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【ガスリーInterview2回目】苦労の連続だったGP2タイトル獲得と、心の葛藤

2017年02月21日 12:52  AUTOSPORT web

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2016年のGP2では4勝を挙げてタイトルを獲得したが、F1昇格は叶わなかった。
2016年、最高の思い出は最終戦アブダビ――選手権リーダーだったチームメイト、アントニオ・ジョビナッツィとの7ポイント差を覆し、GP2タイトルを獲得した。

「タイトルを獲得したときには心から感動した。本当に努力をした結果だったから、胸には抑え切れないくらいの感情が沸き上がって……僕はGP2史上、ニコ・ロズベルグに次いで2番目に若いチャンピオンになったんだ。そのニコがF1でもチャンピオンに輝いた。アブダビには家族も応援に来てくれていたし、2016年でいちばんの、最高の週末になったよ」
 GP2タイトルの目標を達成する自信はあった。でも、本当に強い心を持ち続けることが必要なシーズンだったと、ピエール・ガスリ―は繰り返した。

 新たにGP2に参戦したプレマ・レーシングと一緒にマシンを仕上げ、ジョビナッツィとも優れたチームワークを実現し、コンスタントに速さを発揮したシーズン。バクーのレース1のようにスタート直後の混乱に巻き込まれることもあったが、それはレースでは起こり得ること。レース2では18位グリッドから挽回して2位でゴールした。レッドブルリンクでは首位走行中に濡れた路面の罠とグラベルに捕らわれた。それでもレース2では20位スタートから7位までポジションを上げた。わずか2ポイントはあまりに小さな“収穫"ではあったけれど、自らへのフラストレーションは教訓として役立てることが可能なものだった。

それ以上に精神力が要求されたのは、コース上でもコース外でも、自分にはどうすることもできない「問題」や「壁」をあまりにも多く経験したからだ。

 GP2初優勝を飾ったシルバーストン。ガスリ―は、その勝利を「病院にいる母に捧げたい」と言った。シルバーストンまで10kmほどの場所で、両親と一緒に同乗していたクルマが大事故に巻き込まれたのはイギリスGPの金曜朝のことだ。

「フリー走行の2時間ほど前だった。僕も椎骨のひとつを骨折したけれど、母の怪我は大きくて、3週間は集中治療室から出られないほどだった。彼女は椎骨を2カ所、肋骨を2カ所、膝や目の下の頬の部分も骨折して、肺にも問題を抱えていたから、大きな手術が必要だった。簡単なことではなかったよ。2カ月半入院して、今はリハビリに励んでいるけれど、背中には金属のプレートが入っているし痛みは消えていない。回復するまでにはまだ長い時間が必要なんだ」

 膝も、頬も、肺も……と早口でつけ加えながら、母の痛みを感じている表情になった。

「僕はシルバーストン、ブダペスト……とレースを続けて、でも僕の身体も完治はしていなかった。ざっくり言うと、椎骨のひとつが壊れたままでシーズンを終えた状態だったんだ」

 コース外でそんな大きな問題を抱えながら、シルバーストン、ハンガロリンクと連勝を飾った。しかし続くホッケンハイムでは、ストレートを走行中に突然、消火器が噴射してしまった。

「僕のミスでもチームのミスでもなかったし、どうすることもできなかった。最低車重も満たしていたし、僕は何のアドバンテージも得たわけじゃない。でも、消火器が空になっていたという理由で3位の結果が抹消されてしまったんだ。だからレース2ではいちばん後ろからスタートすることになった」
 そのレースでも6位まで挽回した。

「いちばん辛かったのは、モンツァだったと思う。セーフティカーのおかげで4位に後退してしまったという事実は、本当に消化するのが難しかった」

 ポールポジションからソフト側のタイヤでスタートし、十分なリードを築き、早めのタイヤ交換を終え、ステイアウトしていたドライバーたちとの間隔も詰めつつ、彼らのピットインを待っている状態だった。事実上は1位、ポジションは4位――しかし16周目に出動したセーフティカーはガスリ―が首位だと勘違いし、4番手を走っていた彼の前を塞ぎ、前の3人を逃がしてしまった。

「何が起こったのか、意味がわからなかった」

おかげで3人はもちろん、フリーピットを得てポジションを守り、ガスリ―は30ポイントまで広げられたはずの選手権リードを10ポイント差まで詰められてしまった。

「母はずっと入院していたし、ホッケンハイムでもモンツァでもトラブルや壁に遭遇して、いろんなことが僕らの逆風になった。最終戦のアブダビを待たず、USGPという早い段階でトロロッソのドライバーが発表されたのもショックだったし、そこから気持ちを立て直して戦うのは簡単なことじゃなかった。ただただ、強い心を試されたシーズンだったと思う」

 アブダビでたくさんの感情が沸き上がったのは、そんなシーズンを乗り越えたからこそ。逆境に負けず、目標に到達したからだった。プレッシャーをものともせず、レース1で実現したポールポジション‐ファステストラップ‐優勝は、ピエール・ガスリ―というドライバーの精神力を象徴するものでもあった。

「振り返るといい経験を積めた1年だったと思う。シルバーストンはとてもいいレースが戦えたし、スパの優勝も本当に嬉しかった――僕の家からいちばん近い距離にあるのがスパ・フランコルシャンなんだ。だからたくさんの人たちが応援に来てくれたし、勝つことによって彼らにお礼ができて最高の気分だった。8位からスタートしたレース2でもたくさんのオーバーテイクに成功したし、すごく楽しいレースだった。スポーツという面以外で起こったいろんな出来事はけっして僕の助けにはならなかったけれど……チームとはすばらしい関係が築けたし、マシンは常に速さを備えていたし、ポールポジションを5回獲って、レース1で4勝を挙げて、追い上げが必要なレースでは思いきり戦ってオーバーテイクに成功して、スポーツ面ではすごくいいシーズンだったと思う」

 飾り気のない正直な言葉と、柔らかい口調に生まれつきの精神力が表れる。2016年の経験は、そんなドライバーをさらに強くした。いくつもの苛酷な“テスト"に合格して、F1への階段を上りながら、2017年はスーパーフォーミュラという未知の世界に挑む。

第3回につづく