重視のギターテクとは? ゲス乙女。や『けいおん!』をリアレンジ


 弓木英梨乃は、2013年に6人組バンド編成となったKIRINJIのメンバーであり、ボーカル、ギター、バイオリンを担当している。また、現在Base Ball Bearのツアー「バンドBのすべて 2016-2017」にサポート・ギタリストとして参加しており、まさに弓木英梨乃に注目が集まる中での「弓木流 vol.2」開催となった。2公演ともソールド・アウト。会場の前にはBase Ball Bearからの花が飾られていた。


 もともと弓木英梨乃は、2009年にシンガーソングライターとしてメジャー・デビュー。その後、サポート・ミュージシャンとしても活動する中で、KIRINJIの堀込高樹に加入を誘われたという経歴を持つ。「堀込高樹の目にかなったギタリスト」。その意味は、田村玄一 、楠均、千ヶ崎学、コトリンゴといった、同時にKIRINJIに加入した顔ぶれを並べてみたときに重みを持つ。全員が高い技量と強い個性をあわせもつミュージシャンばかりだ。そんなKIRINJIに弓木英梨乃も加入することになった。


 2016年の「弓木流 vol.1」は、弓木英梨乃にとって6年ぶりのソロ・ライブの場でもあった。「弓木流 vol.2」では、前回に続いてドラムに楠均(KIRINJI)、キーボードに渡辺シュンスケ(Schroeder-Headz)、ベースに御供信弘を迎えてステージに立った。


 今回の「弓木流 vol.2」は、バレンタインに翻弄される恋する女の子をテーマにした、ストーリー仕立てのライブ。そのテーマに沿って、書き下ろし楽曲やカヴァーも披露された。しかも、ゲストが登場する部分以外はほぼMCなし。弓木英梨乃やバンド・メンバーがセリフを言って進行していくのだ。ライブにストーリー性を加えて、構成や演出に重きを置いたライブだった。それは、弓木英梨乃のプロデューサーとしての資質が生み出したものでもある。


 ライブが始まると、まず楠均のドラムが響く中でステージの幕が上がり、ギターを抱えた弓木英梨乃とバンドが登場。1曲目の「I Wanna Be Your Girl」 から、アメリカ南部の香りに満ちた演奏だ。せつないミディアム・ナンバーの「2人だけのデート」でもバンドのグルーブが強烈。「Dream a dream of me」はインストルメンタルで、バンドの演奏を堪能させる趣向だった。


 ここからゲストを迎えたコーナーへ。


 1stステージでは、恋に悩んだ弓木英梨が遊佐未森のラジオ番組「ミモミモレディオ」に投稿するという展開に。遊佐未森のラジオの音声が「オレンジ」の曲紹介で終わると、ステージに遊佐未森が登場して、弓木英梨乃たちによる演奏で「オレンジ」を歌いはじめた。遊佐未森の艶やかなボーカルとバンドのグルービーな演奏は、予想以上に相性が良い。


 さらに、遊佐未森の「ミモミモレディオ」に弓木英梨乃が遊びにきたというていで、ふたりによる長いトークもあった。遊佐未森によると、弓木英梨乃は「人生について語りたがる」とのこと。弓木英梨乃にとって遊佐未森は、人生の先輩にして良き理解者であるようだ。


 弓木英梨乃のアコースティック・ギターの伴奏のみで遊佐未森が歌ったのは「地図をください」。弓木英梨乃はコーラスも担当し、ふたりの歌声が響いた。バンド・メンバーがステージに戻り、その演奏で歌われたのは、オフコースのカバー「ワインの匂い 」。このライブのために、遊佐未森は初めて歌ったそうだ。最後は遊佐未森の2016年作「せせらぎ」から「風の庭」。弓木英梨乃によるケルト風のアレンジだった。


 2ndステージでは、弓木英梨乃が今度はNegiccoがパーソナリティーを務める「ネギネギレディオ」に悩みを投稿して、Negiccoの音声による「ねぇバーディア」の曲紹介へ。そしてステージにNegiccoが登場して、弓木英梨乃らによる演奏で「ねぇバーディア」を歌った。ソウルのテイストが濃い「ねぇバーディア」にも、弓木英梨乃たちの演奏はしなやかに対応してみせた。


 弓木英梨乃はNegiccoのライブにも行っており、一緒にライブをするのが夢だったということで、感無量といった雰囲気。ところが、同じステージに立ったとたんに「自分に自信がない」と言いだし、Negiccoに「私たちもそう」と励まされて、「自信ない系女子」談義になる一幕もあった。


 弓木英梨乃が「なんか曲でもやります?」と言った後も会話が脱線しながら続いたが、「(4人の)チームワークを見せつけるぞ!」ということになり、Negiccoもマラカスなどを手にして、弓木英梨乃のアコースティック・ギターの伴奏による「矛盾、はじめました。」へ。弓木英梨乃のソリッドなストロークとともに歌われた「矛盾、はじめました。」は、オリジナルのアレンジと大きく雰囲気の異なるものだった。


 弓木英梨乃が「Negiccoに入りたい」と言うと、「Negiccoはもともと4人いた」という話になり、弓木英梨乃が「なんで辞めたんですか?」と言いだして脱線する場面もあったが、とにかく4人でやることに。4人のユニット「ゆみねぎ」として、バンド演奏をバックにして、KIRINJIの「Mr.BOOGIEMAN」をカバーした。歌って踊る弓木英梨乃が見られたのは、この日の2公演でこのときだけだ。


 歌い終わると、弓木英梨乃があっさり「では脱退します」と言って再びギターを抱え、バンドによる生演奏で「光のシュプール」へ。「Negicooは3人のハーモニーが素敵」と言う弓木英梨乃のアレンジにより、1960年代ガールズ・ポップ・グループ風のアレンジで演奏された。アレンジャーとしての弓木英梨乃の才能が光った1曲でもあった。


 ゲストとのコーナーが終わると、渡辺シュンスケがキーボードで弾く「星に願いを」をバックにして、弓木英梨乃とバンド・メンバーがストーリーに戻って語り合う「宇宙に向かってうたおう」のコーナーに。そのメドレーでは、デヴィッド・ボウイの「スターマン」や坂本真綾の「うちゅうひこうしのうた」も歌われた。


 弓木英梨乃のファンキーな資質が全開になったのが「CCSC」。5拍子の楽曲で、しかも歌以外の演奏パートになるとファンクに変貌し、痛快なほどだった。かと思うと、「決戦は火曜日」はヘヴィメタルのようなハードな演奏によるインストルメンタル。最後の「Good Night」は、渡辺シュンスケのキーボードのみを伴奏にした歌から、メロウな演奏へと展開していった。


 ライブ中、弓木英梨乃は楽曲ごとにアコースティック・ギターとエレキ・ギターを持ち替えていた。ときにアーシーで、ときに繊細、ときにファンキーで、ときにハード。そんな弓木英梨乃のミュージシャンとしてのさまざまな資質を音楽で体感させながら、ゲストとのトークでフランクな人柄をも見せたのが弓木英梨乃の「弓木流 vol.2」だった。(文=宗像明将)