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乃木坂46 3期生『プリンシパル』はただの“原点回帰”ではないーーグループの「演劇性」はさらに深化

2017年02月19日 16:13  リアルサウンド

リアルサウンド

(写真=(C)乃木坂46LLC))

 乃木坂46の3期生による舞台公演『3人のプリンシパル』(AiiA 2.5 Theater Tokyo)が2月12日に幕を閉じた。グループがデビューした2012年から2014年まで、乃木坂46の1期生・2期生によって上演されてきた『16人のプリンシパル』シリーズを受け継ぎ、3期生のみによって行なわれたのが今回の『3人のプリンシパル』だ。


(参考:乃木坂46の3期生は“新たな坂の上り方”を示す


 『プリンシパル』シリーズは、乃木坂46にとって原点のひとつである。グループ結成の2011年の時点ですでに、総合プロデューサーの秋元康氏は乃木坂46の活動に関して、歌だけではない「物語性」のある公演を行なうことや、公演中に観客による投票を実施することなど、のちに『プリンシパル』シリーズの骨子となる構想を言明していた。そして、2012年から3年続けて開催された『16人のプリンシパル』で、第1幕をオーディション、休憩時間に観客投票、その投票を受けて決定されたキャストによって第2幕の演劇が上演される、乃木坂46独特の公演スタイルが成立した。のちに演劇へと大きく傾斜していく乃木坂46にとって、『プリンシパル』シリーズはきわめて大きく、重いイベントとして存在してきた。


 今回行なわれた『3人プリンシパル』は、2012年版『16人のプリンシパル』の際の1期生と同じように、まだ経験値のきわめて少ない3期生たちによって上演されている。そのため、第1幕で行なわれる自己PRなどには、初年度の『プリンシパル』に通じる、まだ何も持たない者たちの奮闘を見守る趣きがある。


 けれども、初年度の『16人のプリンシパル』が最適なキャストを選出するというよりもシンプルな人気投票に傾きがちなシステムだったのに対して、今回の『3人のプリンシパル』では、2013年以降にオーディションの形式を最適化するべく重ねてきた模索を踏まえることができた。その蓄積は今回、第1幕の審査、特にエチュードおよび演技審査の中で発揮される。第2幕の演劇『銀河鉄道の夜』の登場人物3役の中から、日々の公演ごとに演じたい役に立候補して行なわれる演技審査の結果は、立候補者の巡り合わせとその日の各メンバーのコンディションに大きく左右された。それら偶然の要素も大きい毎公演の積み重ねの中で、まだ未完成の彼女たちは、パフォーマンスへの適性や応用力を断片的にいくつも披露していく。『3人のプリンシパル』は、久保史緒里や山下美月といった第2幕のヒロインを生み出すと同時に、総体を通して3期生たちが持つ可能性の欠片を端々に見せていた。


 また、今回の『3人のプリンシパル』は、これまでの『プリンシパル』シリーズの中で、グループにとっての機能が最も明確な公演になっていた。もともと『プリンシパル』シリーズは、オーディションそのものがコンテンツになるスリリングさや、投票という「民意」が含まれる企画性のユニークさを持つ一方、その性質上、ひとつのパフォーマンスを練り上げることが難しい。そのため、過去の『プリンシパル』は、その公演で積み重ねた経験がどのように活かされるのか、すぐにはわかりにくいという一面も持っていた。


 しかし、乃木坂46の1・2期生から多方面にパフォーマーが輩出され、グループとして強いブランド力を作り上げている現在、その先達が経験してきた通過儀礼的なイベントとして『プリンシパル』をとらえることもできる。たとえば、過去の『プリンシパル』で目覚ましい活躍を見せてきた生田絵梨花や若月佑美らが、ミュージカルでもストレートプレイでも活躍の場を広げていることで、演劇公演の経験値として『プリンシパル』に大きな価値を見出しやすくなる。だからこそ、『3人のプリンシパル』で見せる3期生の躍動に対して、将来の活躍をより具体的に投影することもできる。それは、草創期の『プリンシパル』にはなかったものだ。


 また、3期生のみによる公演であった点を考えるとき、所属メンバーの活躍の機会をいかに作っていくかを再考する場として、『プリンシパル』を見直すこともできる。現在、特に乃木坂46の選抜常連メンバーは、個々のタレントとしてのバリューも大きくなっている。このことは乃木坂46の順調さを示すものだが、同時に、他のメンバーが活きる場をどのように確保していくかという課題が鮮明にもなっていく。1・2期生とは違う別働隊のようにして公演期間を過ごした3期生の『プリンシパル』は、その現状に新鮮な視点をもたらした。ひとつの円熟期を迎えているゆえに、グループが一定の形に収まりやすい現在の乃木坂46に、新しい物語を走らせるための有効な武器として『3人のプリンシパル』は機能したはずだ。


 『プリンシパル』シリーズの復活は、グループの原点をあらためて振り返ってみせるものである。ただし、『3人のプリンシパル』は単なる原点回帰ではなく、現在のグループに対して新たな機能や意味付けを見出す公演になっていたといえるだろう。(香月孝史)