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「劇場版 ソードアート・オンライン -オーディナル・スケール-」伊藤智彦監督インタビュー ファンの願望をすべて織り込んだ作品

2017年02月17日 17:54  アニメ!アニメ!

アニメ!アニメ!

「劇場版 ソードアート・オンライン -オーディナル・スケール-」伊藤智彦監督インタビュー ファンの願望をすべて織り込んだ作品
『ソードアート・オンライン』シリーズ(「電撃文庫」刊)初の劇場版作品『劇場版 ソードアート・オンライン -オーディナル・スケール-』が、2月18日に公開を迎える。
本作は原作小説を手がける川原 礫書き下ろしの完全新作オリジナルストーリーをアニメ化したもの。AR(拡張現実)ウェアラブルデバイス《オーグマー》によって現実世界をフィールドにして遊ぶARMMORPG《オーディナル・スケール》を主軸に物語が描かれる。
監督を務めるのはTVシリーズと同じく伊藤智彦だ。同氏にとってこれが初の劇場版監督作品となる。
今回はそんな伊藤監督にインタビューを実施。劇場版ならではの作り方、さらにTVシリーズとの違った魅力について伺った。
[取材・構成:ユマ]

『劇場版 ソードアート・オンライン -オーディナル・スケール-』
2月18日(土)全国公開
http://sao-movie.net/

■近未来的なARで展開する新たな戦い

――TVアニメシリーズから2年以上の期間を経て公開される本作ですが、どのような経緯で企画がスタートしたのでしょう。

伊藤智彦監督(以下、伊藤)
ありがたいことにTVシリーズは第1期、第2期ともにヒットしまして、それが足がかりとなって劇場版を制作することになりました。そのときは劇場版でどんな物語を描くかまったく決まっておらず、漠然と「完全オリジナルがいいのでは」という考えがあるくらいでしたね。

――伊藤さんが劇場版の監督を務めるのは今回が初めてですよね。

伊藤
そうですね。TVシリーズと比べると作画する紙も大きくて、尺の使い方も違うため苦労することもありました。ワンカットに収める情報量はどのくらいが適切なのか、音楽を使うタイミングはどこがベストなのかなど、盛り上がる場面へ持っていく方法には神経を尖らせていました。


――スタッフクレジットを見ると、伊藤さんの名前は脚本にもあります。具体的にはどのように関わっていたのでしょうか。

伊藤
川原さん(原作者・川原 礫)と連名になっていて、最初のプロットを川原さんに書いていただき、それを俺がシナリオ形式にしていきます。そして再び川原さんにキャラクターのセリフや細部の修正をお願いしました。

――ということは、ARのゲームを題材にするのもプロットを作成した川原さんの案だったのですか?

伊藤
そうですね。TVシリーズはいずれもVRゲームが題材になっており、同じものばかりでは代わり映えしないと川原さんは考えていたようです。もし劇場版でもVRだと、TVシリーズの派生にしかなりません。そこでより近未来的なARが題材に選ばれたのです。それにARだと生身の人間がゲームをすることになり、超人的な動きはできません。動きが制限されることも、TVシリーズとの良い違いになると考えたようです。もっとも、動きが少なくなるのはアニメとしては難しかったですけどね(笑)。

――結果的には現実を侵食していく、より未来的な映像になっていますよね。そういった表現の違いという点で、特に意識した箇所はありますか?

伊藤
派手なアクションを入れづらくなったぶん、MMORPGにおけるチーム戦に近い、多くの人物が入り乱れるバトルを意識しました。加えてモンスターはこれまで通り自由に動かせるので、効果的に使っていきましたね。例えば盾を持ったタンクがモンスターの強力な攻撃を受け止め、弾いた隙にアタッカーが攻撃を仕掛けるといった具合に、モンスターを含めた複数のキャラクターが淀みなく動くシーンを入れています。

――現実の世界ではARを使ったゲームは少ないですが、なにか参考にしたものはあるのですか?

伊藤
ARだけではありませんが、やはり『ポケモンGO』と、その前身である『Ingress』は大いに参考にしました。映画の企画が始まったときにちょうど『Ingress』が盛り上がりを見せていて、俺もプレイしてみたんです。当時から『Ingress』はリアルイベントを積極的に行っていましたし、『ポケモンGO』ではさらに多くの人を巻き込む力を見せつけられました。


――確かに、劇中でも街のどこかに多くのプレイヤーが集まってゲームを楽しむ姿が描かれているのが印象的でした。今回は実在する街並みも多く登場しますが、描く際に注意したポイントはありますか?

