2017年02月21日 10:13 弁護士ドットコム
アメリカで7か国の国民の入国を一時的に禁止した大統領令が、連邦地方裁判所の決定で差し止められた問題で、トランプ大統領は2月16日の記者会見で、新たな大統領令を出す意向を示した。
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トランプ大統領は1月27日、イラン、イラク、リビア、ソマリア、スーダン、シリア、イエメンの7か国の国民の入国を90日間禁じ、難民の受け入れを120日間、一時的に停止する大統領令に署名した。
これに対し、入国禁止は憲法に違反するとして、ワシントン州とミネソタ州が提訴。ワシントン州の連邦地方裁判所が2月3日、大統領令の即時停止を命じる仮処分決定をした。トランプ政権側は、この仮処分決定について、連邦控訴裁判所に不服を申し立てたが、サンフランシスコ連邦控訴裁判所は2月9日、トランプ政権側の不服申し立てを退ける判断を示していた。
大統領が決めたことを裁判所が覆したということで、アメリカの司法の存在感に改めて注目が集まっている。日本において、政府が決めた重要な政策を裁判所が覆したという例はあまり聞かないが、アメリカでは司法の役割はどのように考えられているのか。政府の重要な決定を覆すことは日本の裁判所でも可能なのか。神尾尊礼弁護士に聞いた。
アメリカの権力構造は複雑です。三権分立を学校で習うと思いますが、アメリカではより厳格に行われており、司法・行政・立法が相互に独立しています。
また、州は独立した国家のような存在で、州法のほかに連邦法もあります。この中で最高法規として定められているのがアメリカ合衆国憲法です(合衆国憲法第6条)。
他方、大統領令というのは、明確に憲法上定められているわけではありませんが、大統領が発することができるとされている命令です。通常の法律は議会を通さないといけないですが、大統領令は議会の承認を必要としません。
もっとも、最高法規である合衆国憲法に反した命令は出すことができません。その上で今回の連邦地裁の判断をみていくと、あくまで州が求めた「大統領令を暫定的に差し止める」という訴えに対して、それを認めたというものです。
大統領令が明確に合衆国憲法に違反していると宣言したわけではない(そういった判断は別の法廷で行われる)ということを理解する必要があります。
すなわち、「暫定的に差し止める」というのは、その命令自体が正しいか否かは別として、「このまま執行してしまうと州側に回復できないような損害(例えば学生が卒業できなくなるなど)が出てしまうので、とりあえず一旦執行を止めておこう」と判断した、ということなのです。
控訴裁は、今度は、執行できないと政府側に大きな損害が出るかを判断することになり、そうした損害が示されなかったなどの理由で連邦地裁の判断を支持したことになります。
このようにみていくと、厳格な三権分立のもと、アメリカの司法は機能していると評価する向きもありますが、一定の枠内でのみ判断していること、すなわち裁判所がしゃしゃり出て何もかも判断しているわけではないことは理解する必要があります。
ただ、現実的には、大統領令が一時的にでも停止したインパクトは強く、政策の軌道修正がされる可能性もあります。この点で、アメリカの司法の役割が重要であることもまた理解すべきでしょう。
翻って日本の裁判所にも、違憲審査権があります(日本国憲法81条)。アメリカのように独自に判断することは許されないことは同じですが、確かにアメリカよりも影が薄い印象があります。
いくつか理由は考えられますが、個人的には迅速性の違いに原因があるように思います。今回の大統領令の問題は、申立てから控訴裁の判断まで1か月要していません。
どちらが良いということではないですし、裁判所が目立てばよいというものでもありませんが、司法に求められる現代的役割を見直す時期なのかもしれません。
(弁護士ドットコムニュース)
【取材協力弁護士】
神尾 尊礼(かみお・たかひろ)弁護士
東京大学法学部・法科大学院卒。2007年弁護士登録。埼玉弁護士会。刑事事件から家事事件、一般民事事件や企業法務まで幅広く担当し、「何かあったら何でもとりあえず相談できる」事務所を目指している。
事務所名:彩の街法律事務所
事務所URL:http://www.sainomachi-lo.com