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花澤香菜 × 北川勝利 × 山内真治が語る、4thシーズンの集大成 「UKを今のチームで切り取った」

2017年02月21日 19:03  リアルサウンド

リアルサウンド

花澤香菜 × 北川勝利 × 山内真治

 花澤香菜が、ニューアルバム『Opportunity』をリリースした。


 音楽活動の“4thシーズン”を通して、アーティストとして着実な成長を果たしてきた彼女。新作は“UKサウンド”をテーマにした一枚だ。ブリティッシュ・ロックやブルー・アイド・ソウル、ネオアコやソフトポップなど、かなり幅広いジャンルのサウンドが集っている。前作に続いてトータルサウンドプロデューサーは北川勝利(ROUND TABLE)が担当。岩里祐穂、ミト(クラムボン)、沖井礼二(TWEEDEES)、宮川弾、矢野博康ら馴染みのクリエイター陣に加え、kz、片寄明人、Spangle call Lilli lineが初参加。さらにはSimply Redのミック・ハックネルの楽曲提供も実現した。


 今回は、花澤香菜と北川勝利、そしてデビュー前から活動を支えてきたアニプレックスのプロデューサー山内真治氏に、新作についてじっくりと語ってもらったインタビューが実現。「なぜ花澤香菜はこれだけ多くのミュージシャンを夢中にするのか?」という疑問に応えるテキストにもなっているのではないかと思う。(柴那典)


・「自分のなかで身近にあった音楽なんだなって」(花澤香菜)


ーー新作『Opportunity』はUKサウンドがコンセプトですが、これはどういう発端から始まったんでしょうか?


山内真治(以下、山内):実際に決まったのは『Blue Avenue』を出してすぐの頃でしたね。


北川勝利(以下、北川):前回の『Blue Avenue』は「ニューヨーク」というコンセプトがあって。その制作途中ですでに「次はUKかな」という話が出ていたんです。だからだいぶ前から決まってました。


花澤香菜(以下、花澤):「ニューヨークの次はロンドンに行くぞ」という感じですね。旅の予定みたい(笑)。UKサウンドとかUKロックってどういうものなのか、そのときはまだ私はよくわかってなかったんです。


ーー山内さんは花澤香菜プロジェクトにいつ頃から関わっていらっしゃったんですか?


山内:デビュー前からですね。そこから綿密かつ入念に打ち合わせてコンセプトを決めていきました。もちろんそれは北川さんや香菜ちゃん本人も含めてですけれど。


ーーリアルサウンドではミトさんとマネージャーの松岡超さんの対談も掲載されています。これまでの取材などを経て、「花澤香菜の音楽活動」というものが、様々な角度から明らかになっていると思うんですが。


北川:そうですね。たしかに。


ーーそのデビューからの流れの中で、「UK」というキーワードは一つの必然的なものだった。


北川:もともと2枚目のアルバム『25』のときも、収録曲が25曲あったんで、いろんなタイプの音楽を入れたい中にそういうテイストの曲もあったんです。で、今回はそのキーワードに特化したアルバムを1枚作りましょうということだったんですね。


ーーとは言っても、UKにもいろんな時代、いろんなジャンルがありますよね? そこからどういうテイストを選んでいったんでしょうか。


山内:僕としては、最初に「第2次ブリティッシュ・インヴェイジョン(デュラン・デュラン、カルチャー・クラブなど)の感じとかどうですかね?」って北川さんと話したんですけど。「それはないかなー……」って言われて(笑)。


北川:まあ、最初にトータルの感じは決めてなかったんですけどね。自分としては、イギリスの80年代後半のマンチェスターみたいなところの感じをやりたいなくらいの気持ちはあったりしたんですけど。


山内:そこから、一つの時代を切り取るんじゃなくて、70年代から90年代まで見渡したなかで、いろんなUKのテイストとかエッセンスみたいなものを、掘り下げたテーマとして表現していこうということになったんです。それを花澤香菜というボーカリストの声で表現をする方が深みが出るし、伝えられることも増えるという。


北川:あとは、他のクリエイターのみなさんと相談していくときに、「どういうのやりたい?」「こういうのどう?」みたいな話をする中でなんとなく枠が決まっていって。そうして最終的に曲調が出揃ってきたんですね。


ーー花澤さんは最初にUKと言われて、どういうイメージがありましたか?