伊藤
そこは難しいところでしたね。一応本作はTVシリーズの第1作目から数年後という設定ですが、第2期のラストから数えると数週間しか経っていないのです。なので未来的な建物ばかりでも違和感が生まれてしまい、極端に変えないほうが視聴者もとっつきやすいと考えました。同様にゲームを遊ぶためのガジェット、今回で言えば《オーグマー》もあまり突飛な未来的なデザインにはしていません。

――普段からよく見る東京の街が出てくるのも新鮮でした。

伊藤
川原さんのプロットにも東京が舞台になることは書かれていたので、それを忠実に再現した格好です。俺としてもイメージしやすかったですし、見ている人にとってもアニメの中でなにが起こっているのかを想像しやすくなっていると思います。

(次ページ:エンドクレジット後も見逃さず、すべてを見てほしい)

■エンドクレジット後も見逃さず、すべてを見てほしい

――松岡禎丞さんなどシリーズを通して活躍しているキャストの方には、劇場版の収録時にお願いしたことはありましたか?

伊藤
アフレコ前に言ったのは、「歳を取ったこと、年月を感じさせるような演技をしてほしい」ということです。TVシリーズの第1期は2012年に放送され、今年で5年目。これは偶然にも劇中で流れた時間とほぼ同じです。キャストの方々には、この年月を演技に反映させてほしかったのです。

――実際に皆さんの声を聞いてみての印象はいかがでしたか。

伊藤
松岡君の声がこれまで以上に格好良くなっていましたね(笑)。この変化は5年間経ったことの証明なのだと思います。

――一方の新キャラクターを演じた方々についてはどうでしょう。

伊藤
エイジ役・井上(芳雄)さんはミュージカルを中心に活躍している方で、意外性があるキャスティングだったのではと思います。神田(沙也加)さんについては、演じるユナが劇中で歌うシーンがあり、できればキャストの方に歌ってほしい思いがありました。
キャラクターのイメージに合い、なおかつ歌唱力を持った人として神田さんの名前が挙がりました。歌に関しては、楽曲を手がけた梶浦由記さんお墨付きなので、ぜひ注目してほしいです。

――歌を歌ってもらう点でも、神田さんにお願いしてよかったと。

伊藤
アイドル然とした楽曲なら声優さんでも問題ないのですが、梶浦さんの手掛ける楽曲まで歌うとなると、選択肢はそんなに多くはありませんでした。実際に映画を見てもらえば、神田さんを起用した理由を納得してもらえると思います。


――伊藤さんから梶浦さんにオーダーを出したケースはありますか?

伊藤
劇伴とは別に劇中歌が増えることはシナリオ段階から想像できたので、そこは多めにお願いしました。「この歌はFictionJunction風で、こっちはKalafina風でお願いします」といった具合に、梶浦さんが手がけられているグループを具体的に上げてオーダーすることもありました。分かりやすいかと思って。
また同じ歌に聞こえても実は違いがあったり、細かな差で違いが生まれるようにしています。あとは日常的なシーンでは音楽をあまり使わなかったり、メリハリのある映像に仕上げようと心がけました。

――なるほど、《オーグマー》開発者である重村役の鹿賀丈史さんについてはいかがでしたか?

伊藤
専門用語がとても多い役柄ということもあり、単語のイントネーション等を違和感なく演じていただかねばならない大変な役柄でした。とはいえ井上さんや神田さんを含めた3人は舞台やミュージカルに出演されていて、さまざまな芝居を経験してきた方たちです。声優としての演技も違和感はありませんでしたね。

――では、キャラクターとしての魅力も教えてもらえますか。

伊藤
ユナに関してはまず映画を見て、歌を聞いて欲しいです。。物語のネタバレにもなるので深くは言えませんが、歌に魅力が集約されていると言っていいでしょう。井上さんが演じるエイジは、なぜARのゲームなのに超人的な動きができるのか、驚く人もいるかと思います。映画ならではの見せ方として、楽しんでもらいたいですね。

――新キャラクターだけでなく、歴代のキャストも総登場して活躍しますよね。このストーリー展開は最初から考えていたことなのですか?

伊藤
シナリオ制作を本格的に始める前、本読みのメンバーに映画で見たいものを聞きました。するとほとんどの方がオールキャストでのストーリーを見てみたいと返ってきたのです。この思いは『ソードアート・オンライン』シリーズファンの方々も同じでしょうし、ぜひ実現させたいと考えました。シナリオ会議では他にも「キリト無双を見たい」といった意見もありました。こういったファンも望んでいるであろう意見は、できるだけ取り入れるようにしています。


――それを聞くと、やはりアクションシーンも相当力が入っていそうですね。

伊藤
今ではワンシーンぐらい削れたかも、と思うくらいに詰め込んでみましたね(笑)。モンスターとの戦いから集団戦、そして人間同士の一対一など、さまざまなバトルをふんだんに盛り込んでいます。ファンの方々に喜んでいただけるのなら、我々の苦労が実ったのだと思います。

――最後に、本作を楽しみにしているファンに向けて、メッセージをお願いします。

伊藤
エンドクレジット後も見逃さず、すべてを見てほしいです。すべてを見ることで初めて作品が完結します。エンドロールで立ち上がってしまうと損をしてしまうかもしれません。ぜひ最後まで楽しんでください。