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丸本莉子 × いであやかが語る、“歌”の確かな届け方「包み込むように歌いたい」

2017年02月16日 18:13  リアルサウンド

リアルサウンド

丸本莉子 × いであやか(写真=池田真理)

 丸本莉子が、“呼びたいお客様”とセッション・トークを織り交ぜたアットホームなライブ・イベント『満月の夜の丸本さん家』をスタートさせた。丸本さん家に招かれた記念すべき第1回目のお客様は、いであやか。互いのソロライブ、トークコーナー、2人のセッションを経て、「あーちゃん」「りーちゃん」と呼び合う丸本といでの仲に加え、歌を通じて会場の観客との距離まで近くなっていくアットホームな感覚があった。


 今回、ライブでの共演を終えた丸本といでを迎えて対談を行った。当日の様子を振り返りながら、丸本、いでが今春リリースするアルバム、今後のイベントの構想に触れた。ライブ当日のトークコーナーの延長戦とも言える、互いの音楽観についての話は必見だ。(渡辺彰浩)


・「「ココロ予報」のサビのメロディーが定期的に頭の中で流れる」(いであやか)


ーー1月13日のライブ『満月の夜の丸本さん家』開催からしばらく経ちますが、その後2人で会う機会はありましたか。


いで:今度ご飯に行こうと話しているところですね。


ーーそこまで仲良くなったんですね! 改めて、お互いなんと呼びあってるんでしたっけ?


丸本:あーちゃん。


いで:りーちゃん。


ーーライブで決めたあだ名は続いているんですね。


丸本:メールでもお互い呼び合ってます。あーちゃんはメールがすごい女の子らしくて、返信が超早いんですよ。絵文字とかもすごい可愛くて。これがモテる秘訣なんだろうなとすごい勉強になります。


いで:いや、違う!(笑)。来たらすぐ返したくなるし、彩り豊かにしたい。でも、人は選びますよ。まったく絵文字を付けない人もいますし。りーちゃんだから付けてる。


ーー仲が良いのが伝わってきますね。


丸本:あーちゃん、りーちゃんと呼び合うのが初々しいというか。


いで:楽しくなってきて。メールだけ見ると付き合ってるみたい。


ーー今回のライブのきっかけが会場の月見ル君想フからのお誘いだったと当日のMCで話していましたね。


丸本:そうなんです。2マンイベントはあまり開催してこなかったというのと、毎年開催しているワンマンライブ『丸本ん家(ち)へようこそ』が会場を家に例えているので、今回も家に見立ててお客さんを呼ぶというスタンスでやりたいねというところで話が広がっていきました。あーちゃんとは2年前に一度渋谷のライブハウスで出演が一緒になったことがあって、その時からまたご一緒したいという思いがあり、今回お誘いしました。


ーーそれが2人の最初の出会いだったんですね。お互い、最初の印象はどうでしたか?


いで:りーちゃんは広島感がすごかった(笑)。広島出身で広島カープを応援されているのをTwitterで見ていたので、ライブで会った時に「あの広島の方だな」という印象がありました。


丸本:あーちゃんがデビューした年に私は上京したんですけど、その当時「雲の向こう」がCMソングに起用されていたりして、「私も東京に行ってこんな風に活躍したい」と目標に見ていたので会った時は嬉しかったですね。あの時が高校生とは……。


ーーいでさんの方がデビューは先なんですよね。以前のインタビューで、丸本さんには小さい頃に母親と松田聖子やアン・ルイス、中森明菜などを一緒に聴いて育ったと語っていただきましたが、いでさんは幼少期はどのような音楽を聴いて過ごしていたのですか。


いで:父はずっとThe Beatlesを聴いていて、アメリカ人の母はダンスをするのでダンスミュージック、チャカ・カーンとかレイ・チャールズ、キャロル・キング、Carpentersなど王道の70年代辺りの音楽をずっと聴いて子供の頃は過ごしていました。洋楽が流れるラジオチャンネルばかりを聴くというのが当たりまえの環境で育って、私も洋楽が好きだったので雰囲気だけですが一緒に歌ったりして、小学生から高校生まではそういった音楽ばかりを聴いていましたね。アイドルに夢中になっている友達とはなんとなく話だけを合わせてました。作詞、作曲をし始めたのが中学2年生の頃です。


丸本:早い!


