2017年02月19日 10:13 弁護士ドットコム
今年も確定申告の季節がやってきた。平成28年分の提出期間は2017年2月16日(木)から3月15日(水)まで。「領収書の整理が憂鬱だ」という個人事業者の声を聞く方も多いのではないだろうか。
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また、確定申告は個人事業主だけに関係する話題ではない。副業をしている勤め人も「副収入-経費」の額が20万円を超えると、確定申告が必要になる。
勤め人をしながらライターをしている私も、そんな副業確定申告組の1人だ。
加えて、今年は私にとって特別な確定申告になる予定だ。
既婚・子なし、30代、極度の貧乏性である私は、同じく貧乏性の夫と共にこれまで数多くの税制優遇制度の活用に取り組んできた。そして、昨年はあるイベントをきっかけに、数百万単位の所得を控除できる見込みが高まってきた。
今年は、いうなれば確定申告による「控除フルコース」「還付祭り」を実施することができる年なのだ。
以下では、私たち夫婦が実行してきた節税への施策をご紹介すると共に、いかにして限度額ギリギリまでの所得税・住民税控除を実施してきたかご説明する。(文/亀田早希)
現在、私たちが適用を受けられる所得控除項目には、以下の14種類がある。
1 基礎控除
2 配偶者控除
3 配偶者特別控除
4 扶養控除
5 障害者控除
6 寡婦(寡夫)控除
7 勤労学生控除
8 社会保険料控除
9 生命保険料控除
10 地震保険料控除
11 小規模企業共済等掛金控除
12 医療費控除
13 雑損控除
14 寄付金控除
これに加えて、青色申告(所得税、法人税の申告納税制度の1つ)をした場合は「青色申告特別控除」が受けられる。「住宅ローン控除」や「ふるさと納税」のように、計上した額をそのまま所得税や住民税から差し引ける制度もある。
上記のなかで、私が何もしない状態で受けられる控除は、誰もが38万円の控除が受けられる「基礎控除」くらいである。給与収入があるため、青色申告特別控除はできない。
このままではかなりの所得が課税対象になってしまう。私たち夫婦は話し合いのすえ、数年をかけて以下のアクションに取り組んだ。
(1)中古住宅を購入した
住宅ローン控除は、住宅取得者の金利負担を軽減するために、毎年末の住宅ローン残高または住宅の取得対価のうち、いずれか少ないほうの金額の1%が10年間にわたり所得税から控除される制度だ。所得税から控除しきれない場合は住民税からも一部控除される。
現在、新しく住宅を購入し借入金を受けた場合は、毎年40万円を上限に控除が受けられることになっている。ただし、経過措置によって5%の消費税で住宅を取得した場合や、個人間取引で中古住宅を取得した場合は、毎年20万円までと上限が決められている。
この控除を検討した際に注意したのは、自分だったらどの額程度が「お得」になるかという点だ。
例えば、所得税と住民税(住民税は年間136,500円の控除が上限)を合わせて30万円以上の控除を受けるとすると、3,000万円以上の借入が必要なうえ、そのぶん税金も高くなければならないので、年収500万円以上が必要。借入による負担が重いうえ、他の控除を行う余裕もなくなってしまう。
これら諸々を考慮し、私たちは中古住宅を購入し、最大で20万円までの控除を受けることにした。
(2)個人型確定拠出年金に加入した
勤めている企業に企業年金制度がなかったため、個人型確定拠出年金に加入することにした。毎月1万円ずつ積み立てて年間12万円。これは全額所得控除になる。
個人型確定拠出年金は、個人が掛金を支払い、積み立てた額を60歳以降に年金または一時金として受け取れる制度だ。昨年からは公務員や専業主婦、企業年金に加入している会社員も加入できるようになり、加入対象者の範囲が広がった。
個人型確定拠出年金には、積み立てた掛金額が全額所得から控除される節税効果がある。さらに、通常は課税される運用益に対しても非課税。そのため、毎月たくさん積み立てたほうが一見お得にみえる。
ただし、この「個人型確定拠出年金」は60歳を迎えるまで原則引き出しができない。そのため、いざ必要になっても融通がきかない資産になってしまうことには注意をしておく必要がある。また、運用において資産が目減りするリスクは個人が追わねばならない。かつ、運用手数料がそこそこかかるため、リスクが低い商品を少額積み立てているだけでは運用益が手数料を超えず資産が減少するなどのデメリットもある。
(3)生命保険をかけた
付き合い上加入せざるを得なかった生命保険。これも毎年控除項目として申告している。
私の場合は月1万円ずつかけているので、こちらも掛金は個人型確定拠出年金と同額の年間12万円。しかし、生命保険料控除は最大で5万円まで。
保険商品には罪はないが、節税の側面では毎年8万円ぶんもメリットを捨てていることになる。
(4)ふるさと納税で航空会社のポイントカードをもらった
ふるさと納税による控除は毎年活用している。今年は5万円を寄付して航空会社のポイントを返礼品として受け取った。この返礼品は盆暮れ正月にふるさとに帰省する際の飛行機代にあてている。出費が多い時期にはありがたい。
