トップへ

「立ち小便」の法的論点…駐輪場訴訟「街路だからダメ」、男性が「逆転有罪」

2017年02月16日 10:33  弁護士ドットコム

弁護士ドットコム

記事画像

大阪・福島区のビルの駐輪場で立ち小便をしたとして、軽犯罪法違反の罪に問われ、1審で無罪判決を受けた男性に対して、大阪高等裁判所は2月7日「駐輪場は道路に接していて、立ち小便を禁じた街路に当たる」として、科料9900円の有罪判決を言い渡した。


【関連記事:コンビニのトイレ「スタッフに一声かけて」無視して勝手に利用、犯罪になる?】


この裁判では、現場の駐輪場が、軽犯罪法が定める「街路または公衆の集まる場所」に当たるかどうかが争われていた。報道によると、1審では、現場は公園などと比べて極めて狭く、最大15台の自転車しか止められないと指摘。「公衆の集まる場所」には当たらないとして無罪判決を言い渡し、検察が控訴していた。


2審の大阪高裁は、駐輪場が「公衆の集まる場所ではない」としつつも、道路に面していて柵や段差がないことから、法律で立ち小便を禁じた「街路」に当たるとして、求刑通り科料9900円の逆転有罪判決を言い渡した。


今回問題になったのは、立ち小便の現場が「街路または公衆の集まる場所」に当たるかどうかだった。では、他に、どのような場所で立ち小便をすると犯罪になる可能性があるのか。たとえば、他人の家の敷地内など私的な場所で立ち小便をした場合や、ペットの犬が散歩中にマーキングをすることはどうなのか。坂野真一弁護士に聞いた。


●他人の家の敷地内の場合

おそらく立件されることは極めて例外的だと考えられますが、あくまで可能性の話として考えてみます。


まず、他人の家の敷地内で立ち小便をした場合ですが、立ち小便のための敷地の立入り自体、正当な理由とは言い難いので、住居侵入等の罪(刑法130条)に該当する可能性があります。


また、放尿によって、他人の物を事実上または感情上、その本来の目的に使うことができない状態にさせた場合は、器物損壊罪(刑法261条)に該当する可能性があります。


可能性が低いとは思いますが、立ち小便は不可避的に男性器を露出するわけですから、やり方や状況によっては公然わいせつ罪(刑法174条)が問題になり得る場合も考えられないわけではありません。


(軽犯罪法1条20項「公衆の目に触れるような場所で公衆にけん悪の情を催させるような仕方でしり、ももその他身体の一部をみだりに露出した者」に該当する可能性もありますが、性器の露出は一般的にはわいせつ行為として考えるべきではないかとの文献がありました)


●自分の家の敷地内の場合

放尿によって、自分の物(自分の物でも差押えを受け、物権を負担し、賃貸した物は別)以外の物を、事実上または感情上、その物を本来の目的に使うことができない状態にさせた場合は、器物損壊罪(刑法261条)に該当する可能性があります。


ことさらに外部に見せつけるような態様であれば、性器を露出するわけですから、やり方や状況によっては公然わいせつ罪(刑法174条)が問題になり得る場合も考えられないわけではありません。


●街路から私的スペースに向かってする場合

軽犯罪法は1条26項で「街路又は公園その他公衆の集合する場所で」「大小便をした」者を処罰すると規定しています。「街路に向かって」とか「街路に対して」と規定しているわけではありません。したがって、法律の文言解釈からすれば、立ち小便をした場所が街路であるなら、軽犯罪法規定の行為に該当すると考えて良いのではないかと思います。


こちらも、他人の敷地内で行った場合と同様、器物損壊罪、公然わいせつ罪の可能性が考えられるでしょう。


●ペットのマーキング行為は…

動物愛護管理法第7条には、次のような規定があります。


「動物の所有者又は占有者は、命あるものである動物の所有者又は占有者として動物の愛護及び管理に関する責任を十分に自覚して、その動物をその種類、習性等に応じて適正に飼養し、又は保管することにより、動物の健康及び安全を保持するように努めるとともに、動物が人の生命、身体若しくは財産に害を加え、生活環境の保全上の支障を生じさせ、又は人に迷惑を及ぼすことのないように努めなければならない」


つまり、動物を所有している人には、その動物を適切に飼育することや、動物が他の人に害や迷惑を及ぼすことがないよう気をつける義務があるということです。この規定は努力義務であり、違反しても罰則はありません。


しかし、いわゆる動物愛護条例(例えば、大阪府動物の愛護及び管理に関する条例3条3号には「公共の場所並びに他人の土地及び建物等を不潔にし、又は損傷させないこと。」という規定があります)により、飼主が措置命令を受ける可能性があり、飼主が措置命令に違反した場合は、法的な制裁を受けるおそれがあります。


ただ、マーキングはペットの本能に根ざした行為ですから、これをさせないようにする措置命令が可能かどうかは今後の判断に委ねるしかなさそうです。


ペットが他人の物にマーキングをしたことにより、事実上または感情上その物を本来の目的に使うことができない状態にさせた場合は、器物損壊罪(刑法261条)に該当する可能性がゼロではないと思います。


また、実際には考えにくいことではありますが、ペットの異常な吠え声によって人がノイローゼになった場合は、傷害罪に該当する可能性があるといわれています。難しい問題ではありますが、それと同様に考えれば、異常なマーキング行為によって人がノイローゼになった場合、(過失)傷害罪に該当する可能性も否定できないのかもしれません。


(弁護士ドットコムニュース)



【取材協力弁護士】
坂野 真一(さかの・しんいち)弁護士
ウィン綜合法律事務所 代表弁護士。京都大学法学部卒。関西学院大学、同大学院法学研究科非常勤講師。著書(共著)「判例法理・経営判断原則(中央経済社)」。近時は火災保険金未払事件にも注力。
事務所名:ウィン綜合法律事務所
事務所URL:http://www.win-law.jp/