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渋谷の街で音楽とカルチャーはどう育まれる? 『TOKYO MUSIC ODYSSEY 』プロデューサーインタビュー

2017年02月20日 13:33  リアルサウンド

リアルサウンド

『TOKYO MUSIC ODYSSEY 2017』

 スペースシャワーTV主催の音楽とカルチャーの祭典『TOKYO MUSIC ODYSSEY 2017』。「都市と音楽の未来」をテーマに掲げ、2016年に立ち上がった同企画が、今年も3月2日から渋谷で行なわれるイベントを中心に展開される。3月7日開催の『SPACE SHOWER MUSIC AWARDS』を軸に、ceroを始めとする“オルタナティブ”な感性を共有する気鋭のアーティストが出演する『ALTERNATIVE ACADEMY』、ニューカマーを紹介する『NEW FORCE』、音楽にまつわる映像作品を上映する『MOVIE CURATION』、そして今年から新たに加わり、音楽と映像とアートが一体となったライブイベント『SOUND & VISION』、次世代の街やカルチャーをつくるアーティスト、クリエイターに焦点を当てた『SHIBUYA POP UP STUDIO』。1週間にわたり、実に様々な形で音楽とカルチャーを体験することができる。


 今回、リアルサウンドでは、プロデューサーを務める株式会社スペースシャワーネットワークの沢田房江氏、大澤胤之氏、岡有子氏にインタビューを行なった。スペースシャワーTVは開局当時から独自の審美眼を光らせ、番組やイベントを新たに発案してきたが、今回の『TOKYO MUSIC ODYSSEY』は、東京・渋谷の街を巻き込んだイベントになりそうだ。同イベントの狙いや今後の構想について、三者にじっくりと語ってもらった。(編集部)


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・「街全体が音楽一色になるという形が理想」(大澤)


ーー今年で『TOKYO MUSIC ODYSSEY』は2回目になりますが、そもそも開催のきっかけは何だったんでしょうか?


沢田房江(以下、沢田):2014年にスペースシャワーTVが開局25周年を迎え、翌年にその次のフェーズに入るということで、何か新しいチャレンジをしていきたいと思いました。スペースシャワーTV自体、夏は『SWEET LOVE SHOWER』、冬は12月1日の開局記念日を盛り上げる『カーニバル ウィーク』があるので、春頃にも何か新しい企画があると1年を通して様々な形で音楽を提案できると思い、この『TOKYO MUSIC ODYSSEY』の開催が決まりました。


――「都市と音楽の未来」というテーマを掲げようと思ったのは?


大澤胤之(以下、大澤):開局以来ずっと東京から発信してきましたし、オリンピックも決まり、今ますます東京が世界から注目されているため、「都市」というテーマは重要だと思いました。また、フェスとは異なる形で音楽の魅力を伝えていきたいという思いもありましたね。2010年以降に、渋谷のオフィスでレーベルやマネジメントとしての機能も果たすSPACE SHOWER MUSICを始動したり、またスペイン坂でWWWとWWW Xというライブハウスの運営も始まりました。そう考えた時に、東京の中で自分たちが応援してきた音楽を伝えやすい街が渋谷でした。実は開局当時は、今の渋谷CLUB QUATTROの下のBOOKOFFがWAVEというレコード店で、1階にサテライトスタジオがあって毎日生放送をやってたんですよ。他にもタワーレコード渋谷店の地下で毎週ライブ番組をやったり。そういう意味でも渋谷は馴染みのある街でした。


ーー今年のイベント内容を見ても、より渋谷という街全体にコミットしている印象がありました。


大澤:そうですね。将来的には『SXSW(サウスバイサウスウエスト)』のように街全体が音楽一色になるという形が理想ですね。ライブハウスだけじゃなくて、周囲の飲食店やショップも含めて、どこに行ってもいい音楽が聴けるというイベントにちょっとずつ近づけていきたいと考えています。


沢田:2016年に初めて開催し、ひとつひとつのイベントは充実して盛況に終わったんですが、通してみた時に1カ月の中で断続的に開催したため、まとまった印象がなく『TOKYO MUSIC ODYSSEY』全体が伝わらなかったという反省点も浮き彫りになりました。ですので、今年は1週間に凝縮させ、連日行います。参加してくれた方々に各イベントだけではなく、『TOKYO MUSIC ODYSSEY』全体を体験してもらいたい、というのが今年一番のチャレンジかもしれません。


