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「こいつが万引き犯だ!」画像公開続け5年以上、ある書店が張り出しにこだわる理由

2017年02月16日 15:53  弁護士ドットコム

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万引きが疑われる人物の画像を、店内やウェブ上に公開するケースの発覚が相次いでいる。ネット上では「やりすぎ」「私刑ではないのか」との批判もある中、店側はどういう考えで掲示を続けているのだろうか。


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読者から情報提供を受けた弁護士ドットコムニュースは、「犯人」写真を店内に張り出している書店を訪問。店名や画像を出さないことを条件に、店長から胸の内を聞いた。


この店長は、HP上にモザイク処理した「万引き犯」の画像を掲載していた「めがねおー」などの例を挙げ、「このご時世、まずいかも知れないということは分かっている」とコメント。それでも張り出しを続ける理由について、「万引き犯は常習者が多い。これくらいしないと次の被害を防げないじゃないですか」と語った。


●監視システムに100万円を投資、レジのモニターで一覧

「こいつが万引き犯だ!!」ーー神奈川県にあるその書店には、店内のあちこちにA3サイズのボードが計6枚も貼られている。そこには、「X月Y日Z時頃発生した万引きの犯人画像です」の文言とともに、監視(防犯)カメラから抜き出した「犯人」の顔が鮮明に写っている。映像は警察に提出済みだそうだ。


店長によると、この店では5年以上前から「万引き犯」の写真を掲示している。「特にこの2~3年で監視カメラの映像は飛躍的に良くなりました。引き伸ばしても、顔がハッキリ分かるんだ、ということを知らせる意味もあります。そしたら二度と来れないでしょ」(店長)


店は入り口側がコミック売り場、奥が18禁コーナーという作り。けっして広くない店舗には、たくさんの棚が並び、通路は人ひとり通るのが精一杯だ。天井を見上げると、いたるところに監視カメラ。その数10台以上。各カメラの映像は、レジ上のモニターで一覧できる。およそ100万円を投資した。


「AV(アダルトビデオ)メーカーの営業さんに聞いたんですが、うちみたいに張り出しをやっている店舗は結構あるみたい。限られたスペースで商品を置こうとしたら、死角が増え、その分監視カメラが必要です。仕事が増えるから、本当は映像のチェックはしたくないんですけどね」


それでもやらざるを得ないのは、万引き被害がなくならないからだ。この店舗では、年間10万円ほどの被害が出るという。「今張り出している犯人が盗ったのは、せいぜい2000円程度のAV。それでも、店が穴埋めするには、3倍近く売らないといけない。本の場合はもっとです」。店長の言葉に力がこもる。


●逃げ出した万引き犯とバッグの引っ張り合いになったことも

取材したとき、働いていたのは店長と従業員の女性の計2人。スタッフの少なさや女性がいることも監視強化の理由だという。


「『現行犯』は怖いんですよ。入り口には、会計前の商品に反応する『防犯ゲート』があります。でも、鳴ってから追いつくのは困難。仮に追いついても、向こうは死に物狂いで、何をするか分からない。であれば、『盗られない環境』を作るしかないでしょう」


店長は数カ月前、逃げ出した万引き犯を捕まえた。最後はバッグの引っ張り合いになり、血豆や擦り傷ができたそうだ。「ナイフとか持っていなくて本当に良かったですね」と女性スタッフが声をかける。「従業員にはそこまでのリスクは負わせられない」(店長)


そこにフルフェイスのヘルメットをかぶった客が入店、奥の18禁コーナーに消えていった。肩には大きなバッグが2つ。女性スタッフが慌てて、監視モニターに目を凝らす。


「あんな格好、どう考えても怪しいじゃないですか」と小声で店長。こうした人物の映像は、後で見返すこともあるという。「こうやって、お客さんを疑わざるを得ない。お客さんだって、我々や監視カメラの視線をいつも感じて、居心地が悪いでしょうね…」


●法的リスク考え、「100%の自信があるものだけ」

監視カメラの画像を掲示することは、法的にリスクのある行為だといえる。具体的には「名誉毀損」に当たる可能性がある。小野智彦弁護士によると、ポイントは監視カメラに「誰が見ても万引き犯だと特定できるような不審な行動」が映っていたかどうかだという(詳細は2月9日付記事 https://www.bengo4.com/c_1009/c_1203/n_5682/)。


この点について、店長は「うちはネットにはさらしていないし、グレーは出せない。監視カメラで100%の自信があるものだけ」と強調する。


「売上が大きな店なら、盗られることを見越した経営ができるかもしれない。でも、うちではそういうことができないんですよ」。店長はそう言って、理解を求めていた。


(弁護士ドットコムニュース)