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月9は“西内まりや”をもてあましている? 『あすこん』後半に期待すること

2017年02月17日 06:02  リアルサウンド

リアルサウンド

リアルサウンド映画部

 話題は「歴代最低視聴率の更新」ばかりで、そのニュースがことごとくYahoo!トップにあげられてしまう悪循環……。さらに、ストーリーやキャストへの勝手気ままなツッコミがネット上を飛び交うなど、とにかくいい話が入ってこない『突然ですが、明日結婚します』(フジテレビ系、以下『あすこん』)。


参考:西内まりや『突然ですが、明日結婚します』は月9ブランドを取り戻せるか?


 しかし、『TVer』などでの配信数はそれなりの数値を記録するなど、ティーンから30代前半の女性に熱心な視聴者が多いのは間違いない。特に2月13日放送の4話で、神谷(山崎育三郎)が、名波(山村隆太)の目の前で強引にあすか(西内まりや)の唇を奪ったシーンは、大きな反響を呼んでいた。


 「幸せな結婚を目指すOLのラブストーリー」は、1980年代から多くの作品が手がけられてきたが、現在でも一定数以上の需要があり、西内まりやと山村隆太のコンビは鮮度十分。フジテレビや月9への逆風を差し引いても、「もっと話題になり、もっと見てもらえる」レベルの作品なのだが、どこか「惜しい」と思わせる理由は何なのだろうか。


■西内まりやを引き立てる映像の功罪


 エンディングのマネキンチャレンジを見れば分かるように、『あすこん』は全編を通して「カワイイ西内まりや」が意図的に撮られている。実際、『いつかこの恋を思い出してきっと泣いてしまう』(フジテレビ系)らを手がけた演出家・並木道子の映像はクリアで美しく、西内の美ぼうを引き立てている。


 しかし、西内は当作について、「あすかを応援したくなるストーリーだと思いました」と話していたが、そのコンセプトとクリアで美しい映像がフィットしていない。大手銀行、テレビ局、先輩・小野(森田甘路)の豪華マンションなどの華やかな空間は、1990年前後のトレンディドラマ全盛期ならともかく、浮かれた人の少ない現在では「カッコよすぎて応援しづらい」という人が多いのではないか。


 「カッコよすぎて応援しづらい」のは、そのまま西内本人にも当てはまる。身長170㎝のモデルらしい体型、アーティスト活動やバラエティ番組もこなす器用さ、謙虚で頑張り屋さんの性格……やっかみを持たれてしまうほどの万能さがあり、優等生なのだ。かつて、「10代が選ぶなりたい顔」の1位に輝いたことからも分かるように、現時点では「憧れられることはあっても、共感は集めにくい」タイプ。つまり、普通の女性を演じさせようとするのは、時期尚早なのかもしれない。


■個性あふれるヒロインで才能開花


 しかし、そこは才能あふれる西内。普通の女性は難しくても、個性あふれるヒロインの役では、同世代屈指の存在感を見せてきた。初主演ドラマ『スイッチガール!!』(フジテレビTWO、2011~2013年)は、オンのキラキラギャル姿と、オフの変顔+ダサコーデ姿を演じ分けたほか、セクシーなシーンもてんこ盛り。イメージダウンを恐れない体当たりの演技でファンをつかみ、第2シリーズまで制作された。


 さらに、2作目の主演ドラマ『山田くんと七人の魔女』(フジテレビ系、2013年)でも、男子生徒と入れ替わった女子高生をコミカルに演じたほか、キスシーンを連発。コメディのベースとなるハジけるような演技と、瞬時に人格が入れ替わるリズム感のよさを感じさせた。


 その反面、3作目の主演ドラマ『ホテルコンシェルジュ』(TBS系、2015年)では、「ひたむきに頑張る普通の女性」というキャラクター設定で、思い切りのいい演技を見せられず、ポテンシャルを出し切ったとは言い難い。現状、『あすこん』もそれと似た道を辿っているのが気がかりだ。


■期待されるテンポのいい会話劇


 今後の『あすこん』に望みたいのは、テンポのいい会話と、舞台を思わせる大きな表現力。物語の軸となる、「あすか、名波、神谷の三角関係をリズムよく、ダイナミックに見せられるか」が鍵を握っている。


 これまではスローな言葉のやり取りばかりだったが、西内、山村、山崎の3人はそろってアーティスト。セッション経験も豊富なのだから、テンポのいい会話の応酬がもっとあってもいいだろう。「3人の結婚観はバラバラでも、会話や呼吸のテンポはシンクロしている」というシーンを見せられれば、「さすがアーティスト同士」と評判を呼ぶはずだ。


 同様に、普通の男女を演じる分、現在は3人とも持ち前の表現力を封印している状態と言える。今後の展開で望みたいのは、終盤に向けてその抑制を解き、ステージ同様の表情や身のこなしを見せること。


 たとえば、結婚観の異なる3人が単に理解し合うのではなく、西内がハジけるような演技を見せたとき、数々の“対バン”で鍛えられた山村がどんな対応をするのか。ミュージカル界のプリンス・山崎がどう受け止めるのか。“共演”ではなく“競演”。それぞれが持ち前のパフォーマンスを爆発させられたら……という期待は大きい。


■作り込みも、ディフォルメも上等


 繰り返しになるが、西内は女優、モデル、アーティスト、MCなどの肩書きだけでなく、ファッションセンス、音感、運動神経などのスキルも併せ持っている、芸能人の中でも稀有な存在。どんな役を演じてもハミ出してしまう強烈な“個”があるだけに、脚本・演出もそれに負けないインパクトがほしいところだ。


 今回の役なら、「仕事がデキる」「三角関係に悩む」という枠をブチ破って、「とことんデキる」「ひたすら悩む」女性のほうが生き生きと演じられるのではないか。役の作り込みも、ディフォルメも上等。西内ならそのほうが共感を集め、応援されるキャラクターに昇華しそうな気がするのだ。


 多くのものを持ち合わせているため、心ないバッシングを受けることもあるが、それもスターの宿命。低視聴率なんてはね飛ばすくらいのポテンシャルを持っているのだから、最後まで思い切り演じてほしい。(木村隆志)