花澤:なんかピンときてなかったですね。ロンドンのイメージもあんまりなくて。自分のなかではハリー・ポッターとか、食べ物があんまり評判良くないとか(笑)。UKロックといっても、私の声であんまりゴリゴリのロックはやらないだろうな、とか。それくらいでした。


ーーそこから実際にアルバムを1枚作って、撮影もロンドンで行なってきて、イメージはどう変わっていきました?


花澤:kzさんの「スウィンギング・ガール」とか、Simply Redの「FRIENDS FOREVER」とか、ああいう曲を聴いて、UKロックというのは気付かなかったけど結構自分のなかで身近にあった音楽なんだなって思いました。ピンときてなかっただけで、経験はしてきているんだなって。しかも、やっぱり自分の好みの感じなんです。『Blue Avenue』の「ニューヨーク&ジャズ」というサウンドコンセプトのときも、それまでジャズは知らなかったけど、出会ってみて「あ、素敵!」って思って。今度はUKを通してそういう発見ができました。


ーーここからはアルバムの収録曲についてじっくりと聞いていきたいと思います。まずは1曲目の「スウィンギング・ガール」。これはkzさんが作曲ですが、彼得意のエレクトロではなく、UKロックのテイストで仕上がってますね。


北川: kzくんは香菜ちゃんともラジオで一緒だったりもしたし、本人も香菜ちゃんの曲を書きたいってずっと言ってくれてて。で、おっしゃるとおり、普通だったら彼には4つ打ちの曲をオーダーすることが多いと思うんです。でも、彼は元々UKロックがルーツにあるもので、そこでトライしてもらいたい気持ちがあって。


ーー花澤さんの第一印象はどんな感じでしたか?


花澤:とっても歌いやすそうだなと思いました。kzさんとはラジオでお話したこともありますし、お仕事もご一緒したことがあるんですけども、確かにこういう曲を書かれているイメージがなくて。でも、さっき言ったような、私が知らずに聴いていたUKロックのテイストがわかりやすく入っている印象でした。


――この曲にはThe Beatlesのイメージも大きいです。


北川:他のみんなも、やっぱりストレートなThe Beatlesのテイストは好きなんですよ。でも、だからこそトライするのは難しくて。そんな中、彼はそれを力強く打ち返してきたなと思います。


山内:実は別にkzさんにはThe Beatlesうんぬんっていう発注は特にはしてないんですよね。「今回のテーマはUKなんです」と言ったら、「わかりました。じゃあ僕のルーツから作ります」という案を出していただいて。そこから話していく中で北川さんとThe Beatlesっていう会話が出てきて。だから自然と出てきた流れではあったんです。


北川:で、これは予定になかったことなんですけど。これこの曲の録音を進めていた段階で、同じスタジオの別の部屋でミト君が自分の曲のレコーディングをやってたんですよ。で、ミト君の作業が終わった後に聴いてもらったら「これ、ベース弾くよ!」って言って(笑)。「ポール・マッカートニーと同じヘフナーのヴァイオリンベースで弾くから!」って。


山内:そうそう。しかもそれを言い出したのが飲みの場でしたからね。朝6時くらいまで飲んでて、ノーギャラでOK! くらいの勢いでヘフナー弾いたという。


ーー前のアルバムの話もそうですけれど、ミトさんの花澤香菜プロジェクトにおける前のめりっぷりは、毎回印象的ですね。


北川:そうですね。全体的にだいぶおかしなプロジェクトなんですけど、あの人はさらにどうかしてる!