この制度は地方自治体に「ふるさと納税」という名目で「寄付」をすることで、寄附金額の一部が所得税と住民税から控除できる制度だ。多くの場合、実質負担は2,000円。市区町村によっては豪華な返礼品があり、どこの自治体に寄付してもよいので、返礼品をまとめたウェブサイトも数多くある。
給与取得者で確定申告をする必要のない人の場合は、手続をすれば自動的に住民税から控除される「ワンストップ特例」も始まった。複雑な手続が必要なく、お得感を感じやすいおすすめの節税法である。
しかし、注意すべきが「誰でも好きなだけふるさと納税できるわけではない」ことだ。実質負担を2,000円にするためには、年収に応じて寄付金額の上限がある。総務省のふるさと納税の仕組みを説明するページ(http://www.soumu.go.jp/main_sosiki/jichi_zeisei/czaisei/czaisei_seido/furusato/mechanism/deduction.html)に上限目安が提示されているので、事前に確認する必要がある。
(5)不妊治療を始めた
昨年、わが家において新たに控除項目になる可能性が生まれたのが、医療費控除だ。
医療費控除は同一世帯の医療費から10万円を引いた額が控除適用対象となる。ちなみに、通院時の交通費も明細を出せば計上できる。
しかし、よほど重篤な疾患にかかったり、大けがを負ったり、病気がちの児童を複数人扶養していたりしない場合、保険適用なら1割負担の医療費が年間10万円を超えることはあまりない。
しかし、たまたま昨年の半ばから不妊治療を始めたので、控除項目として計上できる可能性がみえてきた。不妊治療は大半が保険適用外であり、1周期につき数万円から百数十万の支出が見込まれる。年間10万円はすぐ突破してしまう額だ。
結果として、治療が半年間だったこともあり、治療費の総計はそこまで多額にならなかった。領収書を集めた結果、約16万円を控除額として計上することになった。
(6)年金を追納した
最後の一手が、昨年実施した学生時代に納付猶予手続をした国民年金の追納だ。「どうせ額面が減ってしまうし」「貯金が一気にそれだけ減るのは苦しいな」と納付をためらって早10年強。未納額50万円弱。
所得が控除されるならば、と意を決し、昨年一気に追納することにした。残念ながら国民年金の額は毎年上がっているため、すぐ追納した場合に比べて総額は高くなり、一部追納できなかったが、ドンと控除額があがった。
せっかくなら早めに追納して所得控除をしておけばよかった。
私の今年の給与所得にかかる所得税は約20万円、今年6月からの住民税の見込み年額は約25万円。ここから上記で示した各種控除の影響を確認すると、以下のとおりとなった。
「医療費控除」「社会保険料控除」「小規模企業共済等掛金控除」「生命保険料控除」「寄付金控除」「基礎控除」の総計は2,029,377円。これにより、私の所得にかかる税率は20%から5%に低下した。
ここまでで還付金の予定金額は114,280円。血眼になって200万円を超える控除をしても、意外にささやかな額である。これに、住宅ローン減税の控除分を加えると、満額の約20万円を突破。私の源泉徴収された所得税はすべて還付されることになった。
住民税については、住宅ローン減税の控除分で所得税から引き切れなかった額が差し引かれるので、85,720円マイナスになった。加えてふるさと納税分の減額が32,900円。合計すると、118,620円のマイナス。住民税の控除可能額の136,500円も超えていないので、そのまま住民税から差し引かれる。これにより、来年6月から支払う予定の住民税は年額13万円強になる計算だ。
悔やまれるのは、ふるさと納税で余分に支払ってしまった15,000円。細かい点を確認せずにひたすら控除の施策を打ち続けたところで、実質負担が2,000円のはずが、約17,000円の負担になってしまった。
税金はやたら場当たり的に控除のポイントを稼いでいけばよいわけではない。税制を理解し、そのうえでの緻密な戦略を練って実行していくことこそが肝要だということが身に染みた「還付祭り」だった。
「他には『エンジェル税制』を活用するという方法もあります。エンジェル税制とは、ベンチャー企業に株式投資すると、大きな控除を受けることができます。具体的には所得の約40%または1000万円の低い方の金額まで所得控除を受けることができます。
このエンジェル税制は投資したベンチャー企業の株を売却して損失を出しても、損失分を最大3年間まで繰り越すことができます」
【取材協力税理士】
李 顕史(り・けんじ)税理士
李総合会計事務所所長。一橋大学商学部卒。公認会計士東京会研修委員会副委員長。東京都大学等委託訓練講座講師。あらた監査法人金融部勤務等を経て、2010年に独立。金融部出身経歴を活かし、経営者にとって、難しいと感じる数字を分かりやすく伝えることに定評がある。また銀行等にもアドバイスを行っている。
事務所名 : 李総合会計事務所
事務所URL:http://lee-kaikei.jp/