――渋谷という街とより密接に繋がる、町おこし的な側面もあるのかなと思いました。


沢田:そうですね。将来的には渋谷区全体を使ってさらに広げていけたらと思っています。今は弊社運営のライブハウスを中心に使いながら、渋谷区の自治体にもアプローチさせてもらったりしています。


岡有子(以下、岡):街のカルチャーの一部になるようなお祭りを作っていきたいという目標があるんです。今、再開発されて新しくなっていく渋谷の街に、音楽がどういうふうに根付き育っていくのか。音楽の現場と人と街とが重なって新しいカルチャーが生まれていく中に関われたらと思いますね。


――GALLERY X BY PARCO(渋谷スペイン坂)での『SHIBUYA POP UP STUDIO』は今年新たに加わったイベントになります。


沢田:『POP UP STUDIO』には、『TOKYO MUSIC ODYSSEY』の「都市と音楽の未来」というテーマをより体現できるコンテンツを入れていこうと思っています。


岡:『POP UP STUDIO』の内容は、主にトークセッションとミニイベントです。トークセッションに関しては、国内外から高い評価があるメディアアーティスト真鍋大度さんと演出振付家MIKIKOさん、東京音楽シーンの真ん中にいるZeebraさんとオカモトレイジ(OKAMOTO’S)さん、気鋭の映像作家dutch_tokyo(山田健人/yahyel)さんたちにご出演いただきます。身体表現やテクノロジー、街や映像など音楽と関わりの深い最先端のカルチャーをつくっている方々のメッセージを届けたいと思っています。また、ランニングイベント(『渋谷を走ろう! TMOラン!』)やキッズイベント(『スペシャキッズミーティング~音と木のおもちゃで遊ぼう~』)、ワークショップ(未来の演奏体験)に関しては、身近な日常の中にある「音楽と都市」「音楽の未来」を体験してもらえたらいいなと。


大澤:音楽を中心に、それと親和性の高いカルチャーが繋がっていくイメージですね。


ーー音楽ファンだけじゃなくて、家族連れだったり小さい子どもだったり、より広い層に向けてアプローチされている印象を受けました。


沢田:そうですね。ランニングに関しては、ランニングカルチャー雑誌『走るひと』と一緒にやらせていただいています。『走るひと』のチームは、『AIR JAM』や『FUJI ROCK FESTIVAL』などのフェスでランニングイベントをプロデュースしています。最近はアーティストやカメラマンもInstagramやTwitterのハッシュタグで繋がってみんなで走っている。そういう取り組みを、渋谷という街で試みるのも面白いんじゃないかと思いました。


岡:『SWEET LOVE SHOWER』や他の音楽イベントでも、最近はお子様連れで来てくださるお客さんが増えてきて、いろんな楽しみ方をしているんです。子供にとって音楽や歌って一番最初の遊び道具でもあり、彼ら自身が街や音楽シーンの未来なので、キッズイベントとしても何かできないかと思いました。


沢田:2016年は『MUSIC ART EXHIBITION』という展覧会を開催していて、そこで音楽にまつわるカルチャーとして写真や衣装、MVの絵コンテを展示しました。『POP UP STUDIO』はそれがベースとなりながらも、さらに発展させ、「都市と音楽の未来」というテーマをより様々な切り口で提示しています。2018年以降も、ライブハウスやギャラリー以外の場所でも展開できたらいいなと思っています。


・「音楽の現場を充実させ、マーケットを広げるためにも提案したい」(岡)


――今年新たに加わったイベントが『SOUND & VISION』です。ミュージシャンと映像クリエイターが対等にコラボするライブイベントは、これまであまりなかったので、今回『TOKYO MUSIC ODYSSEY』の一環として立ち上げたのはとても興味深いです。


沢田:「都市と音楽の未来」というテーマに合ったコンテンツを増やしたいと思っており、こういった音楽と映像に特化したイベントを立ち上げました。今、「映像」と一言で言っても、クラブで活躍するVJもいれば、VR、プロジェクションマッピングなど幅広くありますよね。まずは会場であるWWW Xで表現できることを考えて、弊社とお付き合いのあるミュージシャンやクリエイターの方に、その時だけしか見れないものをチャレンジしていただこうということになりました。