ーーあはは(笑)。ミトさんの名前が出たので、ラスト「Blue Water」の話を聞ければと思うんですけど。これは相当コーラスが重なっている曲ですね。どういうところから、このサウンドメイキングになっていったんですか?


北川:もともと彼がコーラスを沢山入れたいという話をしていたんです。「10cc(70年代イギリスのポップ・バンド)の『I’m not in love』はこうやって声を沢山重ねて録ってたから、この曲もそうするんだ」って説明されて。「いや僕ら10ccじゃないですから」って言ったんですけど(笑)。


山内:結局125声くらい重ねたと思います。


北川:「どうかしてるよ?」っていう(笑)。結局、香菜ちゃんもそんなにスケジュールのない中、あの人ひとりで3日間も歌録り用にスタジオを押さえてたんですよ。


ーー花澤さんはこの曲のレコーディングはどうでした?


花澤:最初からみんなに謝られました(笑)。「本当に申し訳ない! 苦痛かもしれないけど、一緒に頑張ってほしい」みたいな。でも、私は別にコーラスも好きだし、録っていくうちにちょっと音程をフラットにしたり、ちょっとシャープしたりした方がいい重なり方になることがわかって。そこを狙っていったら楽しくなっちゃって、そうこうしているうちに終わった感じです。


北川:ほんと、巻き込まれタイプですよね(笑)。


山内:『Blue Avenue』の時も香菜ちゃんを予定時間オーバーして拘束して、20数本のコーラスを重ねてて。その後「じゃあこの作業終わったらご飯食べましょう」って言ってたんですけど、そのゴハンの場で唐揚げ食べてホッピー飲みながら「僕、夢があって――」ってミトさんが突然言い始めて。そこが「Blue Water」の出発点です。


ーー異常ですね(笑)。


北川:異常です。完全にどうかしてる曲ですね。


山内:狂気を感じますよ(笑)。


花澤:でも、あれだけ声が重なると、神秘的な感じというか、怖い感じが出るのかなって思ってたんです。でも、実際に聴いてみたら、大きいスピーカーも、小さいスピーカーも、ヘッドホンも全部違って、どれもすごくよくて。私の声の成分みたいなのが蒸気のように出てきて、ミストサウナにいる感じになるんです。それがすごく心地よくて。「あっ、こういうことをしたかったんだ。ミトさんって変態だな」と(笑)。どの聴き方しても面白いし、心地いいので、ぜひ試してもらいたいと思います。


山内:ハイレゾ配信もするので、ハイレゾ環境で聴いてもらえれば、ミストシャワーっぷりがよくわかると思います。


・「「誰の曲でも花澤香菜の曲にしよう」というトライがある」(北川勝利)


ーーそして、今回のアルバムのトピックとして大きいものは「FRIENDS FOREVER」ですね。これはSimply Redのミック・ハックネルが作曲を担当しています。これはどういう経緯で実現したんでしょう?


北川:『Blue Avenue』では「Dream A Dream」をSwing Out Sisterのアンディ・コーネルとコリーン・ドリュリーに書いてもらうというのが、いろんなタイミングと幸運が合わさって実現して。今回は「UKサウンド」ということで、UKのアーティストの誰かに参加していただきたいっていうみんなの夢がありまして。それでいろんな方にお願いしたい候補の中に、ミック・ハックネルの名前が出てきて。


山内: Swing Out Sisterのときはいろんな偶然が重なったんです。たまたま彼らが来日していたり、たまたま繋がりがあったり、ある種の奇跡だったんですね。だから今回はそんなに簡単なことじゃないぞ、と思ってたんですけれど、繋がる糸を全部手繰り寄せていったら、結果実現したという。


ーーなるほど。


山内:きっとケンジ・ジャマー(鈴木賢司、Simply Redの中心的メンバー)さんの存在も大きかったと思います。アニメのシーンへの理解もあると聞いていましたし、花澤香菜という名前も知っていていただいてたそうです。


