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改正「介護休業法」で取得の要件緩和…働く人が知っておきたい4つのポイント

2017年02月19日 10:23  弁護士ドットコム

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超高齢化社会が到来し、親の介護に直面する人が少なくない中、改正育児介護休業法が2017年1月に施行された。


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改正法では、介護をしながら働く契約社員でも介護休業を取得しやすくなったり、残業の免除を受けられる制度が新設されたりするなど、いくつかの点が変更された。


今回の改正によって、働きながら介護をする人の環境はどのように変わるのだろうか。改正のポイントについて、竹花 元(はじめ)弁護士に聞いた。


●ポイント1「有期労働契約者が介護休業を取得しやすくなった」

新しい介護休業制度について、従来と大きく変わった点の1つが、「介護休業を取得できる労働者の拡大」により、有期労働契約者の介護休業取得が広く認められやすくなったことです。


これまでは、以下の条件を満たさなければ介護休業を取ることはできませんでした。


(1)取得する時点で同一事業主に1年以上継続して雇用されていること


(2)介護休業開始予定日から起算して93日を経過する日を超えて引き続き雇用されることが見込まれること


(3)介護休業開始予定日から93日を経過する日から1年を経過する日までに労働契約(更新される場合には、更新後の契約)の期間が満了することが明らかでないこと


今回の改正法では、上記の要件(2)がなくなり、さらに要件(3)が緩和されたことで、


(1)申出時点で同一事業主に1年以上継続して雇用されていること


(2)介護休業開始予定日から93日経過する日から6か月を経過する日までに労働契約(更新される場合には、更新後の契約)の期間が満了することが明らかでないこと


上記2つの要件を満たす有期労働契約者は、介護休業を取得することができるようになりました。


●ポイント2「対象家族(介護を必要とする者)の範囲が拡大された」

次に変わった点が、対象家族の範囲です。配偶者、父母、子、配偶者の父母に加えて、これまでは除外されていた同居・扶養していない祖父母、兄弟姉妹及び孫も、「介護を必要とする者」の対象に含まれることになりました。


また、制度利用の申し出が可能か否かの条件である「常時介護を必要とする状態」について、判断基準が整理されました。


「常時介護を必要とする状態」とは、負傷、疾病又は身体上若しくは精神上の障害により、2週間以上の期間にわたり常時介護を必要とする状態のことをいいます。要介護認定を受けていなくても、介護休業の対象となり得ますので、介護保険制度の要介護と同法の利用可否は連動しないことに注意が必要です。


具体的には、以下の要件を満たすときに認められます。


(1)介護保険制度の要介護状態区分において要介護2以上であること。


(2)以下のリンク先の表に列挙された状態(1)~(12)のうち、2が2つ以上または3が1つ以上該当し、かつ、その状態が継続すると認められること。(http://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-11900000-Koyoukintoujidoukateikyoku/0000145708.pdf)


なお、この判断については、事業所は労働者の個々の事情に合わせて柔軟に運用することが望まれるとされています。


●ポイント3「より柔軟に取得できるようになり、休業中の経済的補償も強化された」

上記の他、介護休業制度をより使いやすくするために、様々な変更がなされています。その1つが、「介護休業取得の柔軟化と補償強化」です。介護休業(介護の体制構築のための休業)は、これまでは原則1回に限り、93日間まで取得可能でした。改正により、対象家族1名につき通算93日まで、3回を上限として、分割して取得できるようになりました。また、介護休業中の給付率が、賃金の40%相当額から67%相当額に引き上げられました。


この変更によって、介護休業を柔軟なタイミングで取得できるようになり、休業中の経済的補償も厚くなりました。同法改正には経過措置がないため、本年1月以降に上記要件を満たしていれば介護休業を取得できます。


また、「所定労働時間の柔軟化」も変更のポイントの1つです。これまでは、介護のために短時間勤務・フレックスタイム・時差出勤などをすることは、介護休暇と通算して93日以内に限られていました。しかし、改正後は、介護休業とは別に、利用開始から3年間の間で2回以上の利用ができるようになりました。


これまで説明した以外にも、対象家族1人につき年5日間取得できる介護休暇(「介護休業=介護の体制構築のための休業」とは別の制度)が、今までは1日単位でしか取得できませんでしたが、半日(所定労働時間の2分の1)単位で取得できるようになりました。また、介護のための所定時間外労働の免除制度が新設され、介護終了までの期間について権利として請求できるようになりました。


●ポイント4「嫌がらせ防止の措置が事業主に義務付けられた」

今回の育児介護休業法改正の目玉と言えるのが、妊娠・出産・育児休業・介護休業などを理由とする、上司・同僚による就業環境を害する行為を防止するため、雇用管理上必要な措置を事業主に義務付けたことです。


これまでも、事業主が不利益取り扱いをすることは禁止されていました。改正法により、上司や同僚が嫌がらせをすることを防止するための措置も、事業主に課せられることになりました。


介護休業法の内容を守らない企業に対しては、労働者の申立による苦情処理・紛争解決の援助及び調停の仕組みがあります。加えて、勧告に従わない場合の公表制度や、報告を求めたのに報告をしなかったり、虚偽の報告をした企業への過料も創設されました。


●「育児や介護で仕事を辞めなくてすむ社会を」

少子高齢化が叫ばれる中、育児や介護で離職する人を減らすことは急務といえます。今回の改正により、介護休業を取得しやすくなったことは間違いありません。しかし、介護のために仕事を「休む」ことに抵抗を感じる労働者はまだまだ多いのではないでしょうか。


今後は、介護休業がとりやすい雰囲気づくりを進めるだけではなく、「介護をしながら仕事ができる」ことを実現する制度の推進も必要だと思います。その手段の1つとして、テレワーク(時間や場所の制約を受けずに、柔軟に働くことができる形態)の導入を積極的に進めることも有効ではないでしょうか。


もちろん、テレワークを適切に運用するためには、労働時間の把握や職務評価方法の整備といった制度設計が必要ですし、飲食店のようにテレワークに馴染みづらい職種もあり、課題は少なくありません。育児や介護で仕事を辞めなくてすむ社会を目指し、労使双方が意見を出し合って、よりよい手段を検討する必要があると思います。


(弁護士ドットコムニュース)



【取材協力弁護士】
竹花 元(たけはな・はじめ)弁護士
2009年の弁護士登録と同時にロア・ユナイテッド法律事務所入所。2016年2月に同事務所から独立し、法律事務所アルシエンのパートナー就任。労働法関連の事案を企業側・個人側を問わず扱い、交渉・訴訟・労働審判・団体交渉の経験多数。
事務所名:法律事務所アルシエン
事務所URL:http://www.alcien.jp