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E-girls・石井杏奈が語る、女優とパフォーマーの両立 「どちらも挑戦するたびに発見と勉強がある」

2017年02月17日 18:33  リアルサウンド

リアルサウンド

石井杏奈 撮影=池村隆司

 何気なく過ごしたひとときが、一生の宝物のような思い出になることもある。映画『スプリング・ハズ・カム』(2月18日公開)は、そんなほっこりとした気持ちにさせてくれる作品だ。大学進学のために広島から上京することになった娘・璃子と、その背中を押すシングルファーザーの父・肇。二人で始めた部屋探しは、かけがえのない1日になった――。


参考:石井杏奈が映画・ドラマに引っ張りだこの理由ーー『四月は君の嘘』など出演作から探る


 この父娘を演じたのは、落語家の柳家喬太郎とE-girlsの石井杏奈。異色の二人かと思いきやスクリーンに映し出された姿は、どこかの街にいる本当の親子のようなナチュラルな雰囲気を醸し出していた。何気ない会話や表情から繊細な心情の変化が読み取れる。実に自然体な演技で娘・璃子を演じた石井に、今回インタビューを行った。撮影時の想いや聞くにつれて、璃子と重なる“等身大の石井杏奈”の魅力が見えてきた。(吉梅明花)


■監督からの「石井杏奈しかいない」という熱いオファー


――最初に『スプリング・ハズ・カム』の脚本を読んだ際の率直な感想は?


石井:台本をいただいて読んだときに、まず感じたのはとてもナチュラルだなということです。暖色系な気持ちになるというか、温かくて、柔らかい気持ちがあふれていたので、このまま自分がお芝居をして映像化されたらいいなと思いました。


――璃子は「どこにでもいそうな普通のたたずまい」と「その人にしか発することのできない魅力を焼き付けられる」という2点が求められる難しい役どころ。監督からは「石井杏奈しかいない」と、熱いオファーがあったと聞きました。


石井:そう言っていただけて本当にうれしいです。いつも、役を演じさせていただくときは、自分に役のキャラクターをプラスしたら…っていうお芝居をしているんです。別人になりきるというよりも、そのキャラクターに共感できたところに寄せていこうっていうイメージで。全く別の人になるのも楽しそうだなって思うんですけどね(笑)。もしかしたら、その感じが「どこにでもいそう」感につながっているのかもしれません。


――今回は、璃子のどのような部分に共感しましたか?


石井:この撮影の1年前くらいに、ちょうど私も一人暮らしを始めたんです。だから、台本を見ながら「わかる!わかる!」ってところがたくさんあって。家具とか食器を、璃子と同じように親と一緒に買いに行きました。カーテンをこんな風に選んだなーとか思いながら撮影していました。


――早くに母親を亡くした璃子は、上京すると父が一人になってしまうことを気にかけ、一人暮らしに対してちょっぴり寂しさを感じる部分もありました。石井さんの場合は、どんな気持ちで一人暮らしをスタートさせたんですか?


石井:私はもう、一人暮らし=絶対楽しいはず!っていうワクワクが大きくて、理想しか思い浮かべてませんでした。璃子と違って、東京出身なのですぐに帰ることができるので、お別れっていう感じが少なかったのかもしれません。でも引っ越しのとき、お母さんと弟が片付けを手伝ってくれて、途中で私はお仕事で外出したんです。帰ってきたら、お部屋はキレイに片付いていて、机の上にアルバムとお母さんからのお手紙が……。思わず、大号泣しちゃいました。それまでは楽しみばっかりだったんですけど、自立のときなんだっていうのを自覚しましたね。家族がこんなに応援してくれるのだから、がんばらないと!って。そのときの気持ちを思い出しながら、演じていました。


■「途中から璃子として楽しんでいました」


――共演された柳家喬太郎さんとは、距離を縮めるために毎回、稽古前に15分のキャッチボールをしていたとか。


石井:はい、そうなんです(笑)。最初は「ありがとう」とか言葉をかけながら始めて、徐々に監督が「ふたりとも大学生っていう設定で口説きながらボールを投げてみて」っていうムチャ振りもあったんですけど、すごくリラックスできました。最初は緊張気味でしたけど、すっかり喬太郎さんがいると安心するみたいな感じになって、即興でお芝居をしたり、ジェンガをしたり。楽しかったですね。お父さんと過ごしているシーンは、いつも素でいられました。本番も、セリフありきの撮影ではあるんですけど、アドリブもいっぱいで。電車に乗ってるところや、商店街を歩いているところ、買い物や、部屋で「ここがベッド……」と家具の配置を話しているシーンも、みんなアドリブなんです。


――自然な演技ばかりなのは、素が出せていたからなんですね。


石井:本当にそうだと思います。みなさんがそうしてくださったというか……。私、人見知りなところがあるんですけど、お芝居の仕事を通じて、少しずつスタッフさんとは話せるようになってきたんです。でも、まだ共演者の方だと自分から話しかけることができなくて。ましてや、今回は大先輩ばかりの現場。どうしようって思っていたときに、伯母さん役の朴璐美さんとか、みなさんのほうからたくさん話しかけてくださったんです。肩をや腕を組んで引き寄せてくれて「わー、強い女性だー」ってなりました(笑)。本当に、この作品は素のやりとりを撮っていただいたという印象です。


――もう、璃子と一体化していた感じですか?


