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majikoの“感覚”が生む、アレンジや表現の個性「赤信号は止まることを許されてる時間なんだ」

2017年02月16日 17:03  リアルサウンド

リアルサウンド

majiko

 ネットでその歌声が注目され、すでに2枚のアルバムと1枚のシングルをリリース、さらにライブ・イベントでの圧倒的なパフォーマンスも話題となった「まじ娘」が、majikoとなりついにメジャーデビュー。新人というには驚異的な実力と実績をすでに持つ彼女の最新ミニ・アルバム『CLOUD 7』は、何にもどこにも媚びずに自己の最深部にまで潜って掴み取った一枚。目の前にかざした手のひらも見えないほどの闇にきらめく詞世界、息もできないほどひりついたサウンド・メイク、さらにはアレンジ、イラストレーションと、広大な地下世界を操る女王・majiko、その登場は、降臨と呼ぶにふさわしい。majiko、第一声をお届けする。(谷岡正浩)


(関連:米津玄師、阿部真央、カノエラナ、majiko、赤い公園…作り手の“存在”がリアルに伝わる作品たち


■自分で吐き出したものを自分で食べてるみたい(笑)


ーーはじめにイメージした作品の全体像は、どんなものだったんですか?


majiko:わりと展開にバリエーションがあって、上目だなって。


ーーうえめ?


majiko:“CLOUD 7”って天国の別名だったり、あと他にも、いろんな意味があって、「天にも昇る心地」ってテンションが上がった状態を表したりする言葉らしくて。


ーーなるほど。上目ね(笑)。これまでの作品もそうなんですけど、アルバム1枚ごとに全体のイメージというか色というか、その違いがくっきりしていて、1枚の中で地続きの世界観が楽しめるという感覚があるんですよね。まるで一冊の長編小説を読むような。


majiko:そうですね。とくに今回は曲が出来た時期はバラバラなんですけど、世界観はより統一されていますね。1曲目の「prelude」が前奏としてあって、2曲目の「SILK」から6曲目の「Lucifer」まで、上から下に堕ちていく群像劇としてアルバムのストーリーを創っていこうって最初に思いました。だから最後の曲は「Lucifer」、堕天使じゃないとダメだったんですよ。で、「SILK」のイメージは蜘蛛の糸なんです。それが下に下に降りて行って、でも最後「Lucifer」には辿り着かないというのが全体でイメージしたストーリーですね。わたし、自分でイラストも描くんですけど、曲の世界を1曲ずつイラストにしていくことで、よりハッキリ曲が自分の中で見える、というのがあるんですよ。


ーーそうやって自分の曲を違う表現に変換して、曲の世界観を把握するんですね。


majiko:自分で吐き出したものを自分で食べてるみたいですね(笑)。


ーー僕の『CLOUD 7』を通して聴き終わったイメージは、夜だな、と思いました。


majiko:すごいわかる(笑)。わたしも並べてみて、めっちゃ夜だなと思いました。だんだん夜が深まっていく感じですよね。


ーーホリエアツシ(ストレイテナー)さんとは今回どのようなやり取りだったのでしょうか?


majiko:サウンド・プロデューサーという立場で、サウンド面をすごく見ていただきました。


ーー1stアルバム『Contrast』(2015年)からのお付き合いですもんね。


majiko:高校時代からストレイテナーが好きでずっと聴いていたので夢みたいな話です(笑)。


ーーではここから1曲ずつお話を伺いながら、これまでどういう音楽を聴いてきたのかとか、そのへんのことも合わせてお聞かせください。まず、1曲目の「prelude」は短めのインスト曲ですが、これは宅録ですか?


majiko:そうですね。


ーー浮遊感のあるサウンド・スケープが、レイ・ハラカミさんを好きで聴いてきたのかなと思ったんですが。


majiko:大好きなんですよ。ディレイの感じとか、相当影響は受けていますね。


ーーつづく2曲目の「SILK」は元AIR、現Laika came backのCozyこと車谷浩司さんの曲です。AIRにも思い入れがありそうですね。


majiko:もうめっちゃ好きで。車谷さんにお会いしたときも、あの曲が好きでとか、あのときのライブがどうでとか、語りまくったらちょっと引かれました(笑)。で、「SILK」を最初に聴いたときにAIRの「触れていたい」の感じがちょっとあって、大好きな曲だったから嬉しくて、さっそく車谷さんに「あの、ここって『触れていたい』のニュアンス入ってますか?」って訊いたら、ニコッとしてくれました(笑)。