いで:音色が好きだったピアノを習いたいと両親にお願いしたのが、小学校1年生の時でした。ピアノはピアノで、歌は歌で好きだったんですけど、中学2年生の頃に2つが合体してピアノの弾き語りをするようになって、録音にも興味を持つようになりました。その当時すぐはできなかったんですけど、レコーダーを買えばできるということを知って、ピアノと歌を録音してとなると自分の曲が必要だ、歌詞が必要だ、となってそこから歌詞を書き始めたのが始まりです。


丸本:あーちゃんは、ほぼ自分で作った歌を歌っていて、いつもすごく耳に残るメロディーだなと思う。ライブ当日も、ハンドマイクで歌っていた時とピアノ弾き語りの時とで全然響き方も違っていて、2つが楽しめたよね。あの日歌っていた「ステーション」が好きだな。


いで:嬉しい。私は、2年前のライブで一緒になった時からなんですけど、「ココロ予報」のサビのメロディーが定期的に頭の中で流れるんですよ。今回のライブでまた聴いて、改めていい曲だなと思って。あとは、りーちゃんの声はすごく印象的。リハーサルの時に目の前で聴かせてもらったんですけど、いろんなところが振動しているような倍音が出ていて、それが心地よくて。


・「それを天才と呼ぶんです」(丸本莉子)


ーー丸本さんは柔らかい、“癒しの歌声”とも言われていますけど、いでさんの芯のある凜とした歌声とセッションすることで深いハモりに聴こえました。2人で歌っていた曲の中でも小田和正さん(オフコース)の「言葉にできない」ではお客さんとの距離もグッと近くなっていましたね。


いで:お客さんがいいタイミングで歌ってくれました。


丸本:セッションで歌った曲は4曲で、お互いがこれまでやったことある曲を出し合って2曲ずつ選曲しました。松任谷由実(荒井由実)さんの「やさしさに包まれたなら」、椎名林檎さんの「丸の内サディスティック」は私で。


いで:中島みゆきさんの「ヘッドライト・テールライト」、「ことばにできない」は私が歌っていた曲です。お互いの声が合わさった時の気持ち良さはありましたね。


ーーカバー曲を歌うことへの思いについて丸本さんにお聞きしたことがありますが、いでさんはカバー曲をどのように捉えていますか。


いで:自分のために書いていただいた曲は、自分のカラーしかないじゃないですか。カバーをやるにはどなたかから楽曲をお借りするということなので、自分なりの違った一面を出せるように私だったらこういう風に味付けしようかなと考えます。私はメロディーが綺麗な曲が好きなので、選曲はバラードが多くなってきちゃうんですけど、当日ライブでも歌ったONE OK ROCKの「Wherever you are」はCMで流れてきた時に「なんて綺麗な曲なんだろう」と聴いた瞬間から歌いたいと思ったんですよ。以前はその曲に自分のルーツがあったり、「この曲を聴いて私は音楽を始めました」ぐらいの思い入れがある曲じゃないとカバーしては駄目だと思っていたんですけど、今は歌いたいと思った曲はどんどん歌っていきたいなと思っています。


ーーなるほど。イベントのMCでは、マイブームや最近観に行った映画など、まるで家でくつろいでいるように自由に話していましたね。


丸本:今振り返ると、2マンイベントなのでどちらかを初めて観る方も多かったと思うので、もう少しお互いの音楽のことについて聞いてもよかったですよね。例えば、歌う時に私はその曲の歌詞の情景を思い浮かべながら歌ったりするんですけど、あーちゃんはどういったものを思い描いてる?


いで:私もそうかな。それが新しい曲で歌詞も書き立てだったらそのまま曲に込めたことを思い浮かべながら歌うんですけど、私の場合リリースが3年前だったりして、その頃の自分の心境とはもう違ってきていたりするので、今の自分の気持ちをその曲の気持ちに当てはめて歌っているのかな。


丸本:私はその時の気持ちと歌をリンクさせて歌っているんですけど、入りすぎても駄目だし、「聴いてよ!」となり過ぎても駄目なので難しいですよね。最近はお客さんがその世界を連想しやすいように、どう歌えばいいんだろうというのは考えながら歌ってますね。歌を投げかけるじゃないですけど、包み込むように歌いたいな。


いで:気持ちを込め過ぎても引かれることがあるから。


丸本:込めなさ過ぎても感情が込もっていないと思われちゃうし。あとは、曲作りはパッと浮かぶ方? 頑張って出てくる方?


