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エド・シーラン、新作アルバム『÷(ディバイド)』に高まる期待 先行シングルから内容を占う

2017年02月15日 19:02  リアルサウンド

リアルサウンド

エド・シーラン

 2月13日、米国ロサンゼルスのステープルズ・センターにて「第59回グラミー賞授賞式」が開催され、アデルが主要4部門のうち「最優秀アルバム賞」を含む3部門と「最優秀ポップ・ソロ・パフォーマンス賞」、「最優秀ポップ・ボーカル・アルバム賞」の5部門を受賞した。


 ビヨンセとともに受賞有力候補の一人だったジャスティン・ビーバーは、主要2部門「年間最優秀アルバム」と「年間最優秀楽曲」を含む計4部門にノミネートされていたものの、惜しくも賞は逃す結果に。とはいえ彼が、グラミーで主要部門にノミネートされたのは、2012年の「最優秀新人賞」と「最優秀ポップ・ボーカル・アルバム賞」以来の快挙。2009年にティーン・アイドルとしてデビューし、世界的な人気を集めるも「お騒がせセレブ」として長らく名を馳せていたが、これが名実ともに「実力派アーティスト」としての、完全復活の足がかりとなったのは間違いないだろう。


 ちなみにノミネートされた「Love Yourself」は、英国のシンガー・ソングライター、エド・シーランとの共作。これまで何度も別れては、復縁を繰り返してきた女優セリーナ・ゴメスとの「決別宣言」であり、それでもなお葛藤を抱えたような、ほろ苦い歌詞とジャスティンの歌声が印象的だ。シーランとの共作はこれが初めてだが、彼がドタキャンしたチャリティ・コンサートの代役をシーランが務めたり、「シングル発売カウントダウン・ビデオ」にシーランを登場させたりと、以前から交流はあったようだ。


 エド・シーランは、1991年生まれの25歳。イギリス東部サフォーク州に生まれ、11歳の時にアイルランドのフォークシンガー、ダミアン・ライスと出会い作曲をスタートする。16歳でロンドンに移住し本格的に音楽活動を始めた彼は、2011年にメジャーレーベル・Atlantic傘下の〈アサイラム〉と契約。9月にはメジャー・デビュー・アルバム『+』をリリースし、全英ヒットチャートの首位に輝いた。2014年には、ファレル・ウィリアムスやリック・ルービンらをプロデューサーに迎えたセカンド・アルバム『x(マルティプライ)』をリリース。翌年の「第58回グラミー賞」では、「最優秀アルバム賞」と「最優秀ポップ・ボーカル・アルバム」に輝いている(この辺りも、ジャスティンとの浅からぬ因縁を感じてしまう)。


 シーランの楽曲は、美しく洗練されたメロディと、アコギの響きを生かしたオーガニックなバンド・アンサンブルが特徴である。抑揚をつけたソウルフルな歌い回しは、陽気な中にも狂おしいほどの切なさが内包されており、彼の大先輩かつ、大の仲良しであるエルトン・ジョンにも通じるものがある。そんな彼の非凡なソングライティング能力は、多くのミュージシャンを魅了し、これまで数多くの楽曲提供を行なってきた。


 例えば、今年のフジロックへの出演も決まったMajor Lazerが、デンマーク出身のシンガーMØ(ムー)と、ジャスティン・ビーバーをフィーチャーした昨年のシングル「Cold Water」は記憶に新しい。お互いに「親友」と呼び合うテイラー・スウィフトとは、2012年のシングル「Everything Has Changed」で、曲作りだけでなくデュエットも披露している。One Directionには、「Little Things」(2012年)や「Night Changes」(2014年)など5曲を提供。他にも、Rixtonの「Hotel Ceiling」(2015年)やヒラリー・ダフの「Tattoo」(2015年)、The Weekendの「Dartk Times」などで、作曲(もしくは共作)を行なってきた。


 さて、そんなエド・シーランが、通算3作目のオリジナル・アルバム『÷(ディバイド)』を、3月3日にリリースする。


 ファンなら周知の事実だが、前作『x(マルティプライ)』のリリースと、その後のツアーを終えた彼は、本作の制作に集中するため一昨年の12月からSNSを休止していた。
 
 それからちょうど1年後、TwitterとInstagramに意味深な画像を次々と投稿し、後にそれがアルバムの先行シングル「Shape Of You」と、「Castle On The Hill」であることが判明。今年1月6日にそれぞれデジタル配信されると、前者がビルボードチャートの1位、後者が6位を記録。同じアーティストによる初登場楽曲が、2曲同時にトップ10入りするのは、これが初めてとなる。ちなみにシーランの過去最高位は、「Thinking Out Loud」の2位。


 「Shape Of You」は、元々はリアーナのために作っていた楽曲だったが、歌詞が彼女向きではなかったため自分で歌うことにしたという。エレクトロ・ポップ調の陽気な楽曲で、これまでの彼の作風にはあまりなかった新機軸だろう。「ボクシングジムを舞台にした、映画『ロッキー』風の物語。と、見せかけて...?」という、奇想天外なラストを迎えるMVも楽しい。なお、今年のグラミー賞授賞式でシーランは、この曲をフルコーラスで披露していた。


 ベニー・ブランコをプロデューサーに迎えた「Castle On The Hill」は、シーラン自身の少年時代に想いを馳せた楽曲である。力強いリズムが躍動感たっぷりのアンセミックなナンバーで、歌詞の中では、エルトン・ジョンの楽曲「Tiny Dancer」(1972年)のことも歌っている。なお、MVはシーランの故郷、サフォーク州フラミンガムで撮影されている。シーランそっくりの役者が、若き日の彼を演じているのも見どころの一つだ。


 先日、新作のプロモーションのため来日したシーラン。『スッキリ!!』(日本テレビ系)と『NEWS ZERO』(日本テレビ系)に生出演し、「Castle On The Hill」と「Shape Of You」をそれぞれ披露した。今の時点ではアルバム『÷(ディバイド)』の全貌は分からないが、先行シングル2曲を聴く限りでは、前2作とはかなり異なるテイストになりそうな気がする。


 「みんながアルバム『÷(ディバイド)』に期待できるよう、異なった側面を持つ2曲でカムバックしたかったんだ。この2曲に対するみんなの反応は本当に素晴らしくて、一刻も早くみんなと残りの曲をシェアしたいね」公式サイトより。


 そう語っていたシーラン。これまで以上に深みと広がりを持ったアルバムの到着を期待したい。(文=黒田隆憲)