ーーアカペラから入って、最初のキックの入るタイミングが半分遅れて来るところなんか、それだけで曲の世界がパクッと口を開けて飲み込まれていく感じがしてたまらないんですけど(笑)。ボーカリストmajikoとしてはどう挑んだわけですか?


majiko:もうひとつ上のキーで歌ったら抜けもよくなると思うんですけどどうですかね? と言ったら、車谷さんは「明るい曲にしたくない」っておっしゃって。majikoに合う世界観っていうのはどこか影のあるものだから、救いを感じるけど感じられないような、ちょうどいい具合のキーでっていうことで、今のものになりました。そういうやり取りがあったので、感情を抑えて淡々と歌うようにしました。でもこの歌詞の不思議なのは、どこか自分に言い聞かすような箇所がところどころあって。そういう部分はどうしても感情が乗っちゃいますね。


ーーまたここでも自分で自分を見つめるというか。そのどっちつかずな感じが完成した曲にもすごく表れていると思います。まさにオルタナティブな1曲ですね。


majiko:わたしの好きな感じというのを車谷さんはすごくわかってくださって、だから言葉もよりはっきり聴こえるものを選んだとおっしゃっていましたね。たとえば海外の人が聴いたときに、意味はわからなくても気持ちいいと思える歌詞にしたって。


■もし音楽がなかったら、どうなってたんだろう?


ーーさきほど曲順はアルバム全体のストーリーがあって、ということをおっしゃっていたのですが、じつはこの曲順、majikoさんのこれまでの歩みを俯瞰で見渡せるような順番にもなっているなと思って。つまり、宅録から始まって、次の「SILK」は車谷さんの楽曲、そして3曲目以降はアレンジまでご自身の曲という。「宅録、歌い手、アーティスト」という成長の記録がそのまま記されているなあと思いました。そこで、歌い手としてのキャリアを振り返ってお訊きしたいと思います。キャリアの出発点としてボカロPの曲を歌うところからはじめて注目され、そしてホリエアツシさんやlocofrankの森勇介さん、the band apartの荒井岳史さんなどに提供してもらった曲を歌ってきました。歌うことに意識的になったのはいつ頃ですか?


majiko:あの、長い話になるんですけどいいですか?


ーーもちろん。


majiko:中学校に軽音楽部があって、そこに2年から入ったんですよ。ボーカルとして。で、3年になる時にバンドから先輩が抜けてしまって、ドラムがいなくなったんです。しょうがないから、じゃあジャンケンして負けたやつがドラムなって(笑)。わたし勝ったんですよ。でもギターの子もベースの子も1年の頃からずっとそれぞれの楽器やってたから、なんか変な空気になって、じゃあいいよわたしがドラムやるよって。それでドラム・ボーカルになって一生懸命練習しました。3年の夏に『Music Revolution』(※ヤマハ主催の23歳以下によるアマチュア・ミュージシャンのコンサート)に出たんですよ。思い出作りくらいの気持ちで。周りのバンドもわたしたちよりみんな年上だし、白目向いて歌ってる人がいたりして、こえーってなって(笑)。で、結果発表でいろいろな賞が発表されていくなか、グランプリ誰かな、あの白目の人かなあとかぼんやりしてたら、わたしたちの名前が呼ばれて。それからZeppで行われた大会に進んで、そこはダメだったんですけど、推薦枠で全国大会に行けたんですよ。そしたらそこでも賞をもらったんです。それは幼いわたしにとって甘い蜜というか、アイデンティティになるくらい大きな出来事でした。でも周りからは、ドラム・ボーカルがひとつのスタイルみたいに見られるようになって、それをどこかで窮屈に感じるようになってしまったんですよね。その鬱憤晴らしが、ニコニコ動画だったんです。好きな歌をうたって投稿するっていう。それが高2のときで。だんだんそこでも認められるようになってきたのが嬉しくて、よし、ボーカルをちゃんとやろうと。高校を卒業して専門学校に入りました。