いで:それは時と場合によるかな。降ってくる時もあるし、考えても考えても出てこない時もある。いろんなパターンがあるけど、メロディーはやっぱり降ってきた曲には敵わない。


丸本:それを天才と呼ぶんです。


いで:イェイ!(笑)。


丸本:私は降ってこないんです……。


いで:でも、作ってる時に「ハッ!」って時はない?


丸本:軽い気持ちでギターを弾いていてメロディーが浮かぶことはなくて。「作るぞ!」と何曲も何曲も出して、その中から厳選したものしか楽曲としては出てこない。


いで:私も全く違うことをしていてパッと出てくるというよりかは、鼻歌を歌っていたりする時に「……今のいいかも!」みたいな時はあります。だから、全く無の状態から降臨してくることはない。


丸本:朝起きて、突如メロディーが降って来たことは?


いで:寝ている時に見てた夢の中で歌っていて、それがいいメロディーだったことはあるんだけど、ちゃんと形に残せたことはない。「なんかいいメロディーだったんだけどな」でいつも忘れちゃう。すぐ近くに携帯は置いているんですけど……。


ーーいでさんは曲の方が先に出来る方ですか?


いで:どっちもありますよ。でも、曲先の方が多いです。ほんの一言でも一番歌いたい今の心情の言葉が浮かんだら、そこにメロディーを当ててみて、いい流れだったらそこからメロディーを考えたりする。りーちゃんは?


丸本:私もまずはメロディーを何個か出して、そこから厳選したものにテーマを決めて歌詞を付けていく。なかなか作詞は苦しみます。歌詞は家で書くタイプ?


いで:家でも書くけど、周りが動いていた方が安心したりする時もあって、カフェとか人がいるところに行ってやる時もある。ノートに書いてみたり、パソコンにしてみたり。気分を常に変えてやってるかな。歌詞は本当に難しい。私もそんなにすぐに書ける方じゃないから。


ーーお2人とも歌詞を書くのは辛いと。


丸本・いで:辛い……。


いで:でも、書けた時は楽しい。「この言葉だ!」みたいにパッと浮かんできた時の気持ち良さはすごいですね。


丸本:あーちゃんの曲はライブの時と、CDで聴くのとでは全然違うよね。当日歌ってた「ステーション」は歌詞も曲も書いたの?


いで:うん。


・「スリーマンなど、いろいろ挑戦していきたい」(丸本莉子)


ーー「ステーション」は4月にリリースされるアルバム『A.I. ayaka ide』に収録される楽曲ですね。先ほども少し触れましたが、3年ぶりのリリースということで。


いで:本当に!(感慨深い表情で)。じっくり時間をかけて作ったので、より丁寧なアルバムになったというか。爪が甘いところがない。


ーー亀田誠治さんが全曲プロデュースですもんね。


いで:爪が甘いわけないですよ。たくさんのアレンジやプロデュースをされてる方なので、楽曲のアレンジや全体のバランスなどすごく勉強になりました。


ーー「ステーション」もそうですが、全体的にピアノに加えて打ち込みの要素が強い。


いで:基本、打ち込みなので、自分の声以外全てが生じゃない。自ずと声に集中して聴けるようなアルバムを亀田さんは作りたかったそうで、今作はそういった音作りなんです。これまで生音にこだわってやってきた分、今までと全く違うのがすごく楽しくて。アレンジに関しても自分が書いた曲を亀田さんにお渡しして、返ってきたのを聴いて「もう言うことなし」みたいなかっこいいアレンジだったり。制作期間がすごく楽しかったです。