石井:はい、あのときは璃子でした(笑)。散歩中、エキストラ役に抜擢されるシーンがあったんですけど、そのときも璃子として楽しんでいましたね。演技している上に、さらに演じるっていう感覚が、なんだか面白くて。お父さんと「え、え?」とか言いながら、オーバーに手振りをして(笑)。きっと地方から東京に出てきて、芸能人に会ったり、撮影に急に参加してほしいって声をかけられたりしたら、「東京ってこんな街なのか」ってテンション上がっちゃうだろうなとか、本当に家族できていたらどうしていたかなとか、いろいろ考えながらサイレント演技を楽しみました。


――璃子と石井さんの大きな違いは、広島弁だったのでは?


石井:そうなんです、とっても難しかったですね。広島弁って「じゃけぇ」とか「やけん」とか、印象的な語尾があってカワイイなって思っていたんですけど、それがいつ使うものなのかもわからなくて苦戦しました。広島の方が「見てられない」っていう映画にはしたくなかったので、方言を教えてくださる方にセリフを録音させてもらって、ずっと聞いていました。何回も口に出して言ってみて、抑揚の付け方をつかめたかなと思ったら、現場で方言指導の方に聞いてもらって……っていうのを、繰り返して撮影を進めていきました。アドリブも自然と広島弁になるくらい練習をしたのですが、広島の方に見ていただくのは正直「大丈夫かな」ってドキドキします。


――石井さんは、撮影中にモニターを見ない主義だとお聞きしましたが、本作でもそのスタイル?


石井:はい。もう監督のOKを信じました。以前、お仕事をご一緒させていただいた助監督さんから「モニターを見ちゃうと自分をよく見せようとするほうに意識がいって、お芝居として伝わらなくなっちゃう」と言われたことがあったんです。たしかにそうだなと思って、それからモニターはチェックしないようにしています。もちろん完成した作品を見たときに「もっとこうした方がよかったな」って思うことはあるんですけど、それが今の自分の実力なんだって思うようにしているんです。


■「監督から期待される以上のものを返したい」


――女優のときと、E-girlsのパフォーマーのときと、表現に対する考え方は変わるものですか?


石井:意識したことはなかったんですが、今思うと違うかもしれませんね。お芝居をするときは、監督がおっしゃってくださったことを守りつつ、期待された以上を返したいって思っているかもしれません。映画館にもよく行くので「このトーンは聞き取りやすいな」とか、自分がいつも感じている部分を反映させています。それに対して、E-girlsのときはみんなで合わせて一つのものを形にすることを一番に考えていますね。自分の感情を出していくというよりは、E-girlsという完成形を目指していく感じです。どちらも挑戦するたびに発見と勉強があるので、私にとっては両方とも大事なんだと思います。


――表現の幅を広げるために努力していることは?


石井:お芝居って、自分の人生で経験していないことも演じられるところが魅力的だなって思うんです。一人暮らしをする女の子という意味で、今回は役柄との共通点が多かったんですけど、厳密に言えば広島県出身でもなく、大学にも行くわけではないし、お父さんとお散歩することもあまりないんです(笑)。そういう経験してないことって、演じる上で難しい部分だと思うので、本や映画をたくさん見てできるだけ疑似体験をしていこうと思っています。そう考えると、興味を持つのも自分と同じ女子高生が主人公の作品が多いですね。自分が、この主人公だったら、こんな風にセリフを言うかな……なんて、考えたりもしますね。あ、いや、これは自己満足です、完全なる自己満ッ(照)!


――いえいえ、その夢どんどん叶えてください! 先ほど、お父さんとは散歩しないと言っていましたが、石井家の父娘関係はどんな感じですか?


石井:一人暮らしをしてからのほうが仲良くなったように思います。中学時代は反抗期もあって、うまく距離をつかめなかったんですけど、今はもうお母さんとお父さんと私でランチに行くこともあるくらい。距離が保たれた分、心が近づいたという感じですね。でも、この映画を撮影中に、もっと親孝行したいなって思いました。作品が完成したとき、お父さんとお母さんと3人で試写を見て、「また公開したら観に行く」って言ってくれたので、少しは親孝行できたのかなって、うれしくなりました。


(取材・文=吉梅明花 撮影=池村隆司)