北川:タイミングもよかったみたいで、バンドのみなさんが集まってツアーのリハーサルをしてたみたいみたいなんです。だからデモをミック本人が歌って、ツアーバンドのメンバーで録っていただいた曲がすぐに完成形で送られてきて。


ーーそれはチーム一同盛り上がりますよね。


北川:そうですね。「完全にSimply Redだ!」って。


山内:ただ、いかんせんキーが合わなくて。7音半くらい変えたんですけれど。


北川:そこはいろんなチャレンジがありました。で、このサウンドを活かすために日本語の歌詞を付けるとするなら西寺郷太くんだと思って連絡して。「Simply Redのミック・ハックネルに曲書いてもらってるんだけど歌詞書く?」って言ったら「書く書く! 今すぐやる!」って、すぐに書いてくれました。


ーーミトさんもそうですけど、花澤香菜プロジェクトは関わるミュージシャンがみんな前のめりなんですよね。


北川:そうですよね。返事が食い気味でした(笑)。


ーー花澤さんはSimply Redから曲が届いて、どういう印象でしたか?


花澤:ミックの歌声がとても自由で「こんな風に歌えたら、楽しいだろうな」っていうくらいの表現をされてたんですね。なので、この感じを混ぜて歌えたらいいなって思いました。


北川:結局「誰の曲でも花澤香菜の曲にしよう」というトライがありますからね。郷太くんにも歌録りに来てもらって、「もっとこういう方がいいかな」みたいな話し合いをしながら進めていきました。


ーーSpangle call Lilli lineは「星結ぶとき」を提供しています。彼らもかなり独自のスタンスで活動してるグループですけど、これはどういう化学反応があった感じでしょうか?


北川:Spangle call Lilli lineは2ndくらいのときからお願いしたかったんですけど、その時はタイミングが合わなくて。そこで今回改めてお願いしました。メンバーのギターの笹原(清明)くんからは「花澤さんに寄せた方がいいんですか?」みたいに言われたんですけど、「そうじゃなくて、スパングルのそのままで1番いいものを作ってほしい」って話をして。彼らはデモを作らないんですよ。サポート含めたメンバーでスタジオに入って、ジャムセッションをしながらオケを作って。それをボーカルの大坪(加奈)さんが家に持ち帰ってメロディやコーラスを乗せる。だから「完成までどうなるかわからないんです」みたいな話だったんですけど、最終的には歌詞もプロジェクトでずっと関わってくれてる宮川弾くんにお願いして、すごくいい感じに着地しました。


花澤:この曲はデモをいただいたときから、おしゃれで素敵だなって思って、ずっと聴いてました。ただ、歌うときに表情をつけすぎちゃうと曲の良さとぶつかってしまうかなと思って、結果的にクールに歌ってます。


ーー「FLOWER MARKET」は片寄明人さんが作曲に参加しています。


北川:片寄さんもずっと前からお願いしたいと思っていた方ですね。


山内:それこそ『claire』の時から片寄さんの名前は話には上がっていたんですけど、なかなか巡り合わせが合わなくて。で、ようやく今回実現となりました。実際に北川さんと一緒に片寄さんに会って、一緒に楽曲制作の話しを始めたら、すごく前向きな感じで話が広がっていって。実はこの曲ができていく中で、方向性は二転三転したんです。


北川:片寄さんもいろんなUKのイメージを持ってるんですよね。「こういうのもあるし、こういうのもあるけど、どれがいい?」ってどんどんアイディアを出してくれて。そこから出来上がったのがこの「FLOWER MARKET」だったんです。で、曲が決まってから「メンバーは誰がいい?」って聞かれて。「初期のGREAT3のメンバーとかどうですか?」って言ったら、「いいね」って即答してくれて。


――高桑(圭一)さん、白根(賢一)さんが参加されていますね。


北川:エンジニアに南石(聡巳)さんも呼んで、GREAT3が初期にずっと録ってた大久保のフリーダムスタジオでレコーディングしたんです。2016年末で閉鎖しちゃったんですけど、あそこはみんなの思い出のスタジオなので、そこでみんなでやれたらいいなって。