ーーアルバムは、アデルとシーアをイメージしているともお聞きしました。「ずっと」は海外の音楽の潮流を感じさせるテイストです。


いで:亀田さんはそうおっしゃってましたね。今までのアコースティックなサウンドからは曲作りの段階から気持ちを切り替えて作ったので、それもかなり刺激的で楽しかったです。「こういう曲も書くんだ」みたいな自身についての発見もあって、「ずっと」はそれが一番楽しかった曲ですね。音楽観はかなり変わりましたね。ガッ! と広がった感じで。それでもまたアコースティックサウンドはやろうと思ったらできるし。ただ、亀田さんと一緒にタッグを組めたから今回の挑戦的なアルバムが作れたと思ってる。これまでの曲調と違った曲が多くできて、歌に対しても広く歌おうと思えたし、歌詞における言葉選びも変わりましたね。かなりお気に入りの作品です。


ーー丸本さんもほぼ同時期に自身初のフルアルバム『ココロノコエ』をリリースされます。今回の作品はベスト盤的な1枚だとか。


丸本:メジャーデビュー曲「ココロ予報」から最新シングルの「誰にもわからない」まで、今までのシングル曲が全て入りますし、新曲も入るので、メジャーでリリースしてからの2年間と現在の私が詰まった1枚になったなと思っています。


ーーアルバムタイトルにはどのような思いが込められているのですか?


丸本:「ココロ予報」でデビューしたのもありますが、こうして楽曲を並べてみると私の曲は心情を歌った曲が多いなと思って。ココロに響くとも言って頂くことも多いので、そんな楽曲を収録した『ココロノコエ』というタイトルになりました。


ーーなるほど。今までのシングル曲というと、すごく穏やかと言うか、日常に寄り添った作品が多いですよね。


丸本:ありがとうございます。このアルバムを経て、改めて、私は日常を特別に歌いたいんだなと思いました。非現実的なことを歌っているのではなくて、どの曲も日常のありふれたことにフォーカスしていて。日常の中で幸せを感じたり、感謝したりすることって実は難しいじゃないですか。それに気づいてもらえるような歌を歌いたいんだなと改めて気づきました。あと、私のアルバムは、いでさんとは対照的に生楽器が多いんです。それも曲の世界観を強めるんじゃないかな。また完成したらお届けしますね!


ーー楽しみにしてます! こうやってお2人の話を聞くと、音楽観は違いますが、根本の曲の作り方は似ていますね。イベントを通して、お互いイメージは変わりましたか。


丸本:すごく気持ち良く声を出されるので、一緒に歌っていたら私までそれに清められたようになりまして。楽屋では歌とはまた違ったサバサバした気持ちいい性格で、仲良くなりたいなと思いました。


いで:りーちゃんは優しい人なんだろうなというのがすごく伝わってきました。気遣いをしてくれるし、こうして仲良くなりたいと言ってもらえるのは誰だって嬉しいじゃないですか。2年前のライブで1回しか一緒になったことがなかったのに、イベントの第1回目にこうやって呼んでもらえたのも嬉しいですし。気持ちも良かったし、ずっと楽しいライブでした。


丸本:ありがとうございます。


ーー『満月の夜の丸本さん家』はこの先どういったイベントにしていきたいですか。


丸本:今回、すごくアットホームなイベントになったんですけど、回を重ねる毎にもっと家の感じを出していきたいなと思いました。家具をステージに置いたり、見た目から入るような。


いで:ソファーとか置いたり(笑)。


丸本:あとは、お土産をお互い用意したり。ツーマンに限らず、スリーマンなど、いろいろ挑戦はしていきたいですね。まだ手探りですが。トークはトークでテンポ良くしていきたいです。


ーー今後、どういったゲストを呼びたいと思っていますか。


丸本:女性の企画って女性が多いイメージがあるけど、そういうところにはこだわらずに男性も呼んでみたいですね。ほかにもインストバンドとか音楽に限らず様々なジャンルのゲストを考えています。セッションするとすごく勉強になるし、刺激になる。


ーーまた何回かして、いでさんを呼んだりしたら面白いですよね。


丸本:1回来たらもう来ちゃ駄目とかはないので、是非また遊びに来てください。


いで:手土産持って行きます。


丸本:宮崎牛とかマンゴーとか。


いで:えー!(笑)。欲しがりがすごい(笑)。
(取材・文=渡辺彰浩)