ーー専門学校はどうでした?


majiko:ちょっと合わなかったんですよね。それで、父と母がやっている専門学校に編入しました。


ーー最初からご両親の学校に行かなかったのはどうしてですか?


majiko:やっぱり親子だとケンカになっちゃうので、やめとこうと(笑)。


ーーそういうご両親の元で育ったのであれば、歌うことや音楽はいつもそばにあったんですね。


majiko:ありました。小さい頃は家でボーカル・トレーニングのレッスンを母がやっていたので。そういう風景が日常でしたね。


ーー3曲目の「ノクチルカの夜」、これはすごい曲ですね。


majiko:よく書いたなと思います。舞浜の海辺で酒でも飲もうと歩いて向かっていたら途中で豪快に転んで。つまみとかそのへんに散乱して、服は破れてないのに足は血だらけで、もうほんとになんなのって。それで赤信号で止まって待ってたんですけど……その時に、このまま赤のままならいいのにって思ったんですよね。


ーーそれってどういう感情ですか?


majiko:青は進まなきゃいけないんですけど、赤信号は止まってていいんだって思ったんですよ。止まることを許されてる時間なんだなって感じたんですよね。そこから家に帰って曲を作ろうと思ったらエレキギターのシールドが壊れてて、この曲はピアノで作りました。


ーーそういう状況が導いた心象風景だったんですね(笑)。歌詞の<Please rescue me from here>のバックでピアノのアルペジオが始まって、そのままピアノ・ソロになだれ込んでからのサビ、という展開が斬新でした。きっと赤信号で止まってる気持ちがすぐにサビに行かせなかったんでしょうね(笑)。


majiko:あははは。


ーーアレンジがすごく感覚的ですよね。歌の感情と曲の構成がくっついているような印象です。


majiko:ああ、そうかもしれない。自分でもそんな感じがしますね。だから1番と2番でドラムのパターンが違ったり。この曲で言うと、2番の歌詞にある<こんな歌が何になるんだ>という部分でいかにハッと驚かせるかがポイントというか。言葉の意味としては皮肉なんですけどね。


ーーだからそのもっとも強い感情をぶつけるための長いタメなんですよね、それまでは。曲の構成というより感情の流れと考えたほうがすっきりするんです。あのう……世の中との歪みみたいなものって感じていますか?


majiko:めっちゃ感じてると思いますね。やっぱり、学校が楽しくなくて引きこもってる時期もありましたし、親が亡くなったということもありましたし、そういうのがグルグルしたなかで……でもそういうのがひとつでもなかったら、こういう曲は書いてなかったと思います。そもそもあえて舞浜の河原で酒なんて飲まないと思うし(笑)。


ーー音楽がmajikoさんのそばにあるという時期から、いつしかmajikoさんの中にあるという状態になったんでしょうね。


majiko:本当に大切なものなんですよね。わたしにとって音楽って。もし音楽がなかったら、どうなってたんだろう?


ーーこの曲のアレンジにはジャズのテイストが含まれますが、ジャズは聴いていたんですか?


majiko:両親がジャズ畑だったんですよ。70年代の有名なロックの曲をジャズアレンジで演奏するバンドを組んでたりして。家でもジャズがずっと流れてて。もちろんロックもありましたし。そういったものとは普通に接していましたね。


ーーそこからどのようなものを聴いてきたのでしょう?


majiko:小学校の頃にはマレーシアにいたこともあって、そこではイスラムの音楽にも触れていました。だから民族音楽も好きなんですよね。それで、高1のときに組んでいたバンドの子が、「今度これコピーしない?」って持ってきたのがストレイテナーだったんです。そこから邦楽のロックも聴くようになりました。専門学校では、ありとあらゆるジャンルの曲を歌わされましたね。チック・コリアとか、チャカ・カーンとかノラ・ジョーンズとか。