山内:しかも、演奏メンバーと南石さんのスケジュールとスタジオの空きがピンポイントでピッタリあったんですよ。


北川:そうしたらギターのアイゴン(會田茂一)も「俺も弾きたい」って言ってやってきて。フジファブリックの金澤(ダイスケ)くんも来てくれて。


山内:レコーディング、あっという間に終わりましたね。3時間かからなかったくらいでした。


北川:録り終わったあとはフリーダムスタジオで90年代にどんなひどいことが起きてたかっていうのをずっとみんなで話しててね(笑)。それだけじゃなくて、いろんな人が挨拶にやってきて、写真を撮っていったり、差し入れを置いていってくれたりもして。みんなには「いい機会をありがとう」って言われたんですけど、そこに立ち会えて僕らも光栄です。


山内:「その時になんで私を呼んでくれなかったんですか」って香菜ちゃんが後で拗ねてたんですけど(笑)。


花澤:フジファブリック、大好きなんです! だからなぜ金澤さんがいるときに呼んでくれなかったのかって。


――ははははは(笑)。でもGREAT3が再結成した後にオリジナルメンバーで演奏している機会もそうそうないですし、片寄さんはフジファブリックのデビュー時のプロデューサーですし、そういう繋がりも考えると本当に貴重な機会だと思います。


花澤:そうなんですね。だから、『Opportunity』で悔いが残っているのはそこに私が一緒にいられなかったことだけです(笑)。


山内:ちなみにこの曲、歌詞も面白いんですよ。岩里(祐穂)さんが書いてくれてるんですけど、「UK」「ロンドン」っていうものをモチーフにするという話の中で「撮影に行くならFLOWER MARKETがいいよ」みたいな、そういう現地ガイドを兼ねたキーワードを入れていただいたんです(笑)。


花澤:そうそう。写真をわざわざ持ってきてくださったんです。


北川:「ここのイングリッシュガーデンはいいのよ」ってずっと説明してました。


ーー岩里さんも花澤香菜プロジェクトに関してはいつも前のめりですね。


山内:はい。いつもライヴを観にきてくださいますし、打ち上げにも歌録りのときも必ず顔を出してくれて。仮歌も歌ってくれますからね。


ーー北川さんは5曲ほど作曲していますが、ご自身の中で思い入れのあるもの、ポイントを語っていただいてよろしいでしょうか。


北川:「Marmalade Jam」は、歌と曲調に関してはちょっとチャレンジがありますね。


花澤:そうですね。毎回いろんなことに挑戦させてもらえるんですけど、今回の「Marmalade Jam」は新鮮でした。


ーーセクシーさというか、いわゆる大人の女性の感じが出ている曲ですね。


花澤:そうですね。ロンドンガールの自由気ままな感じとか、ちょっと芯の強い女性の感じとか、セクシーな感じをイメージして歌うは初めてのことだったので。


北川:すこしブラック・ミュージックの感じもあるし、ロックのワイルドさもあるし、可愛い感じではない歌にしようと思ったんです。どういう格好よさに落とし込もうかを探りながら作っていきました。


・「一番芯の強い作品に仕上がった」(山内真治)


――「Marmalade Jam」の次には表題曲の「Opportunity」が収録されています。


花澤:これ、アルバムのタイトルが『Opportunity』に決まってから北川さんが足してくださったんですよ。


山内:あっという間に書いてこられましたね。


花澤:この曲があることによって、「Marmalade Jam」から「ざらざら」にいけるんです。


――山内さんの思い入れのある曲はどうでしょう?