ーーVRなどが盛り上がってきている中で、そういったシーンの潮流を汲んだイベントを提案することは、とても意義があることですよね。


沢田:そうですね。ライブの他にも宇多田ヒカルさんやillionのVR体験ブースも用意しました。将来的には来場者全員にゴーグルをつけてもらって、ヘッドセットでライブを見れるような状態になったら面白いなとも思っています。


ーーDAOKO、きのこ帝国、HIFANAというラインナップも面白いですね。


沢田:DAOKOさんは普段から映像に特化したライブをやっているので、今回は初めてKezzardrix、backspacetokyoとコラボしてもらうことになりました。きのこ帝国は、普段ライブに映像を取り入れることはありませんでしたが、今回はフォトグラファーのMITCH NAKANOさんがきのこ帝国の音楽をイメージした映像を撮り下ろしてくれています。また、HIFANAは弊社が昔からお世話になっているグループで、番組のジングルやSTATION IDを一緒に作ってもらいました。今回の「映像と音楽」という分野に関して、彼らは先駆け的な存在でもあるので、ぜひと思い声を掛けさせていただきました。


大澤:DAOKOさんはラップシンガー、きのこ帝国はバンド、そしてHIFANAはブレイクビーツユニットといったように、いろんな世代、いろんな形態を並べて、「音楽と映像」という切り口からライブを見てもらうのが、今回の狙いですね。


ーー『NEW FORCE』に関しても、向井太一、For Tracy Hyde、ドミコ、The Wisely Brothers、iriと、去年のMrs. GREEN APPLEやSuchmosらと比較しても、よりニューカマーで新鮮なアーティストが揃っています。


大澤:そうですね。今までも新しいアーティストの応援は力を入れており、例えば、『スペースシャワー列伝』というイベントや『POWER PUSH!』というローテーション企画があります。そんな中で『NEW FORCE』の企画を進めるにあたり、ブレイク寸前というよりは、さらに早いタイミングのアーティストを応援していくことにしました。『列伝』はバンド系が多いんですけれど、そことは少し違った、ジャンルの幅広さや音楽性、バンドにこだわらない自由な編成など、新しい表現を追求する若いアーティストもプッシュしていきたいなと思いました。


沢田:イベントにはその5組が出演しますが、今回に限らず一年間通して応援させていただく企画ではあるので、放送や他のイベントに限らず、様々な企画をプランニングしています。当日来場したお客さんには、『NEW FORCE』の全10組のアーティストの楽曲をコンパイルしたCDをプレゼントさせていただきますし、チケットの金額も1,000円に設定しました。コンピレーションCDを配ることで、ライブから先に興味が広がっていく動きも促せると思いますし、それぞれのアーテイストのその後も追ってもらえたら嬉しいです。


――『ALTERNATIVE ACADEMY』はオールナイトイベントで、2016年9月にオープンしたWWW Xでの開催になります。DJアクトも増え、よりクラブのノリを感じるイベントになった印象です。


沢田:『ALTERNATIVE ACADEMY』は独自の音楽を貫いていて、かつ東京から世界に発信していけるアーティストに出演してもらうステージです。また、風営法が改正され、昨年6月に施行されてから、オールナイト公演やクラブイベントが正式にできるようになりました。普段クラブに行ったことのない人たちにも、ライブやDJアクトを観て、夜通し遊ぶことをこのイベントで体験してほしい、という思いがあります。『SHIBUYA POP UP STUDIO』のトークセッションにも登壇するZeebraさんは渋谷区観光大使ナイトアンバサダーとして、その理念にも通ずる活動をされています。スペースシャワーもそういう夜の文化と一緒に育ってきた側面もあるので、今回、より積極的に打ち出していけると良いなと思っています。


岡:法律や街のサイズの問題もあって、海外の主要都市にくらべ、ナイトカルチャーが広がりにくかったと思うのですが海外からのお客さんたちがどんどん増えてきてる中で、音楽の現場を充実させ、マーケットを広げるためにも何か提案したいという気持ちもあります。


沢田:夜遊びの敷居を下げて、バンドのライブを観に行くついでに夜遊んじゃおうかなみたいなノリで来ていただきたいなと(笑)。また、今回に限らず、WWWやWWW Xでもオールナイトイベントは徐々に増えてきているので、そうやって渋谷の街で夜も遊んでほしいですね。


