チーム無限からスーパーフォーミュラに参戦することが決まって実現した今回の来日。多くの取材に追われながら、真摯に応える態度がとても印象的だった。
「メディアへの対応は大変だと思わない。F1に行けば多くの取材に応えなきゃいけないし、そのために経験を積んでおくのは大切なことだから。それ以上に、僕のキャリアをフォローして応援してくれている人たちだからこそ、たくさん質問があると思うんだ。取材を通して人間関係が築けていけるのは、とても素敵なことだよ」
日本に来たのは今回が2回目。だから日本のことは「ほとんど知らなくて」。リップサービスなしに、正直に言う。
「僕にとってはまったく新しい世界だと言ってもいいくらいだよ。2015年の日本GPのときにはリザーブドライバーとしてレッドブル・チームと一緒に鈴鹿に行ったけど、他のことをする時間の余裕はなかった。だから日本について僕が知っているのはマンガと(笑)、ゲームが大好きだからゲームと……もちろん、テレビやメディアで伝えられる情報はあるけど、それは本当の意味での経験とは違うから」
スーパーフォーミュラに関しても、正直に言うと大した知識は持ち合わせていない。でも、21歳になったばかりのピエール・ガスリ―が口にすると「知らない」という言葉がとてもポジティブに響いてくる。
「本当に、僕にとってはすべてが新しい世界だ。新しい国、新しい選手権、新しいマシン、新しいサーキット。鈴鹿だけはレッドブルのシミュレーターで走ったことがあるけど、他のコースはまったく知らない。だから同時にたくさんのことを勉強しなきゃいけないと思う。ストフェル(バンドーン)やロイック・デュバルには、日本での生活や仕事の進め方、マシンがどんなふうに作動するかとか、少し教えてもらった。でも、自分で経験していくことが大切だと思うし、3月上旬の鈴鹿でのテストで見極めていきたいと思う」
誰もが知っているとおり、レッドブル育成ドライバーのガスリ―は、2017年にトロロッソからF1デビューする最有力候補だった。しかしレッドブルはGP2シリーズの最終戦(アブダビGP)を待たず、10月下旬のUSGPでダニール・クビアトの残留を発表した。
「あの時点では本当にがっかりした。17年はF1に進めないのがすごく悲しかった。去年GP2で走っていたときの目標はF1にステップアップすることだったし、レッドブルとはトロロッソの可能性について話し合っていたから――基本的には、ダニールか僕か、という状況だったんだ。同時に、僕がF1に行くためにはGP2でチャンピオンになることが必要だった。僕にはその自信があったし、ヘルムート(マルコ)にも説明したよ。GP2ではいろんな問題が起こって不可抗力で獲れるはずのポイントを阻まれていたけど『タイトルの自信はある』とね。でも、彼らはUSGPというとても早いタイミングでダニールと契約を交わさなきゃならなかったんだ。僕には『もう決まったから』という以上の説明はなかった。いずれにしてもダニールが決まった以上、僕にはどうすることもできなかったし、将来に備えてベストな選択肢を検討するしかなかった」
精神的に、乗り越えるのが厳しい状況だったとガスリ―は言う。でも、最終戦のアブダビでGP2チャンピオンに輝くまで、コース上で陰りを見せることはなかった。そして今は、未知の国で戦うスーパーフォーミュラに高揚する気持ちを抑え切れない。
「スーパーフォーミュラはすごくコンペティティブなマシンで、走るのが本当に楽しいシリーズだってみんなが教えてくれた。とくにコーナーではすごく空力が効くしタイヤも素晴らしいから、パフォーマンスに関しては最高のフィーリングが得られるよ、って。ドライバーがいちばん好きなのは純粋に速く走る感覚だから、僕も気に入ると思うよ! 自分はどちらかというとアグレッシブなドライバーだから、アタックできるマシンだというのが本当に嬉しい。いまは鈴鹿のテストが待ちきれない気持ちだよ」
もちろん、環境の違い、仕事の進め方の違い……というふうに、戸惑うことも多いに違いない。日本で走ってきたドライバーがヨーロッパのシリーズに参戦するときと同じように。
「うん、ストフェルもヨーロッパとは違うって言ってた。違って当然だよね。でも、そこは自分で経験を積んで自分で見極めたいんだ。現時点ではまだ経験がないから、これ以上話すのは時期尚早だと思う。
僕はドライバーだから、勝つために走っている。それがモチベーションだし、最高のパフォーマンスを発揮するために全力を注ぐと約束できる。それが簡単な仕事でないこともわかっている。スーパーフォーミュラは選手権のレベルも高いし、すごく速いドライバーがたくさんいて、みんな経験が豊富だ。そのなかで僕はゼロから出発して、マシンを勉強して、サーキットを学んで、一緒に仕事をするチームの人たちだって僕にとっては新しい。開幕戦までに4日間のテストしかないから時間は限られている。いまの時点ではどんなポジションにつけられるかわからないし、最初は簡単じゃないと思う。
でも、すべての力を注いで努力することだけは確かだ。勝てないかぎり、けっして満足することはできないから――早くそこに到達できるよう、チームと一緒に最大限の力を注いでいきたいと思う」
レッドブル/トロロッソのリザーブドライバーとしてF1チームに帯同するため、17年もベースはヨーロッパに置いて、日本のスーパーフォーミュラを戦う。
「去年も本当に移動が多くて、1年で106回のフライトを経験した。今年もきっと同じ感じだと思う。でも、自分の好きなことに力を注げるんだから、本当に幸福だと感じている。僕は2月7日に21歳になったばかりだけど、今の自分が経験できていることは信じられないくらいだよ。いろんな国に行って、様々な国や文化を知る機会に恵まれて、そこで自分が成長するための努力ができるなんて、本当に幸福以上のことだと思う」
“新人ドライバー"の気持ちは清々しいほど真っ白。あらゆる先入観を遠ざけて、地に足をつけ、素直にベストを誓う姿勢が頼もしい――それは、厳しい育成プログラムを勝ち抜いてきたドライバーの特徴。ガスリ―の2017年がとても楽しみになってきた。
第2回につづく