■いろんな角度から自分の表現を見つめて向き合っていきたい<


ーー4曲目の「昨夜未明」は、もうこれ、Black Sabbathですね(笑)。


majiko:(笑)。これは、元々はとあるドラマの曲用に書いたんですよ。結局使われなかったんですけど。だから歌詞の成り立ちが少し特殊というか、わたしが人を殺したとしたらどこに隠すだろう? っていうところから始まった曲ですね(笑)。いっときわたしのスマホの履歴が「死体 隠す」になってて、そこの表示だけ見ると、かなりヤバイ人でした(笑)。


ーーそれにしても、デビュー作にしてこれほどの最深部を披露するとは、驚きです。


majiko:みんなに言われます(笑)。ディープだねって。でも自分の中を掘り下げると、やっぱり暗い感じのものが出てくるんですよね。メロディも歌詞も一緒に出てきますから。


ーーそうなんですね。


majiko:まず最初にオケを作ってから、歌詞とメロを同時進行で作りますね。


ーーオケを最初に作るって、めずらしいですね。つまりイメージをかたちにするっていうことなんですかね?


majiko:はい。たぶんそれは、母の授業の影響なんですよね。教室にカラオケがあって、適当に番号を入れるんですよ。それで出てきた曲をガイドメロディとかなしでオリジナルで歌うとていう授業があって。それが得意だったんですよね。オケが最初にあるなかでメロディと言葉を紡いでいくというやり方が。


ーーそれとすごいのは、作詞作曲にとどまらず、アレンジまでやってしまうということですよね。


majiko:これもよく言われるんですよ。デモを作るときも、こんなにがんばんなくていいよ、アコギ1本でやってくれたらわかるしって。でもギター入れたらベース入れたくなるし、ドラム入れたくなるし。どうしてもかたちにしたくなっちゃうんですよね。そこだけは頑固なんですよ。普段大雑把なくせに。


ーーそれはやっぱり、さっき言ったみたいに、感情と歌がそもそものはじめからくっついているからでしょうね。


majiko:ミックスもマスタリングも細かいところまで意見を言わせていただきましたし。こだわりはすごくありますね。


ーー最初にオケを作ったときに完成形のイメージはあるんですか?


majiko:あります。ここから良くなるしかないだろうっていう状態を作っておいて、そこから好きにオカズを入れたり、このオケを起点にしてバンドメンバーの人たちに表現してもらいます。


ーー言葉とメロディが一緒に出てくるとおっしゃいましけど、それは断片である場合が多いんですか?


majiko:はい。


ーーというのも、次の「shinigami」がすごく不思議な曲で。言葉とメロディが全部断片なんですけど、majikoさんのボーカルの表情の違いで統一した世界観を構築しているんですよね。


majiko:独り言に近い感覚かもしれない。でも一貫したイメージはあって。すごく大切な曲なんですよね。冒頭の部分には、高校生の頃にいつもギターでポロポロ弾いたり口ずさんでいた、自分だけが知っている自分だけの曲を入れました。そのあとの部分は、このアルバムの制作期間に作ったんですけど。すごく好きなフレーズだったからずっと曲にしたくてトライしてはダメで、みたいな感じだったんですよね。最初の部分からどうしたらいいかがずっとわからなかったんですよ。だから、今だからこそできた曲っていう感じですね。


ーー最後の「Lucifer」なんですけど。歌詞はロシア文学かというくらい主人公が濃厚な告白をするんですけど、一方でアレンジはパッと光が射すようなイメージがありますね。


majiko:あ、まさに、これは物語の最終章ですから、神々しい感じを表現したかったんですよね。途中でフラメンコ・ギターを入れたりとか。じつはこの曲のあとにシークレットでもう1曲あるんですけど……。


ーーえ、そうなんだ!


majiko:はい。だから本当はトータル7曲なんです。


ーーなるほど。『CLOUD7』、天国に至るわけですね。これからやってみたいことはありますか?


majiko:いろいろつなげていけたらいいなと思うんですよ。ライブもそうだしイラストもそうだし、スタイリングも含めて。そうやっていろんな角度から自分の表現を見つめて向き合っていきたいですね。