・「新しい音楽シーンがまた盛り上がれば」(沢田)


ーーまた、『SPACE SHOWER MUSIC AWARDS』は、番組やイベント等を通じて独自の基準でアーティストを取り上げてきたスペースシャワーTVならではの音楽アワードですね。ユーザー投票で決まる『PEOPLE’S CHOICE』もあり、単にヒットチャートを追うのではなく、リスナーの反応もより直接的に反映されます。


沢田:『SPACE SHOWER MUSIC AWARDS』は、スペースシャワーTVの視点で2016年度の躍進を振り返っています。アーティストや楽曲を対象とした賞もありますし、それ以外にもクリエイティブな面から音楽を支えてきたクリエイターにも焦点を当てています。これを見ていただいたら、1年間の音楽シーンの動きや盛り上がりがわかるような形にできればいいですね。


大澤:セールスベースではなく、スペースシャワーTVの視点、音楽ファンの視点から選ばせていただくのが『SPACE SHOWER MUSIC AWARDS』です。なので、より能動的な音楽ファンに納得してもらえる説得力があるようなものになればいいなと思っています。ライブアクトの他、ゲストも多数出演予定で、昨年活躍されたアーティストの方々に出演いただきますので、フェスやイベントとは違った空気を楽しんでいただけると思います。


ーー『SPACE SHOWER MUSIC AWARDS』や『TOKYO MUSIC ODYSSEY』全体にも通じますが、スペースシャワーTVが運営するイベントやメディアには、すでに知名度があるものを改めて取り上げるのではなく、新しいものを積極的に前に出していくような提案性があると感じます。


大澤:そうですね。新しいものを伝えていきたいという姿勢は、開局当初から持っているので、『TOKYO MUSIC ODYSSEY』は、その姿勢がより体現されたイベントにしていきたいという思いは強いかもしれません。


ーー音楽をベースにしたカルチャーを再び盛り上げていこうとする気概も感じました。


沢田:音楽シーンを盛り上げたいというのはもちろんあります。以前に比べたら、若い子たちが興味を持っているものが、音楽以外にもいろいろ出てきていると思っていて。それはもちろん良いことではあるんですけれど、やっぱり音楽は素晴らしいよっていうことを伝えていきたいんです。また、渋谷では今、WWWやWWW Xがカルチャーの発信地になりつつあるので、WWWチームと一緒にやることによっても新しい音楽シーンがまた盛り上がればいいなと考えています。WWWやWWW Xというライブハウスそのものに信頼を置いてくれているアーティストも増えてるので、そこを起点に『TOKYO MUSIC ODYSSEY』を通して新しいカルチャーを広げることができればいいと思います。


岡:今は世界中どこにいても音楽を作って自ら発信できる。ネットでもリアルでもアーティスト、クリエイターがいるところを中心にコミュニティが発生して、カルチャーとして盛り上がっていきますよね。身近な友達同士の“いいね”が、日本中、世界中の人と直接繋がって共感されていく。そういった、カルチャーをつくる人がホームに根付いてそこから発信するスタイルは、今の時代ならではだと思います。そういう意味では、弊社にとってホームといえる街はやっぱり渋谷区界隈なのかなと。街作りと言うと難しく捉えてしまいがちかもしれませんけれど、スペースシャワーTVがやれることは、やっぱり音楽で繋がって、アーティストとクリエイター、音楽シーンを盛り上げていくことだと思うので。街からの発信は、その一環のトライだと思っています。


大澤:うちはアカデミックな感じではどうしてもないので(笑)。もともと、会社としてもやんちゃな部分というか、インディペンデントやストリートのマインドが脈々とあって、それが出てるのかなという気はします。社内的にも、垣根を越えてやってきたいと思っていますし、例えば、雑誌『EYESCREAM』のチームと一緒に、ファッションを切り口としたイベントを開催したり、アニメに関わっているチームとも、音楽という切り口を持って一緒に面白いことができればいいなと思っています。


沢田:2016年の『TOKYO MUSIC ODYSSEY』は、番組やイベントを企画などを担当している部署が中心となって動いていたんですけれど、今年からはコンテンツ事業本部総動員で、力や知恵を出し合って作り上げていますね。この『TOKYO MUSIC ODYSSEY』の成長とともに、企業としてもいろんな部署がクロスオーバーして、可能性が広がっていくと思います。(取材・文=若田悠希)