山内:全部にもちろん思い入れもあるんですけれど。個人的に「雲に歌えば」が可愛くて好きですね。いわゆるキュートさという意味では群を抜いているというか。


花澤:「雲に歌えば」って、「ハッハッハ」っていう吐息で始まってるんですけど、あれは最初息を吐く音で録ってたんですけど、息を吸う音の方がよくて。あれ全部吸って録ってるんですよ。


山内:これは言われないと気付かないポイントですよね。


ーーアルバム収録曲の中で言うと「brilliant」は花澤さん自身が歌詞を書いた曲ですね。


花澤:シングルの「あたらしいうた」も「ざらざら」も自分で歌詞を書かせていただいた曲で。私としては歌詞を書いてると暗い方向というか、内向きになっていってしまうところがあるんですけど、「あたらしいうた」でそういう殻を破れたような感じがしたんですね。で、「ざらざら」は「そんなに無理しなくていいんだな」という曲になっていて。「今は暗かったり、ダウナーなところも見せられるんだな」って素に戻れるような歌になっていて。そういう風に自分が歌詞を書いてきた部分がこの曲にもあると思うんです。


ーー「brilliant」はどういうモチーフから書いたんでしょうか?


花澤:北川さんから曲をいただいたときに、みんなご機嫌に演奏してる感じだったんで「これは私もご機嫌な歌詞を書かねば」って思って。で、ちょうど歌詞を書くタイミングの時に、幼馴染の女の子と会って喋ってたんです。遠くで働いてるので1年に一度くらいしか会えない子なんですけど。「この子に対して書くんだったら、書けそうだな」と思って書きました。


ーーなるほど。


花澤:で、タイトルはその時にはまだ決まってなくて。その後にロンドンに行ったんですけど、「ロンドンで『かわいい』とか『すばらしい』とか『素敵』とかそういう誉め言葉に使われてる言葉ってなんですか?」って聞いたら、「brilliant」って言われて。「『brilliant』って素敵だな」って思って曲名にしたんです。


ーーわかりました。曲についていろいろお話を聞いてきましたが、アルバム全体としては、今回の『Opportunity』という作品は花澤香菜の4thシーズンの締めくくりとしてどういう意味合いを持つものになった実感がありますか?


山内:毎回そうなんですけれど、今回も大きなチャレンジを乗り越えたという実感ですね。一つのコンセプトに沿った、芯の通ったアルバムにしてきてはいるつもりなんですけれど。とはいえ、すごく幅が広いラインナップになったと思っていて。


北川:そうなんですよね。1曲目から最後の曲まで、実はかなり幅が広いと思います。UKというものを、今のチームで切り取った切り口であるという。


山内:そういうサウンドの真ん中に、デビューからどんどん進化を遂げてきてる花澤香菜という歌い手がいる。そういう芯の強さみたいなものは、今までのなかで一番強いものに仕上がったなと。なので、チャレンジをあんまりチャレンジと感じさせない安定感のあるアルバムじゃないかなと思います。


北川:でも、実はもっとやりたいこともあるし、チャレンジしたいことは個人的にも沢山ある。まだまだある、という感じですね。


ーー花澤さんはどうでしょう? どんなアルバムが出来上がった実感がありますか?


花澤:全部が主役みたいというか、どの曲を表題曲にしてシングルにしても素敵だなって思います。そんなものが揃っているので。私、周りの身近な人に自分のCDを渡すのすごく照れるんですけど、今回のアルバムは「すごい良いから聴いて」って今から渡したい気持ちでいっぱいです。ただ、今はライヴツアーがこれから待ってたりするので、「この曲はどういう風に歌おうかな」とか、そっちに気持ちが行ってますね。


――4月からはライヴツアーも始まりますね。


花澤:このあいだBillboard Live TOKYOで歌わせてもらえる機会があって。その時にも、いろんなアレンジ、いろんな歌い方があるんだと思って。


北川:「あたらしいうた」をシングルのバージョンじゃなくて、すごくテンポを落としてジャジーな感じでやったんです。それがすごくよくて。そういうところでも、音楽としての幅が広がった感がありましたね。


花澤:だから、これから先のライヴもすごく楽しみです。


(取材・文=柴那典/撮影=三橋優美子)